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04 飛べない竜



 エリーと少年の二人は北の広場を目指し、大通りから外れた小路を移動していた。そこは少年の知る近道だったが、途中で馬車が横倒しになっていて、狭い道幅をいっぱいにふさいでいた。その脇では化物モンスターたちに食い散らかされた馬の死がいが鼻につく臭気を放っている。

 思わず少年は顔をそむけた。


「ごめん、これじゃ先へ進めないね……。迂回して別の道を──」

「いえ、ここは任せてください」


 そう言ってエリーが進み出る。

 エリーはこぶしを握り、振りかぶると、転がった馬車の腹に勢いよく叩きつけた。乾いた衝撃音が響き、木屑が舞い上がる。木でできた車体は木っ端微塵に崩れ、道が開けた。

 それを間近で見ていた少年はあらためて驚きを隠せない。


「あのさ……姉ちゃんってほんとに力あるんだね……。なんだか人間じゃないみたい」


 思ったことをそのまま口に出せるのは子どもの特権だ。


「はい。私は人間ではありませんから」

「え?」


 信じがたいことをさらりと口にするのは、エリーの特徴である。


「私は竜と人間の融合体ハーフなのです。ただ混血というよりは、人間の皮をかぶった竜みたいなものですね」


 淡々と説明を加えるエリーだが、少年の理解は追いつかない。何事にも無表情で動じないことが多いエリーの顔では、嘘や冗談を言っているのかも判断できない。


「ごめん……姉ちゃんがなにを言ってるのか、おいらさっぱりわからないよ……」

「そうですね。では〝竜〟のことはご存知ですか?」


 エリーは子どもでもわかるように一から説明を始めることにした。

 竜とは、肉体の強さにおいて最上位に位置する生物である。強靭な肉体は鋼よりも硬く、力は比べるものがないほどに強い。そして、不思議な力──魔法さえも操り、人間が束になっても敵わない存在が竜だ。

 竜は人間を襲う。村や町、地域単位で被害がおよび、ときには災害の規模にも達する。一夜にして滅んだという国すら存在する。おまけに竜は神出鬼没で、いつどこから湧いて出るのかもわからない。人々は竜の恐怖におびえながら毎日を過ごしているのだ。


「うん、それくらいは知ってる。でも見たことなんかないよ。どんくらいの大きさなの?」

「竜族は種類や個体によって差がありますからね。中には人より小さいものもいます」

「ふーん……。竜ってうろこがあって、尻尾があって、羽が生えたでっかいトカゲみたいなのだって聞いたよ」

「それでだいたい合ってます」

「あ、合ってるんだ……。竜って空を飛べるの?」

「飛ぶのもいれば、飛ばないのもいますよ」

「姉ちゃんは飛べる?」

「今は飛べません」

「え、どういうこと?」

「変身するっていうことです」


 少年は少し考えて、言葉の意味を噛みしめた。


「え……姉ちゃん……トカゲみたいになっちゃうの……?」


 少年は一歩、後ずさった。美人のエリーがトカゲになるのを想像して青い顔をした。


「ふふ、どうなると思います?」

「わかんない……。どうなるの?」

「さてどうなるでしょうね。もし敵の親玉が強かったら、きっとそのうち見られますよ」


 そう言われるとなんだか無性に気になってくる。

 少年はエリーが戦う姿をしっかり見ていようと思った。


「本気を出してしまうと、なんだか眠くなって、敵も味方もわからなくなってしまいます」

「え」

「もしそうなったら、この町一帯が更地になるまで止まらないでしょうね」

「え……」


 さすがにそこまでいくと、少年の顔も白々しくなってくる。なにしろいくら力が強いからといってもエリーの見た目は人間の女性だ。化物だなんて思えないほど容姿端麗で、腕や脚もすらりと細く白い。冷静になって考えてみれば、この女性が少年の想像する巨大なうろこの生き物に変身するようなことは信じられない。


「姉ちゃん……、その話ってどこからウソだったの……?」

「全部ほんとです」

「うそぉ!?」


 相変わらずエリーの顔は徹頭徹尾、無表情ポーカーフェイス

 少年にはエリーの話が嘘なんだか本当なんだかわからなかった。


「ほんとです。……それより、そろそろ先を急ぎませんか?」

「ああ、うん……そうだね。この近道を抜ければ広場はもうすぐだよ」


 二人は他愛もない話を切り上げて、歩を進めることにした。

 小路を通り抜け、町の男たちが戦っているという北の広場へ急いだ。




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