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僕と彼らの異世界譚  作者: 浮魚塩
プロローグ
1/55

─1─

継続力のリハビリ。


「異世界転生最強ものって気分いいよな!」


 僕の友人はよくそんなことを口にしていた。


「俺もそんな主人公やってみてぇー」


 下校時の他愛のない会話。

 僕も友人も勿論、そんなことあり得ないと分かっている。

 空想の上での楽しみだ。

 それに僕はそこまで異世界に憧れを持っていたわけじゃない。

 そりゃ全く興味がないと言えば嘘になるが、今の生活が嫌いな訳じゃないし、今のままでも十分楽しい。

 むしろ、友人の方がその思いは強かったはずだ。

 だから、本来ならこれは彼がやるべきだったのかもしれない。


「優斗! 危ない!」


 友人がそう叫んだ声以外、何も聞こえなかった。

 最後に見えたのは自分の目と鼻の先にあるダンプカーだった。











「え?」


 次の瞬間見えたのは真っ白な何もない空間。

 足が地に着いている様子もなく、上も下も分からない。


「やあ」


 上からひょっこりと顔を出したのは金髪の青年。

 見た目からして、年齢は同じくらいか少し上のように見えるが……。


「んん? ははっ、そんなに身構えること無いよ。私は怪しい者じゃない」


 そんなことで身構えてるんじゃない。

 いくらバカな僕でも分かる。

 この男から発せられるオーラとでも言うのだろうか? それは遙かに生物を超越した、人ならざる何か。


「あれぇ? 分かっちゃう? いやぁ、やっぱりにじみ出ちゃってる? 神々しさとか」

「まさか、あなたは……」

「そうそう、お察しの通り神様」


 あれ?

 神様?

 確か僕はダンプカーに轢かれて、気が付いたら訳の分からない空間にいて、目の前には神様?

 こんな展開、どこかで……。


「一応説明しようか」


 青年はくるりと反転し、目の高さを僕に合わせた。


「最近の人は物わかりがいいから、君も何となく察しはついてるんだろうけど、君、あそこで死ぬ予定じゃなかったんだよね」


 うわ、どこかで聞いたことあるようなセリフだ。


「それが、ちょっとした手違い(意図的)でね、君が巻き込まれーー」

「ちょ、ちょちょちょ! ちょっと待って! なんですかその(意図的)って!」

「ああ、勘違いしないで。ちょっとそれには深い事情があるんだ。言い訳させてもらうと、神様にも悪い奴が居るんだよ。人の命を弄ぶ奴がね。当然もう捕まえて処分したけど。私はその尻拭いっていうか、謝罪の意味も含めて、そういった事例の被害者の転生の手続きをしているわけ」

「そ、そうなんですか……」

「うん、分かってくれたようだね」

「それじゃあ、生き返らせてくれる、ということですか?」

「いや、そうしてあげたいのは山々なんだけど……」


 青年は口を濁した。


「実は君の葬儀はもう終わってしまったんだ」

「え?」

「だから君の肉体はもうあの世界にはない。大怪我とかなら、私の力で治すことは可能なんだけど、灰になっちゃったらね……」

「そんな……」


 思わず体の力が抜けてしまった。


「だから君は違う世界に転生してもらうほか無いんだよ」

「違う世界に?」


 嫌だ。

 僕はそんなこと望んじゃいない。


「元の世界への転生は出来ないんですか?」

「本当は出来るんだけど、君は神のイタズラによって死んでしまった。どうも君を殺した神は、死んだ君の前に現れて、君を違う世界に転生させるつもりだったらしい。君の魂には既に細工がされてるんだ。それが原因で魂の君を見つけるのが遅れ、そして元の世界に転生させてあげることが出来ない理由」

「そんな理不尽な!」

「気持ちは分かる。でも仕方ないんだ。どうしても嫌ならこのまま死後の世界に送ってあげることもできるけど?」


 違う世界に行くのは嫌だ。

 かといって、ここで人生が終わってしまうのも嫌だ。


「もういいよ。違う世界でも何でもいいよ」


 僕は半ば自棄になっていた。


「本当にすまない」

「はやくして。あんたの顔も見たくない」

「悪いね。でも転生するにあたって注意と説明がいくつか。聞き流していいから聞いといて」

「どうぞ」

「えっと、君には転生するその世界での言語や習慣、基本的な知識、あと魔力。その世界には魔法があるから。それをあげる。あともう一つ。これはお詫びの印。一日一回、10分間だけ君が望む力を得られる能力をあげる」

「なにそれ?」

「いや、それが注意点なんだけど」


 青年が腕を組んだ。


「私みたいな役職は他にもいてね。彼らがおもしろ半分で望む力をあげちゃうから、えっと、チート? って言うんだよね? そんな人が増えて世界に矛盾が生じてるんだ。君が行く世界にもそういった者が五人いる」

「はぁ?!」

「彼らは最初こそ楽しそうにしてるんだけど、だんだん飽きてきちゃうみたいなんだ。なんてったってその能力値は全て最大。つまり成長の過程を楽しむことができなくなっちゃってるんだ。言うなれば人生カンスト、終着点まで来てしまってるわけだからね。彼らの中には、まぁ、力の悪用を始めちゃう奴もいるし、人知れず一人きりで山に籠もってるようなのもいる。あと、最強同士での最強争い。これほど不毛な戦いはないよ。だから君にはあんな制約のついた能力をあげるんだ。君は10分間だけ望む力を得られる。やり方は簡単。君が望む力を強く念じればいい。10分経つと力は失われる。次に力を使うためには24時間待たなければならない。力は10分経たなくても、任意で解除することができる。ただ、その場合も次まで24時間待たなきゃいけない。待ってる間、つまり力を使っていない間、君の能力は一般人並。ほら、実は強いけど普段は凡人として生活してますっ! っていうやつを労せずできるんだよ」

「わかりました。それじゃあさっさと転生させやがってください」

「うん、若干口が悪くなってきたね。長くなったし、さくっといこうか」


 青年は後ろを向き、両手を掲げた。


「あ、最後に一つ。力を得、転生するにあたって、君にはひとつ使命を背負ってもらう」

「そんなの聞いてなーー」

「君に拒否権はない」


 青年の雰囲気が変わった。

 その眼光は鋭く、それだけで萎縮してしまう。


「君の使命は、他の転生者、もしくは転移者を滅ぼすこと。世界の秩序再生のため、協力しなさい。逃げることは出来ない。彼らの運命と、君の運命は既に結びつけてある。彼らと君は必ず出会う運命にある」

「ちょっ!」

「それじゃあよい転生を」


 青年はにこやかに手を振ると跡形もなく消え去った。










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