表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/17

第八話 定着してきた日々

 家の事をしながら、パンドラさんのモルモットになる。

 そんな生活が板についてきて一カ月。


 家事してる時はともかく、魔法の調べものしてる時に俺を見る目は完全に研究者のそれ。無属性の魔法という規格外の力を持つ俺は、パンドラさんのモルモットなのだ。


 それは良い。

 別に痛い事とかされるワケじゃないし。

 問題は、パンドラさんが研究熱心過ぎるという事にある。


 この一カ月で分かったが、パンドラさんは自身の事にわりと無頓着な面がある。

 調べものに夢中になると、地下室に籠って丸一日出てこないなんてのはざらだ。


 ご飯ですよーと声を掛けても反応が無いので地下室へ行くと、分厚い本の山に囲まれながら無心で筆を走らせている姿を目にした。


「ン、筆を止める時間も惜しい。食べさせてくれ」


 なんて視線を向けずに真顔で言われるんだから困ったもんだ。

 もちろん、召使なんでご主人様の命令にはしっかり従うわけだけど。

 いやぁ、美人の口元にご飯を運ぶなんて経験、人生で初めてじゃないかな!?

 記憶が無いから定かじゃないけど。

 そういうこと頻繁にしてる人生だったら良いよね。


 因みに風呂も入りそうになかったから、背中流しますよと言ってみた。

 下心はない。召使として当然の気配りだ。ホントだよ?


 だがしかし魔法ってやつは便利なもので、各属性を上手く組み合わせれば、その場で風呂って乾かした様な効果を得られるそうな。

 だからパンドラさんは直接風呂に入らずとも綺麗さっぱりしてるってワケ。


 でもせめて睡眠はしっかりとって欲しい!

 こもりっきりの書斎も散らかり放題だから掃除したい!


「もう夜も遅いですから、寝ましょうよパンドラさん。俺、書斎の片付けしときますから」


「夜か。星は出ているかい」


「星? 今日は晴れだから、月も星も出てますよ」


 俺の答えにそうかと頷いて、パンドラさんがようやく動き出した。

 目配せされた視線で付いて来いと命じられ、訳も分からずパンドラさんの跡を付いて行く。


 扉を開けて出た外は既に暗く、見上げる夜空には幾つもの星が散らばっていた。

 周囲を木々に覆われた暗い森の中だからか、星は一際強く輝いて見える。

 そのきらめきをぼんやりと眺めながら、夜の少し冷たい空気を吸い込んで、ほうと軽く溜息を吐いた。

 

「あの星が」


 隣で同じように星を見上げるパンドラさんが、おもむろに空に向かって手を伸ばす。

 指差した先は、遠くで輝く一つの星だった。


「君の故郷かもしれないね」


 その言葉に一瞬、面食らい、俺はそれから勢いよく吹きだして笑ってしまった。

 あまりにもロマンチックな冗談で、可愛らしいと思ったのだ。


「そっスね! だったら記憶が戻って里帰りってなった時、パンドラさんも一緒に行きますか?」


 折角の冗談だ。

 乗ってやろうじゃないかとニッと笑って返すと、ふっと笑んだパンドラさんと目が合った。


「いいね。是非ご同伴を願うよ。……少し肌寒いな。寝る前に一杯、頼めるかな」


「なんなりとっ」


 ご注文通りに、ハチミツを加えて温めたワインを用意する。

 カットレモンを一枚浮かべたそれを飲み干すと、パンドラさんはご機嫌な様子で床についてくれた。

 やれやれ。寝るまでで一苦労だ。



 それから物音を立てないように慎重に階段を降りて、書斎に入る。

 床にはなにやら書き綴られた紙が散乱して敷き詰められている。

 机の上は以前見た時よりもうず高く本が積まれ、物の置き場なんてありゃしない。

 机の隅、キセルから出る吸殻を捨てる銀の小皿の置き場だけはしっかり確保されていて、パンドラさんらしさに思わず苦笑する。


 一応パンドラさんから、書斎に入る許可は得た。

 とはいえ、この部屋に転がるものの価値は俺には計り知れない。

 大事なものを間違って捨てたり破いたりしない様に慎重に作業せねば。


 まずは机の上に乱雑に置かれた本と紙類を片付ける。

 どれも分厚く、表紙からして小難しそうな本ばかりだ。

 一冊一冊がそれなりに重たく、パンドラさんが本棚に戻すのを面倒くさがったんだろうという事が伺える。


 本棚のどこへ戻すか分からんし、取り合えず机の上の一か所に纏めておく。

 本を持ち上げた途端、ひらりと一枚紙が落ちた。

 本を置いて拾い上げた紙には、パンドラさん手書きの文字がぎっしりと書き記されていた。



『威力計測不可能』

『無=死、早計?』

『出血量、生存率。再計算……』

『総数を知る為に考えられる方法……』

『……異星の存在証明』

『確認。見た事か。愚かな奴だ』



 意図せずして目に飛び込んだ文面から思わず目を逸らす。

 俺に関する事だよなぁ、これ。

 どうやら俺は本当に良い暇潰しになっているようで何よりです……。


 あまり見ない方が良いと判断して、そっと裏返して本と本の間に挟む。

 今の俺はただの召使だ。

 余計なことは考えず、仕事に徹するのみ。

 どうにも記憶が戻る気配がないんだから、しゃーない、しゃーない。


 俺はパンドラさんを放っておけない。

 パンドラさんも俺の事も放っておいてはくれない。

 うんうん、バランス取れてる気がするわ、俺達!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ