07 サジタリウス
広場の中央には町の功労者だとかなんとかという人物の銅像が立っている。それを中心にしてぐるりと円形の空間が広がり、平時ならここに多くの人々が集い、馬車の多数が行き交い、市のときは露店もたくさん並ぶ。周囲は二階建ての立派な建物ばかりが建ち、町外れの地区と比べたらずっと都会的な空気で満ち溢れている。
その広場も今では一変してしまった。無残にも破壊された建物がもくもくと黒煙をくすぶらせている。ここが主戦場だったのだろう。幾本の矢が突き刺さった黒狼の死がいがそこらじゅうに転がっていて、風が吹くと黒いつやのある毛並みがあちらこちらでむなしくたなびいていた。それらの横では町の人間も力尽きている。
幸いなことは、黒狼の死体より人間の死体のほうが数が少ないということだろうか。それらは町の男たちのもののようで、おのおのに剣や弓を握り締めたまま、皮の鎧を着たままで絶命していた。
「うっ……もしかしてあの中においらの兄ちゃんも……」
少年は広場のほうをちらりと見て、すぐに目をそらした。子どもが直視できるほど生易しい光景は広がっていない。どこもかしこも死と血のにおいがただよっている。
「お兄さんを探すのはひとまず後にしましょう。今は追手をかわすのが先です」
広場から南へ伸びる大通り。エリーたちが今しがたやって来たその方向からは黒狼の大群が依然として向かってきている。数にして二十はいるだろうか。さすがのエリーでも一度に全てを相手にすることはできない。
ただ徒手空拳の場合は──である。
エリーの持つ竜人の力は怪力だけではない。
「魔法で迎撃します。少し下がっていてください」
「え……姉ちゃん、そんなこともできるの?」
「あたり前でしょ。エリーは竜なんだから」
割り込んできたのは妖精イリスだ。少年の周りをぱたたっと飛び回っている。
「えーっと……。なんかもう妖精とか見ても、おいら驚かないや。姉ちゃんがすごすぎて」
「ちょっと! なんかそれシツレイじゃない!?」
「あはは……ごめんごめん。それで、魔法ってどうやったら使えるの?」
「ふん! じゃあ、あんたは、どうやったら魔法が使えると思うわけ?」
ツンとそっぽを向いて少し不機嫌になったイリスは、少年をいじめるようにして訊いた。
もちろん少年は答えを知りえない。魔法とはそこらの人間が知っているほど一般的なものではなく、魔法使いだとか魔術師だとかと呼ばれる一部の人間たちが相伝あるいは独学で学んでいるくらいのものだ。
「このあたしも魔法使えるのよ? まぁさすがにエリーほど強力なのはムリだけど。そのすごさがわかったら、あたしのこともソンケーしなさいよね」
「う、うん……。妖精の姉ちゃんも十分すごいね」
「じゅうぶん? 十分ってなによ十分って。なにその上から目線? あと、あたしのことは『イリスさま』か『イリスちゃん』と呼ぶように。頭に『美少女妖精の』をのっけるとなおグッドだわ」
「あ、うん……。っていうか、ちゃん付けでもいいんだね……」
妖精イリスと少年が即席の講義を開いている間、大通りを北上してきた黒狼の群れはすぐそこまで迫っていた。その群れの進路が広場に達する地点にエリーは立ちはだかり、右手をゆらりと頭上にかかげている。
その右手を下せば即座に叩き込める──エリーの魔法の迎撃態勢である。
「いい? 魔法は〝なんでもできちゃう便利なもの〟ってよく誤解されるけど、そうじゃないの。何かを起こすには原動力はどうしても必要になるわ。たとえば、燃えるものがないと火は点かないでしょ?」
イリスがえらそうに高説を垂れ始めた。
「うん、そうだね。薪がないと、お風呂もお料理もできないね」
「その原動力……魔法のもとになるものを、あたしたちは〝マナ〟って呼んでるの。んで、このマナによって引き起こされる事象や現象が〝魔法〟っていうわけ」
「じゃあおいらもその〝まな〟を使えれば、魔法ができるの!?」
少年は目をきらきらと輝かせた。しかし、
「あんたじゃムリね」
イリスがばっさりと切り捨てる。少年の目は落胆の色に変わった。
「マナを扱うのはけっこうメンドくさいのよ。よくヘンな魔方陣を描いたりとか、アヤシイ呪文を唱えたりとかするでしょ? 人間はそういうことをしないとマナに触れることができないのよ」
そこでイリスはぶつぶつと何事かの呪文をささやき、目の高さに人差し指を立てる。その一連の動作は魔法を発現するための準備のようなものだ。
すると、指の先に青白い発光体がぱちぱちと浮かび上がった。
それをイリスはエリーの背に向けて放り投げる。
「でも、あの子にはこんなメンドーな手順は必要ないの。戦いながらだってぶちかませるわよ」
小さな青白い発光体はイリスの指先を離れてふわふわとただよい、すぐに消えた。
「なんでエリーにはそんなことができるの、って顔してるわね。それは、あの子の身体自体がマナのかたまりみたいなもんだからよ。呪文だの魔方陣だのに頼らなくたって、エリーは自前でマナを調達できるわ」
「そういえば姉ちゃん、人間じゃないって言ってた」
「そうよ。エリーはね、昔ちょっとした事故が原因で、化物みたいな身体になっちゃったの。……悲しいでしょ?」
エリーは黒狼たちが確実な射程圏内にやって来るのをじっと待ち構えている。その右手は、なにか見えない大きなものを持ち上げるようにして頭上にかかげられていた。集中しているエリーは標的の群れから少しも視線を外そうとせず、言葉も発しない。見えないなにかの中心には周囲からごうごうと風が寄り集まっていて、周囲の塵芥を巻き上げながら、エリーの衣服や長い髪を乱暴にはためかせていた。
少年は初めて見る魔法をじっと見つめる。
「そうかな。でもその姉ちゃんの力のおかげでおいらは助かったんだし、今もこうして姉ちゃんの後ろで安心して見ていられる」
「ふん、エリーの苦労を知りもしないで。あの子はその力のせいで、泣くことも笑うこともできないのよ。痛みも感じないし、空腹感もない。エリーがいっつもブアイソウなのはそういうわけ」
イリスはまたツンとそっぽを向いた。
「それでも……おいらは姉ちゃんがうらやましいと思うよ。おいらにも力があれば、町の人を助けられたかもしれない……みんな殺されなくても済んだかもしれない。おいらだって……この町を守りたかったんだよ!」
急に上ずった少年の声が広場に響いた。
イリスはびっくりして墜落しそうになったが、声を出した少年自身もはっとして、自らの高ぶりに驚いているようだった。
ちょうどその少年の心の叫びが広場にこだましたときだ。
どこかから誰かの応える声があった。
『──よくぞ言った! それでこそ俺の弟ってもんだ!』
声がしたのは、少年たちの後方、建物の屋上から。
少年は振り返ると、突如としてその視界の端を鋭い飛行線が横切っていった。瞬間、びゅんという風切り音を聴覚がとらえる。少年のすぐ頭の上を、一条の矢が切り裂いていったのだ。
その矢は少年とイリス、そしてエリーの頭上を通り越して、その遥か向こうから走ってくる黒狼の脳天を正確に射抜いた。鮮血が吹き出るのと同時に黒狼は絶命し、勢いそのままに地面の上を転倒する。ビクビクと何度かぴくついたあとはすっかり動かなくなった。
生き残っていた町の男が助けに現れたのだ。
エリーは右手の魔法を維持したまま、後方を振り返った。見ると、矢を放った男は次の矢をつがえ、更なる攻撃に移るところだった。
「あ、兄ちゃん! やっぱり無事だったんだね!」
少年は歓声を上げた。
男もちらりと一瞬目線を送ってくるが、すぐに標的のほうに向き直った。
「よし、一斉掃射だ。射てーッ!」
男が叫び、二本目を放つ。すると、それに呼応するように周囲の建物の屋上や二階の窓から一斉に矢が放たれた。
無数の矢はエリーたちの頭上を越え、黒狼たちの群れに降り注いだ。ある一頭は急所を射抜かれ盛大に転がる。またある一頭は幾本もの矢を体に浴び、血だらけになって倒れる。大通りを直進してくる群れは、広場に展開した弓手隊のいい的となっていた。
その射手たちの中のリーダー格、少年が兄と呼んだ人物が広場に降りてくる。
「こっちだ、建物の中へ急げ! 新しい血のにおいを嗅ぎつけて他のヤツらがやって来るぞ」
「兄ちゃん、助けに来てくれたんだね!」
兄との再会を果たした少年は嬉しそうだった。
少年の兄は半身ほどの大きさの弓を抱え、矢筒を背負ったたくましげな男だ。町がこんな状態であるにもかかわらず、悲壮な顔つきは少しもしていない。彼の目は強い意志と正義感にあふれている。
「この辺の建物の上に急ごしらえの前線基地を作っている。オオカミたちは高いところへ登ってこれないからな」
兄は元いた建物のほうを見上げて合図を送ると、二階の窓からはしごが下ろされた。一階部分の入口や窓はどうやら封鎖されているらしい。
「さあ、先に行って上ってこい」
「待って、まだ姉ちゃんが……!」
少年に言われて、兄はいまだ広場の端に立ちっぱなしでいるエリーの姿に気付いた。
そこは黒狼の群れがやって来る最前線である。弓矢の掃射を受けて数は減ったが、それでもまだ手負いの数頭が猛烈に迫ってきている。もう数十秒もしないうちにこの広場へ到達するだろう。そんなところで立ちほうけているとは、死にたがりの狂人か、それとも勇者なのか。
「おい、あんたも早くこっちへ……」
と兄がエリーのもとへ走っていこうとすると、それをふと少女の声が呼び止めた。
「ちょっと。あれはべつに放っておいてもいいわよ」
兄は声のしたほうを振り返る。しかし、そこには少女なんてものはいない。
地面の上に、小リスのようにちょこんと妖精のイリスが立っているだけだ。
「げ、なんだこいつ……モンスターか?」
「なによシツレイね! 見てわかんないの? 妖精よ妖精、あんたも目ぇ腐ってんじゃないの?」
「妖精って……あの妖精族の妖精か? あんなもん、ただのおとぎ話だと思ってたが……」
「ふんっ。このあたしがっ、その伝説の妖精さまよ! べつにソンケーしてくれてもいいのよ?」
イリスはえらそうに小さく胸を張る。むろん、威厳も迫力もない。
少年がイリスに代わってエリーのことを説明した。
「兄ちゃん、あの姉ちゃんはすごい強い人なんだよ。おいらがここまでやってこれたのも、ぜんぶあの人のおかげさ」
「……って言われてもな。はいそうですか、で女一人を残していけるわけないだろ。とにかくお前は先にはしご上ってろ。わかったな?」
「う、うん。わかった……」
言われたとおりにする少年を後にして、兄はエリーのそばへ急いだ。見える範囲の他者はみな助けなければ気が済まないという、正義漢らしい彼の気質がよく表れている。
「おい、あんた! あのモンスターどもが見えないのか? 早くこっちへ来るんだ」
少年の兄がエリーの後ろから呼びかける。
そのときに、兄は異変に気付いた。エリーを中心にして荒々しい風が巻き起こっていて、それはエリーのかかげた右手の先へ轟々と集約されている。いまだ迎撃態勢を取っているエリーの魔法のことを兄は知らないが、なにか強力な力が駆け巡っていることを肌で感じた。
エリーは兄のほうを振り向いて答えた。
「ここは危ないですから、下がっていてください」
「いや……そりゃ俺のセリフだろ。後ろに俺らの前線基地があるから、あんたはそっちへ避難してくれ」
兄は目の前の女性のことが不可解でしようがなかったが、今はぐだぐだと詮索している暇はない。ひとまず背の矢筒から一本を取り出すと、弓の弦を引いてつがえ、射撃の構えを取った。すかさず接近してくる黒狼の一頭に向けて発射する。放たれた矢は山なりに飛翔し、吸い込まれるように黒狼の急所に突き刺さった。
向かってくる群れの一頭は減って、これで残りは五頭になる。
少年がこの兄を『町一番の狩人』と評していた言葉に嘘偽りはない。
「さあ、今のうちに早く逃げろ!」
「エリー! ここはコイツに任せてもいいかもしれないわ」
と、兄の陰から妖精イリスがひょっこりと顔を出す。
「うわ、なんだよお前、ついてきてたのかよ」
「あらイリスさん、いたんですね」
「ちょっと! あんたら二人ともシツレイすぎない!?」
馬鹿にされ、おまけに話の腰を折られたイリスは余計に機嫌を荒げた。上下にびょんびょんと飛び回って抗議の意を示している。
「……で、エリー。さっき予感がしたんだけど、この町を襲ってるボスはたぶん〝アレ〟だわ。今はなるべく力を温存しといたほうがいいと思うの」
「そうですか……ではあの残党はどうしましょうね。まぁ生身でやりあってもいいのですが」
生身、という言葉に少年の兄が目を丸くする。
「おいふざけんな、アイツらは俺が相手をする。が、射ち損じるとも限らんから、あんたらはさっさと逃げてくれ」
兄は再び矢を取り出してつがえ、放つ。見事に黒狼を射止める。
群れは五頭から一頭減り、これで残りの黒狼は全部で四頭になる。
群れの走る速さとこちらまでの距離、弓の射撃の間隔を考えると、放てる矢はあとせいぜい四本程度だ。ちょうど群れの頭数と一致する。つまり、もし一発でも外せば黒狼の牙は兄のもとへ到達するだろう。そうなれば弓の名手がもつアドバンテージは全くなくなる。
矢をつがえ、放つ。さらに一頭減って、残りは三頭。
「エリー、さっさと行くわよ。あんた、ここで魔法使っちゃうとあとで困るでしょ」
「そうですね。やはり魔法はやめておきましょう」
エリーが右のてのひらを閉じてすっと下ろすと、周囲を逆巻いていた強風はぱたりと止んだ。
魔法、という単語を聞いた兄はぎょっとして驚く。なんだコイツらもしかして魔法使いなのか、と勘ぐりながら、それでも一度引いた弓は外さない。
放たれた矢は黒狼の胸部に突き刺さり、その心の臓を打ち止める。残りは二頭。
元は二十を越えるほどいた群れも、もはや見る影はなくなった。彼らがやってきた後方には無数の死がいが点々と転がっていて、残された二頭はその怨嗟を晴らすべくように猛然と突進をやめない。弓を引く兄との距離はもうほとんど縮まっていて、石でも投げれば当たるような距離だ。
常人なら本能的に逃げ出したくなるような状況。人殺しの化物がすぐそばにまで迫っている。しかし、少年の兄は緊迫すればするほど、その心はかえって落ち着いて、射撃を外さない絶対の自信に満ち溢れていた。力強く弦を引く。
矢が兄の手を離れる。これで残りはついに一頭になる。
「さあ、次で最後だ。覚悟しろよ」
兄は自分に言い聞かせるようにつぶやき、矢を手に取った。目標との残された距離は、黒狼の突進を考えればほとんどゼロと言ってもよい。次に弦を引き手を離す瞬間にも飛びかかってこれるだろう。その最後のチャンスを外せばもう後はない。
自身の命運を託して、少年の兄は矢を放った。
すると、矢が兄の手を離れた瞬間、耳元で小さく声が聞こえた。
「──その矢、外れるわね」
妖精の予知を少年の兄は聞く。
コイツらまだ逃げていなかったのか。
いや、もし今オオカミに突っ込んでこられたらどうする、どうやって守る!?
そんなことに兄の考えが行き当たるごく短い瞬間、兄は信じがたい光景を目にした。突進してきた黒狼の頭部をめがけて発射された矢が標的を外れていったのだ。手ごたえがなかったわけではない。突き刺さらなかったのだ。矢は黒狼の頭部をえぐるようにして、しかし、頭蓋に当たったところで偶然にも弾かれていた。ほんとうにわずかな軌道のズレだった。
まさに妖精の予言のとおりになる。
矢によって頭部の半分を削り取られ、水風船が割れたように流血した黒狼。赤黒くゆがんだ頭蓋を露出させながらも、活動は停止しきらなかった。健在の四肢で地を蹴り続け、少年の兄めがけて飛びかかってきた。
少年の兄はとっさに腰の短剣に手を伸ばすも、鞘からうまく抜けない。至近距離から正確に狙って射た矢が外れるという不測の事態に、すっかり落ち着きを失くしてしまっていた。
「──でも、あんたはまだ死なない」
妖精の声がまた再び聞こえる。しかし、そちらを振り向くほど少年の兄に余裕などない。血にまみれた黒狼のあぎとが迫ってくるのがスローモーションで見えている。短剣はまだ鞘を脱しない。いや、今さら抜刀したところでもはや遅すぎる。
少年の兄が死を覚悟した──そのときだ。飛びかかってきた黒狼は空中でぴたりと止まった。
突然の出来事にうろたえた兄はかかとを引っかけて尻もちをつくと、黒狼の横に立って、その首根っこをわしづかみにしているエリーの姿が視界に入った。
エリーはほんの片手で、黒狼の太い首を毛皮の上から握りしめていた。不安定な体勢となった黒狼の身体はだらんと垂れ下がり、四肢はまさに死ぬものぐるいでもがいている。頭部の片側からは先ほどの矢による流血をだらだらと流し、半開きになってパクパクと呼吸にあえぐ口腔からは唾液をだらだらと流し、黒狼が死の表情を浮かべているのが少年の兄の目にも映った。ヒィヒィと呼吸器のかすれるような甲高い必死な鳴き声が黒狼から漏れた。
「──あれはもう、助からない」
妖精が再三、ぼそりとつぶやいた。
それとほぼ同時に、エリーは黒狼をわしづかみにしたまま大きく振りかぶり、建物の壁面に勢いよく叩きつけた。喉元の圧迫から一瞬だけ解放された黒狼は、壁面のレンガに脳天から衝突して、熟れた果物がはちきれるような生っぽい音とともにその上半身を散り散りにした。ばきばきに折れた背骨の一部が体表を突き破って露出し、つぶれて原形を失った身体が地面の上にぼとりと落ちた。建物の壁面には赤黒く汚らしいまぬけな絵画が残った。
少年の兄は、今目の前で起こったことに対して理解が追いつかなかった。
「な、なんなんだあんたは……。俺は夢でも見てるのか……?」
「あながちそうかもしれません」
エリーは少年の兄のほうを振り向いた。そして、自身の頬の肉をつねってみせた。ぐにゃりと歪んだエリーの顔は、それでも美しい女性のものだった。
「身体が化物の私は、こうしてみても痛みをまるで感じませんからね」
血まみれの壁を背にして立ち、頬を引っ張る麗しの女性は、どこか無邪気で幻想的なようにも見えた。
化物に襲われたこの町も、口うるさい奇妙な妖精も、こんな嘘のような光景も、全て夢だったらいいのに、とエリーにつられて兄がつねってみた自分の頬は、確かに痛かった。