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現代の悪女(お局さま)が愛されヒロインに転生したら。

 私は中学、高校時代、男に(うつつ)を抜かすことなく青春の全てを捧げて勉強と部活に勤しみ、最難関と言われる大学に入学した。そして大学時代も学業をおろそかにすることなく立派な成績を修めて、今は一流企業に勤めている。


 つまりは、できる女だと自負している。自分で言うのもなんだが容姿だって決して悪くない。むしろ、学生時代は周りに”高嶺の花”と言われてきたぐらいだ。


 そして、出世頭と言われていた高学歴で高収入確定の高身長の3歳年上の課長は私の彼氏だった。社内でも言わずと知れたお似合いのベストカップル、それが私たちだった。


 30歳の誕生日、付き合いだしてかれこれ4年になる彼に話があると言われる。ついにプロポーズされる!


 そう思い、私はいつもよりも気合を入れて身支度を整えると彼の待つレストランへと向かった。


 彼は開口一番、私にこう言った。


「すまない、凛香。子どもができたので別れてほしい」


 入社2年目、毎日何かしら失敗をしでかす、会社から見るとお荷物でしかない、見た目はただかわいいだけで実は計算高い愛され女子が彼の子を妊娠したそうだ。責任を取りたいから別れてほしいだと。


「お前ほどのいい女、俺がいなくても大丈夫だろう?」


 ふざけるな! 私の貴重な4年を返せ!! あんな「イイ男はみぃんなあたしのもの」とか思ってそうな、そしてそれを実践しまくっている頭の弱い女にダマされ、はめられ、はらませて結婚だと!?


 ハイスペックだと思っていた私の恋人は、女の腹黒い情念を全く分かっていないただのおめでたい男だったのだ。


 絶対に許さない! いつかあの二人に、いや世界中のリア充たちに思い知らせてやる!!


 少し前までは”高嶺の花”だったのに、気が付いたら”お局”と陰でささやかれるようになってしまった私は、私から幸福な未来を奪った者たちに対して、心ひそかに復讐を誓うのだった。


 高校時代からの友人の前でビールジョッキを片手に愚痴ったら、「とりあえずさ、マジの王子様に癒してもらいなよ」と彼女のおススメで始めた乙女ゲーム。


 カラフルな髪色のイケメン貴公子たちがあの手この手で魔法学園のアイドル的存在の私――異世界召喚された聖女の”凛香”に愛をささやいたり叫んだりしてくれる乙女ゲーム。


 Now Loading ……


 これが正直言ってクソゲーだった。


 文句その1。攻略対象者である王太子たちやその取り巻きたちが女性に対して上から目線過ぎ。「あの、女ってだけでそんなに無能扱いしないでくれます?」と何度言いたくなったことか。


 文句その2。ヒロインは言ってしまえば成金のくせにいい子ぶってて、男たちをたぶらかしているだけじゃないの! しかも彼女がぴえんと甘えるのはハイスペックイケメン限定。本当に聖女様だったら、その辺のモブ男の相手もしてやんなさいよ!


 文句その3。そんな女にころっとダマされる王太子をはじめとする貴公子たち。この男たち、いいのは顔と身分だけで、頭はからっぽなのか?


 文句その4。ヒロインの言うがままに自分(あるいは王太子)の婚約者に冷たい態度をとり、さらにはこき下ろす攻略対象者たち。だいたい人前で得意げに自分の婚約者を貶める行為自体が冷静に考えてクズすぎる。人としてありえませんから、あなたたち! その上、内容はほぼ冤罪。人を罰するのであればちゃんと捜査して、証拠を固めてからにしましょう。こんな奴らがトップに立つことになるこの国、大丈夫ですか?


 文句その5。王太子のために身を粉にして尽くしてきた婚約者の令嬢ジョセフィーヌがかわいそすぎる! 王太子たちを独占したいがために敷かれたヒロインの奸計によって、すっかり悪役令嬢に仕立て上げられてしまった彼女。王国にとっては彼女のような人材こそ貴重だったはず。それなのに、婚約破棄にとどまらず、最果ての修道院に押し込めるなんて、酷すぎる!


 現実の世界も、ゲームの中も、結局はあざとかわいい女にころっとだまされるダメな男ばかりだ。マジでこいつら許しがたい! 私は癒されるどころか、むかっ腹が立って仕方がなかった。


 ゲームをプレイしながら、私はどちらかというとヒロインよりも王太子の婚約者である悪役令嬢に自分を重ねてシンパシーを感じていた。


 最初は深く考えずにヒロインに自分の名前をつけてみたが、正直言ってこのヒロインには心底吐き気がしたので、2回目からは「はまち」って名前にしてやった。はまちの由来は、ヒロインがぶりっ子だったからである。


 当然、目指すはバッドエンドだ。私の目標は攻略対象者を虜にすることではなく、王太子の婚約者であるジョセフィーヌを救うことだ。彼女のような才能溢れる女性が貶められてその地位を失うなんてとんでもないことだ。


 これが私のおバカなリア充たちに対する復讐だ。目玉ひん剥いてよく見るがいい!


 こうして私は、新たな目標を持って、このゲームと向き合うことにしたのだ。


 そうだったのに、それなのに、なぜ!?


 鏡の向こうにいるゆるふわ女子、何度もあの画面の中でみた虫唾が走る女、それが私だと!?


 なんと気が付いたら私はあの乙女ゲームのヒロインになってしまっていたのだ。


 まさか最も嫌悪するタイプの女に転生するなんて最悪すぎる! どうせだったら、ジョセフィーヌになりたかった。というか、私の前世のスペック、性格もろもろ考えたら、絶対にヒロインよりもジョセフィーヌでしょう?


 ああ、しかも私のこの世界での名前、「はまち」なんだけど……。


 とにかく、私はこの世界のヒロインとして、今日、物語の中心的な舞台となる学園に初登校することになっている。


 このゲームの中で唯一私が心を許せる存在はジョセフィーヌだった。彼女には幸せになってもらいたい。はっきり言って、王太子は馬鹿だから真剣に婚約破棄したほうがいいとは思うが、彼女が王太子のことを真剣に愛しているならば、逆に王太子をジョセフィーヌに相応しい男に矯正する必要がある。


 まずは、王太子たちとの胸キュン、というよりは嘘くささ全開の出会いを回避するのが、私がこなすべきミッションである。そして、できることならばジョセフィーヌ様とお近づきになって、彼女がハッピーエンドとなる道を探りたい。


 当然、私は私で、愛されヒロインではなく、実力を付けて独立して男なんぞに頼らずに生きていく道を模索するのだ。


 校門の前では伝説の聖女を一目見ようと大勢の生徒たちが待ち構えている。当然、ジョセフィーヌやその友達令嬢たち、攻略対象者の王太子たちも一緒に。


 ゲームの中では大勢の聴衆に驚いたヒロインの()()()がそちらに気をとられて転びそうになる。それをすかさず支えるのが攻略対象者なのだ。確か、王太子ジェラルド、その側近のランス小公爵、護衛騎士レイモンにジェラルドの侍従でもあるダニエル伯爵令息の4人の男から選べたはず。


 転びそうになるところを支えられるシチュエーションを演出するなんて、男に甘ったれることしか能のない女狐がしそうなことだ。私はヒロインの()()()だが、中身は凛香。男に支えられ、その男の庇護欲を煽りたいがために転んでなどなるものか!


 馬車を下りたら、真っ先にこの後歩くことになる道を確認する。小石が落ちていないか、舗装が壊れていないか。大丈夫そうだ。ということは、あの女、何もないところで転びやがったのか! それにしても(したた)かな女だ。


 王太子たちの近くまでいくと彼らが駆け寄って声をかけてくる。本来であればそのときに()()()は転ぶのだが、私は転ばない!


「やあ、おはよう、はまち。今日は学園への初登校の日だったね。困ったことがあったらいつでも声をかけてほしい。僕たちが全力で支えるから」


 いや、お前が全力で支えるのは婚約者のジョセフィーヌだろうが! という突っ込みをしたいところだが、ここはまだゲームの序盤である。まずはある程度王太子たちと親しくなって、全力でジョセフィーヌを推そうと思う。二人の間に()()()以外の妙な女が割って入ることのないように。


「ありがとうございます、王太子殿下。とはいえ、私はスーパーヒロインの聖女()()()ですので、たいていのことは一人で何とか出来てしまうかと思います。私よりも婚約者様を大切になさってくださいませ」


「そ、そうか。その通りだね、はまち。君は救国の聖女だ。たいていのことは何とかなるだろうが、それでも困ったことがあったら僕たちを頼ってほしい」


 ああ、これって「はい」って言わないと先に進めないやつ?


「わかりました、王太子殿下。その際にはお世話になります」


「はまち、君のクラスはランス小公爵と同じだ。僕の侍従のダニエル伯爵令息もいるから、安心するといいよ」


「ランスです。聖女様にお目にかかれて光栄です。聖女様が学園生活に早く馴染めるように、全力でお力添えをします」


「ダニエルと申します。聖女様のこちらでの生活が快適なものとなるべく尽くしますので、なんでもお申し付けください」


 距離近めに二人が挨拶をしてくる。この二人だって学園のアイドル的な存在なわけだから、()()()は令嬢たちの恨みを買ったな、今ので。


「あっ、お二人とももう少し離れてください。私、ソーシャルディスタンスを大事にするほうなので。なれ合いとかそういうの苦手なんです」


「そ、そうかい。すまない、はまち」


 本当にヒロインのことを思うのであれば、やたらとベタベタしないで放置してくれないかなぁ。あんたらがこの女を妙に庇うから、令嬢たちの恨みを買って意地悪されるんでしょうが。まぁ、ヒロイン自身もあざとい女だからしかたがないかもしれないけれども、私は絶対にヒロインのような女にはならないから! ああ、それにしてもあんまり”()()()()()()()”連呼しないでほしいわ。


 そんなこんなでスタートしたはまちの学園生活。これが要注意ポイントの連続なのだ。なんせ打算的なこの女、()()()はめちゃくちゃタイミングよく、しかもご令嬢たちが見ている衆人環視の中で王太子たちの近くでドジっ子を演じ、あまつさえ、「あたしってドジだよね」とのたまう。「絶対わかってやってるよね、これ」と自分(はまち)に突っ込みたくなる。


 令嬢たちに絡まれて授業に遅れそうになるはまち。「いけないわ、急がないとっ」とインチキ臭い独り言をつぶやきながら小走りで次の教室に急ぐ。視界の悪い角を曲がろうとすると攻略対象者とぶつかって転ぶはまち。


『あっ、ごめん、はまち。大丈夫だったかい?』

『ううん、あたしこそ、ごめんなさい。うっかりしちゃってたから』


 なぜか手元にあった書類が、転んだ拍子に散らばる。それを拾うはまちと攻略対象者。と、そのとき、二人の手が触れ合う。


『あっ……』


 この最初に起こるときめきイベントをきっかけに、はまちはその攻略対象者との距離を縮めていくことになるのだ。だからこのイベントだけは絶対に回避するのだ。


 教室を移動しようとするとご令嬢たちに囲まれるはまち。


「ちょっとはまちさん、よろしくって」

「あ、はい、なんでしょうか。できるだけ手短にお願いします。次の授業がありますので」

「あなた、聖女だかなんだか知りませんが、少し殿方との距離が近すぎなんじゃなくって」


 いや、そんなはずはない。私はソーシャルディスタンスを主張していますが? しかしここで反論してはいけない。人は反論されるとさらにやり返したくなるのだ。理不尽な要求を突き付けてくる顧客対応にはそれなりに慣れている。


 仕方がない。ここは長くなって授業に遅れたとしても、彼女たちにとことん付き合おうではないか。私はこれから彼女たちのカウンセラーとなるのだ。


「では、あなたは私が殿方との距離が近いことがご不満ということですね?」

「そうよ! 庶民の世界ではどうだかしりませんが、婚約者でもない男性の身体にむやみやたらに触れるなんて、はしたないわ!」


 ゲームの中のヒロインは、肩トンとか袖クイとかベタベタしまくってたもんな。でも、断じて私は一度もしていないと主張したい! と言っても信じてもらえないだろうから口に出して主張はしないけど。


「おっしゃる通りですね。男性の身体にむやみやたらと触れるのはよくないことだと承知しました。ほかにご不満はありますか?」

「それから、あなた、何でも殿方に甘えすぎよ! すぐに殿下や小公爵閣下に頼ってるじゃない! 殿下たちには婚約者がいらっしゃるのよ! その事をどうお考えかしら?」

「もちろん、存じております。そのことで一つご提案なのですが、私を皆さんのお仲間に入れてはいただけないでしょうか?」

「は? あ、あなたいきなり何を!?」

「そのですね。私はこの世界に来たばかりで何も知らない存在という()()なわけです。ですので、どうしても()()()()殿下たちは私の世話を焼きたくなるわけです。なんせ()()()()ので。ですから、殿下たちが世話を焼く前に皆さまに頼ることができたならば、殿下たちも安心して私と距離を置くことができるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?」


 これだけ理路整然と話せばわかってくれるはず。いきなり「問答無用」といって意地悪をしてきたりはしないはず。


 令嬢たちはこの突拍子もない提案を受けて、お互いの顔を見合わせる。


「わかりましたわ。検討してみることにしますわ」


 一歩前進だ。


 さて、授業開始まで残り1分だ。これは確実に遅刻だ。だが、焦ってはいけない。焦って妙なイベントに巻き込まれてはいけないのだ。私は廊下の真ん中をゆっくり堂々と歩いた。


 曲がり角でジェラルド殿下とすれ違う。ということは、まだはまちはジェラルドルート上にいるわけか。


「はまち、次の授業はないのかい?」


 そういうあなたはないのですか? サボりですか? はまちとぶつかるときめきイベントのためにそこに待機ですか?


「ありますが、どうにも朝からおなかの調子が悪くて、お手洗いにいたらこんな時間になってしまったの。でも、もうスッキリしたのでご心配なく」


「そ、そうか。お大事に」


 レディの私がこんなこと言いたくないけど、こんなことでも言えばお育ちの良い王太子様は何にも返すことができまい。さっさとジョセフィーヌ嬢のところに行きなさいな。


 次に発生するときめきイベントは、こちらも定番中の定番。図書館で本を取ろうとしたけれども、高くて届かなくて、「あともぉすこしっ」と一生懸命背伸びしていたところ、背の高い貴公子が「これが読みたいの?」と渡してくれるイベントだ。貴公子の優しさと背の高さと背後から声をかけられたことにキュンとなってしまうというわけだ。


 使おう、はしごを。横着せずにさ。


 このイベントの存在のせいで、図書館を利用する際には常に警戒を怠らないようにしている。そして、有能な私はすでに6段目以上にある本には手が届かないことを調査済みだ。だからもちろん、使っている、はしごを。


 今日も図書館で魔法とこの国の歴史の勉強をしよう。来るべき自立のときに備えて。読みたかった本がなんと6段目にある。私は周りを見渡した。攻略対象者は確認できなかった。安心してはしごを取りに行く。はしごに上り、本に手を伸ばしたところで声をかけられた。


「言ってくれれば取ったのに」


 またお前か! そろそろルート外れてもよくないか?


 ジェラルド王太子である。だから、あんたはジョセフィーヌのところに行けって。


「いえ、そのようなお心遣いは不要です、殿下。こうしてはしごを使えばどこの本も自力で手にすることができますので」


「でも、はしごから落ちて怪我でもしたら大変だ」


 いや、そんなにトロくないから。というか、そんな女を聖女としてあがめていて大丈夫なの、この国は?


「では、殿下は私がはしごから落ちて怪我するようなドジっ子とお思いで?」


「あい、いや、そうではないが、ただ心配だっただけだ」


「そのお優しさは婚約者であるジョセフィーヌ嬢に向けてくださいませ。王太子である殿下が婚約者であるジョセフィーヌ嬢と良好な関係を保つことが、この国にとっては何よりも大切なことだと思っております。私はこの通り、文武両道の有能な女ですので、殿下のご助力がなくてもやっていけますので」


「そ、そうだな。はまちが優秀な聖女であることは僕もよくわかっているよ。邪魔したね」


 ようやくジェラルドは去っていった。ちゃんと、ジョセフィーヌのところに行くんだぞ、帰ったりするなよ。


 こうしてジェラルド王太子を再三再四撃退したにもかかわらず、なぜか令嬢たちに恨まれるはまち。というのも、ジェラルド王太子はあれだけ諭してやったのにも関わらず、あの後、ジョセフィーヌの元に行っていないらしいのだ。


 ちょっと待って、どんだけ手のかかる男なんだ、ジェラルド様は。


 仕方がない、このはまちが一肌脱いでやろうじゃないの。ただ、一番大事なのはジョセフィーヌ嬢の気持ちだ。それを知るためにはやはり本人と親しくなるしかない。


 チャンスは今度、学園で開かれる夜会だろう。ゲームの中では、はまちが攻略対象の紳士にエスコートしてもらうことになっていた。


『はまちは今度の夜会どうするんだい?』

『くすんっ、あたし、エスコートしてくれる人がいなくて……だから、お部屋で勉強しています』

『僕にまかせてくれ、はまち。この夜会は君のデビュタントだろう? 一生に一度の機会なんだ。だから僕にエスコートをさせてくれないかい?』

『うれしい! ジェラルド様』

『はまち、僕と君との仲じゃないか。ジェラルドと呼んでくれないか』

『はい……ジェラルド』


 いや、お前は婚約者がいるだろうが! ジョセフィーヌ嬢をエスコートしろや。ゲームやりながらそう突っ込んでいたなぁ。この流れを何とか変えたい。


 放課後の教室、はまち、こと私が一人勉強を頑張っていると、例のジェラルド様がやってくる。


「はまちは今度の夜会どうするんだい?」


「でますよ! エスコートならば間に合ってますので、王太子殿下はぜひジョセフィーヌ様とご参加ください!」


「そ、そうか。はまち。この夜会は君のデビュタントだろう? 一生に一度の機会なんだ。だから……君のエスコートをするのは誰なんだい? ランスか?」


「えっ、それ、言わなきゃダメなやつですか? 殿下の知らない男ですけど」


「はまち、僕と君との仲じゃないか。ジェラルドと呼んでくれないか」


「いいえ、王族を呼び捨てになんてできません!」

「そ、そうか、そうだよな……」


 どんだけはまちにこだわるんだ、ジェラルドは。もし、これでジェラルドがジョセフィーヌをエスコートしないのであれば、もう本当にこいつは救いようがない。二人は別れた方がお互いの幸せな気がする。


 あ、ちなみに、私のエスコートはその辺の婚約者がいないモブにお願いしてある。


 夜会当日、私はモブA氏のエスコートで会場入りした。ジェラルドはちゃんとジョセフィーヌをエスコートしていた。ここまでは順調、第一段階クリアだ。


 次はファーストダンスだ。ゲームでは当然、はまちとジェラルドがダンスを踊り、それにショックをうけたジョセフィーヌはバルコニーに出る。それを見た彼女の取り巻きがはまちに詰め寄る。その後、取り巻きたちのはまちへのあたりが強くなっていき、最終的に令嬢たちの親玉みたいな立ち位置のジョセフィーヌが罪に問われるのだ。ジョセフィーヌ、何も悪くないのに。


 ジェラルドがチラチラとこちらを見てくる気がするが、無視無視っと。とりあえずモブA氏とめっちゃ仲がよさそうに振舞ってみる。


 あれ? どういうこと? 気が付いたらジェラルドが一人でいる。ジョセフィーヌはまさかバルコニーか!?


 こうなったら、モブAなんぞと踊っている場合ではない! 私はモブA氏を置き去りにしてバルコニーへと走った。途中ジェラルドが「はまち!」と声をかけてきた気がするが、うん、空耳だったことにしよう。


「ジョセフィーヌ様!」


 案の定、ジョセフィーヌはバルコニーでうつむいていて、モブ令嬢たちが慰めるように取り囲んでいた。彼女たちは、はまちに気が付いてこちらを睨みつけてくる。


「はまちさん! あれだけお願いしたのにわかっていただけないようね!」

「あなたのような方が本当に王太子殿下にふさわしいとお思いなの!」

「いいえ、まったくもって相応しいとは思っておりません(本音です。あの王子よりも私の方がずっと優秀なので! あの王子に私はもったいなさすぎなのですよ!)」

「だったら大人しく身を引かれるべきでは?」


 いえ、そうしていますってば! むしろこっちとしても進退窮まっている感じですよ。


「はまちっ!」


 ジョセフィーヌ様とお近づきになる前にジェラルドまでバルコニーにやってきてしまう。


「ジョセフィーヌ、君はまた、はまちのことをいじめているのか! 性懲りもなく!!」


 いやいや、完全に誤解です。ジョセフィーヌ様は何もしていません。というか、これ、急に断罪イベントが始まってしまった感じ?


「ジェラルド様、わたくしは何も……」


「君がここまで性悪な女だったとはな! 聖女となるはまちにたいする数々の嫌がらせ、この事実だけでも許しがたい! 本日をもって君との婚約を破棄させてもらう!」


「えっと、すみません、一言よろしいでしょうか?」

「なんだい、はまち、ジョセフィーヌは辺境の修道院に追放するからもう安心だ」


 先ほどまで鬼の形相でジョセフィーヌ様を責め立てていたジェラルド王子は、まるで自らが正義の味方であるかのようにはまちに話しかけてきた。


「私、ジョセフィーヌさまに意地悪なんてされていません」

「えっ?」


 ジェラルドは相当驚いていた。


「そもそも一度もお話したことさえありません。殿下は何をもって数々の嫌がらせなどとおっしゃるのでしょうか?」


「えっ、そ、それは……そう言われてみると、よくわからない気がする。なんとなくはまちがいじめられているような気がして……」


「なんとなくで証拠もないのにいじめを認定して、断罪して、婚約破棄して、追放すると?」


「…………」


 ジェラルドは助けを求めるようにランス小公爵などを見るが、彼らは目をそらす。


「殿下、差し出がましいのですが、殿下はおそらくこの私に幻想を見ておいでの様です。確かにゆるふわな印象の聖女だから、かわいらしく健気でか弱く、殿下に恋しちゃったりする女子に違いないと。ですが、今、目の前にいる私をご覧ください。私は、男性が理想とするような、できないアピールが得意なヒロイン女子ではなく、『君ならば一人で生きていける』と言われてしまうような超優秀なできる女です。ですので、私は本日をもって、みんなのアイドル愛され女子()()()を卒業させていただきます!」


「そう言われてみると、僕は、はまちがとても頼りない危なっかしい女の子だから僕の力が必要なはず、助けてあげないとと思い込んでいたよ。そして、僕がはまちを大切にするから、きっとジョセフィーヌは嫉妬して、はまちに意地悪をするだろうとも」


「私たちも勘違いしていた気がしますわ。はまちさんは殿下を誘惑する計算高い女だろうと。だから、ジョセフィーヌ様のために彼女を糾弾しないといけないと。なんだか目が覚めた気がしますわ」


「実はこれは、呪いです! ゲームの進行上の強制力による呪いなのです! ですが、今、聖女の私が皆さんの呪いを解きました。ですので、皆さんはこれから自由に生きていいのです。先入観にとらわれずに、一度今の状況を疑ってみてください。与えられたものをただ盲目的に信じるのではなく、自らの目で見て判断して、最善の道を選んでください」


「そうか! 呪いだったのか。すまない、ジョセフィーヌ。先ほど、婚約を破棄して追放すると言ったのは取り消そう」


「取り消そうで済む話ですか? 殿下のここ数か月の私への態度、私としてもほとほと愛想が尽きましたわ。呪いだったのかもしれませんが、それでも私は傷つきました。先ほどのお言葉通り、婚約は破棄で結構ですわ。そして、はまちさん、私もあなたが責められているのを知っていて、見てみぬふりをしてしまっていました。その点では同罪ですわ。謝罪させてください」


「私たちもはまちさんを責めてしまい、申し訳ありませんでした。今思えば、はまちさんは、あれだけ違うとおっしゃっていたのに……」


「待ってくれ、ジョセフィーヌ、君に婚約破棄されたら、僕はどうすればいいんだ? はまち、助けてくれ」


「そのようなこと、はまちに甘えずにご自分でお考え下さいませ」


 ジョセフィーヌにぴしゃりと言われてしまうジェラルド様。


「そこまでだ」


 ついに国王陛下の登場である。


「聖女はまちよ。さすがであるな。よくぞ我が愚息ジェラルドの目を覚ませてくれた。礼を言おう。はまちよ、この度のそなたの活躍に対して報いたい。望みはあるか?」


「はい、それでしたら、私をこの国の文官として取り立ててくださいませ。きっとお役に立ってみせましょう。そのためにこれまで学んできたのですから」


「我が国には女性を文官として採用する制度はないのだが……よかろう、そなたの望みをかなえよう」


 こうして、愛されヒロインの聖女はまちは、シャインフォレスト王国史上初の女性文官となった。そして、各種改革を断行し、女性が官吏として自立して活躍できる道を切り開いた。


 そして、それまでは良妻賢母であることのみ、言ってしまえば男に逆らわない都合の良い愛され女子であることを求められていた女性の地位を、飛躍的に高めることにも成功した。


 つまり、この世界において、私は間違いなく勝ち組なのだ!


 これが、私のクソゲーに対する、いやクズな男とあざとい女に対する復讐である。

ご覧いただきありがとうございます。


他にも短編と長編を書いていますので、よろしくお願いします!


【長編】

最強の悪女の仕立て方。~婚約破棄や政略結婚で不幸になりたくないので、そもそも婚約すらしたくなくなる悪役令嬢になってみせますわ!


【短編】

異世界転移したらイケメン王子だったのは有難いのだが、ヒロインが俺の婚約者にいじめられていると訴えてきた。

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