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*小集  作者: Namako
序章:不完全燃焼からはじまるエピローグ
1/4

【00・エピローグ】

一話完結のような短編連作です。一話一話独立した別の日の物語なので、よく日にちが前後してたりします。これは連載小説といっていいのか。

 終幕の向こうからこんばんは。





「やぁ」


 その一声にたった一人反応する者がいる。それが彼だ。なにもかもが終わった後、電子遊戯でいうエンディングの向こう側。まるで上映の終わった映画館、誰も彼もが眠りについたその場所で、彼だけが目を覚ましている。


「お前は……」


 誰かも分からぬその声に問う。


「アキト」


 声は応えた。

 そうするといつの間にいたのか、単に気が付かなかっただけなのか、彼か彼女かは分からないが、すぐ隣に黒い髪をした人間が席に座っている。それと同時にアキトと応えたその人間は、金色の目で此方をじっと見つめている。中性的な顔立ち、男とも女ともつかない声。彼の記憶では初対面だろう。


「キミは確か、「──」だよな。噂は聞いたことがある」


 どんな噂なのだろうか。だが、周りを見ずに突き進んできた彼が知る由もない。彼の持つ青い目が、ギロリとした動きでアキトと応えた人間に向く。その目には、とくになんでもない表情でこちらを見る、黒髪の人間が映っていた。


「何のようだ?」


 彼は再び問う。


「いや、退屈そうにしていたから。なにとなく声を掛けただけだ」


 アキトと応えた人間は、はっとした様子でその言葉を訂正する。


「……あぁ、いや。退屈ではなく、傍観的な雰囲気だったな」


 その訂正には意味があるのか。だがその理由も、彼が知る由もない。いや元々、彼にとっては興味が沸かないのかも知れない。彼の興味は、別の方角を向いている。それの証明のためなのか、青い目が大きなスクリーンを見上げた。


「他者の物語を見るのは、そんなにつまらないか?」


 アキトと応えた人間が問う。 


「あぁ」


 彼は否定はしなかった。


「とんでもなくつまらねぇ」


 寧ろ肯定を残す。

 スクリーンに映し出された鮮やかな物語、かつて彼もそこにいた。きっとアキトと応えた人間も、元はと言えばそこにいたのかもしれない。彼は褪めた目つきでスクリーンを見続ける。見続けながら、独り言のように続ける。


「ずっとつまんねぇまま、ズルズルぐだってる」


 どこまでも同じ物語に飽いたのか。新しい物語を心待ちにしているのか。アキトと応えた人間にはそう映ったのだろう。彼は問う。


「飢えてる?」

「いや」


 だが彼は否定した。


「なんていえばいいんだろうな」


 単純な思考回路と表現力のなさに、彼は彼自身にあきれてしまう。


「飢えているんじゃあないんだ」


 だが乏しいその言葉で、彼はかけらを拾うように淡々と続ける。


「今の扱いに不満はない、寧ろ満足してるぐらいだ。……只」


 只?

 否。


「満たされすぎて、」


 そう、それは創造の余地もなく語りつくされたことによる、逃げ場のなさ。完成されつくされた舞台が引き起こした、最悪の身体異常で。

 ぐるぐるグルグル同じ物語を回り続けて、目を回し、ドロドロどろどろ同じ出会いと別れを繰り返し、ただ、満たされたまま消化もされず、流れ出ることも出来ずに溜まりに溜まった「コレ」が。


 肺も胃も心臓も、思考も心も記憶さえも全てに詰まったことで起こった「コレ」が。


「全部が、爛れる」


 気分が悪いを通り越して、気味悪い。


「……。」


 長い沈黙。

 彼もアキトと応えた人間も、眠りについた者たちも黙り込んで。

 何を考えたのかは、誰にも分からぬまま。アキトと応えた人間が重い口を開いた。


「戦争が恋しいのか」


 嗚呼。


「そうかも、しんねぇなぁ……」


 そう。

 飢えるわけでもなく、

 肥えるわけでもなく、

 只、只、

 ひたすらに身を爛れて、


 なんということだろう。

 あんなにも嫌悪していたあの日々が、今を通り越して今更に、

 


 只ひたすらに、嵐の日々か恋しい。

難解。

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