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第七話 魔法使いと召使の日々

 俺がパンドラさんに助けられてから、一週間が過ぎた。

 一週間の間、俺がした事と言えば炊事洗濯掃除にパンドラさんの研究材料になったりと、そんな感じだ。


 残念ながら記憶は戻ってはいない。

 しかし不思議なことに、その事に対する悲壮感や焦燥感は薄いまま過ごしている。


 数日前に目にした、何もかも消えた村。

 きっとあそこには俺の家族や友人、可愛い恋人なんかもいたかもしれない。

 想像すると心苦しくはなるのだが、感情が激しく揺さぶられることは無い。


 うぅ……、俺ってスッゲー薄情な奴なんだろうか……。


 とは言え。

 そうは言っても、今は出来る事をするしかない。

 今日は朝からパンドラさんの研究に付き合っている。


「次。そこにある石を消してくれ」


「うぃース」


 指示を受けて、目の前に置かれたこぶし大の石に向かって手を(かざ)す。

 魔力を手の平に集めて放つ!

 手から魔力が放たれた感覚を覚えると同時に、石は一瞬で目の前から消えてしまった。


「……やはり駄目か。消える瞬間、糸も消えてしまうな」


 無の魔法で消されたものは、一体どこへ行くのか。


 それを調べる為にパンドラさんは消す物体に、魔力を練って作った糸を付けていた。

 魔力っていうのは、魔法を使う為に放出するだけのものだ。

 目に見えないエネルギー。

 それに形を持たせて扱うっていうのは、とんでもない技術力を持っているパンドラさんだから可能な事だ。


 数々の便利装置を見ても分かるが、パンドラさんって凄い魔法使いなんだろうな。

 魔法の知識は豊富で、扱える魔法の幅も桁違いに広い。

 なによりも、あの帝国兵を一瞬で蹴散らした魔法。

 とんでもない威力だったが、多分、あれでも手加減をしていたに違いない。


 底知れない実力と、無属性の魔法という未知の存在に対しても物怖じしない姿は、パンドラさんが尋常ではない経験を積んでいる魔法使いであるのだと物語っていた。


「糸による追跡が不可能となれば、直接魔力を付与した物体を消させるべきか。いや、魔力ごと消滅するだけか。やれやれ。分からない事があるというのは楽しいものだね」


 ご機嫌な様子のパンドラさんについ笑ってしまう。

 冷静沈着を絵に描いたような人だと思っていたが、こんな一面があるなんてなぁ。


「パンドラさん、研究熱心なんスね」


「いや、それは違うよ、ネモ。私は研究が好きなのでは無く、まだ知らない事を調べるのが好きなだけさ」


 この世界の事は知り尽くしていると思っていたと、パンドラさんが笑う。


「君には感謝している。こんなにも退屈せずに済んでいるのは、久しぶりだよ」


 元々、パンドラさんは一人で森に住んでいるんだ。

 そりゃ、退屈もするだろうな。


「無駄に長生きした甲斐があった」


「長生きって、そんな大げさな~! まだ二十代くらいっしょ、パンドラさん!」


 冗談まで言うなんて、今日のパンドラさんは余程ご機嫌だな!

 ……なんて思っていたのだが、パンドラさんの顔を見ると様子がおかしい。

 なんか、ものすごくニヤニヤしている?


「君の見立ては当たっているよ。見た目に関してはね」


「と、言いますと……」


 俺の疑問に答える様に、パンドラさんは手にしたキセルをふりふりと軽く振る。

 揺れに合わせて、煙がふわりと舞った。


「これには私の調合した薬剤が入っていてね。肉体の老化を止める効果があり、それを吸引する事で若い肉体を保ち続けている。……と、言ったら、君は信じるかい?」


 いぃッ!? なにそれ知らん!

 魔法の秘薬ってヤツ?(あるのか知らないが)

 まぁ、記憶喪失で無属性の魔法使うヤツがいるくらいなんだから、それくらい有り得る……か?


「そしたらパンドラさんは、パンドラおばーちゃん……だったり?」


 言って、しまった! と口を慌てて手で塞ぐ。

 バッカ!! 女性に向かって何言ってんだよ俺は!


 青褪める俺とは対照的に、パンドラさんは顔を俯かせて笑っていた。

 顔が見えないのにどうして笑っていると分かったのかと言うと、肩が小刻みに揺れて、発する声が震えているからだ。


「おっ、おばっ……、ふふっ、私に向かってそんな事を言ったのは、君が初めてだよ……っ」


「スミマセンっした!!!!」


「いや、良いんだ。楽しいよ。こんなにもフランクに接してくれる相手など、居なかったからね」


 はぁ、と息を吐いてパンドラさんが姿勢を正す。

 俺も勢いよく下げた頭を戻して、パンドラさんに向き直す。

 うーん。確かに立ち振る舞いが、二十代にしては威厳ありすぎるとは思ったけれども。それにしたって、なぁ?


「私は生まれつき魔力が強くてね。強力な魔法使いだと持て囃され、大国に従事した事もあったがすぐに追い出されてしまった。どうにも、強すぎる力は災いを呼ぶそうだ。実にくだらない。それ以来、誰に従う気にもなれなくてね。私は森に結界を張って引きこもり、好きにやらせてもらう事にしたのさ」


 強すぎる力は災いを呼ぶ、ねぇ。

 もっともらしい言い草だとは思うが、それって要は自分たちで制御できない力はイラネって事だろ? 自分たちの弱さを棚に上げておいて、パンドラさんに対して失礼だ!


「しかし今となっては、全てが切っ掛けに過ぎなかったのだと思っている。ネモ。私はね、全ての事象に無意味なことはないと考えているんだよ。今日まで私が生き永らえているのも意味があった。君に出会うという意味がね」


 唇の端を吊り上げて、パンドラさんが妖しく微笑む。

 ドギマギしながら、俺はへらりと笑う事しか出来なかった。


 ……あぁ、美人の笑みにこういう反応しちゃう辺り、俺ってきっと女性と接点少なかったんだろうなぁ。


「さて、無駄話は終いだ。調査を再開しよう。その後はそうだな、小腹が減ったか。何か頼んでも?」


「喜んでー!」


 早速頭の中で何を作るか考えながら、再び指示通りに魔法を振るうのだった。



 しかし、全ての事象に無意味なことはない……か。

 だったら記憶が無い事も、無属性の魔法が使える事にも、何か意味があるンだろうか?


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