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最終話

 ――ここから先は私が語ろう。


 魔王の消滅により空席となった玉座の前に立つ。

 主を失った玉座の間は、耳が痛いほどの静寂に包まれていた。


 此処にネモの姿は当然無い。

 概ね、魔王と共に消え去ったのだろう。

 魔王相手に相打ちならば、中々の結果と言えるだろう。


 それでも何か一つくらい痕跡を残してくれても良いのではないかと思う。

 魔王と言う統治者の消滅と共に、各地を転々としていた魔物達も消えてしまった。

 これでは研究も何もあったものではない。


 それはネモ、君そのものもそうだ。

 私はまだまだ無属性の魔法を調べたかった。

 君に宿る彼らを調べたかった。

 ネモと言う名を与えた君が、何処から来たのか知りたかった。


 終わったことは仕方がない。

 残念ではあるが。


 誰でもない君が成し得た偉業。

 歴史に残る事も無ければ、私以外の誰が知る事でもないだろう。


「これはそんな君への手向けだ。受け取ると良い」


 私は手にしていたキセルをそっと玉座に置いた。

 火皿から煙が立ち上り、天へ伸びていく。

 もしも君が再び無から有へ戻る事があるのなら、この煙を目印にすると良い。


 君が守った星は、いつまでも君を待っているだろう。




 感傷に浸るのもほどほどに、玉座の間を後にして森に戻る。

 木々の間からは晴れ間が覗いていた。

 館に戻るとテーブルの上にメモ書きを見つける。

 全く。これくらい口頭で伝えてから出れば良いものを。


 指示通りに保存箱からサラダを取り出し、シチューを温める。

 鍋一杯に随分とたくさん作ってくれたものだ。

 暫くは食べるに困らない。

 湯気が上がり、ぐつぐつと煮立ってくる。

 火を止めて器に盛って席に着く。

 スプーンで一匙掬い口に運び、この味がもう鍋一杯分しかないのは残念なことだと思った。


 のんびりと食事を摂って、食器を水に浸して放置する。

 どうにも今すぐに洗い物をする気にはなれない。

 召使の不在とは不便なものだと、一度知ってしまった楽さに苦笑してしまう。


 だが、新しい召使を雇うつもりは無い。

 私はネモだから召使として手元に置いたのだ。

 正体不明の存在は、僅かな日々ではあったが私に確かな刺激を与えてくれた。

 だからこそ、また無味簡素な日々が続く事に少々後悔してしまっている。



 らしくなく暫く呆けていると、不意に館周辺に張った結界の変化に気が付く。

 何かが結界の内側に入り込んだ……?

 まさか。ネモは消え、魔の者に属する存在も消滅したはずだ。

 疑念を抱きながらも、私は萎びていた好奇心がむくりと頭をもたげるのを感じていた。


 結界は館を中心として、半径十メートルに渡り張り巡らされている。

 館を出た私は、反応のあった場所を探りながら周囲を見回す。



 木漏れ日を浴びるようにして、うつ伏せに倒れている青年を見つけたのはすぐの事だった。



 青年は結界の内側で倒れている。

 ただの人間ではない事は明らかで、私は少しばかり胸の高鳴りを覚える。

 時折弱々しい呻き声が漏れる。どうやら生きているらしい。

 私は青年に近寄り、側に腰を下ろして体を揺さぶった。


「君、生きているかい?」


「あ……あぁ、……生きて、る……」


「そうか。動けそうにも無いのなら手を貸すが、どうする?」


「大丈夫……一人で、起きれる……」


 ひくりと体を震わせて、青年はゆっくりと上半身を起こした。

 軽く伸びた茶色の髪がふわりと揺れる。

 体をふらつかせながらも両足でしっかりと地を踏みしめて、青年は面を上げた。


 明らかになった青年の顔を見て、私は思わず目を見開く。

 青年の顔は、今日まで見てきた召使にそっくりだった。

 特に深い海を連想させる蒼い瞳は、他人の空似と言うにはあまりにも同一過ぎた。


「あの……、僕の顔に、なにか?」


「ン、失礼した。知人によく似ていたものでね。それで。君はどうしてこんな所で倒れていたんだい?」


「それが……分からないんです……」


 青年は戸惑いを隠せない様子で顔をしかめる。

 前後の記憶が無く、気が付けばここに居たのだという。


「私はパンドラ。君の名は?」


「シリウスです」


 どうやら記憶喪失という訳ではないらしい。

 そして名前を聞いて、私は全てを察した。


「良い名だね。ここは迷いの森の奥地だよ。出口まで案内しよう」


「迷いの森!? あっ、でしたら大丈夫です。僕、この近くの村に住んでるので一人でも帰れます」


 現在地が分かったことで安堵したのか。

 シリウスと名乗る青年の表情が和らぐ。

 その顔付きは別れを告げたネモに重なって見えて、私は密やかに目を細めた。


「いや、私も行こう。丁度、村の方に用があってね」


「だったら是非! 村に着いたらお礼をさせて下さい」


「礼? 私は何もしていないよ」


「そんな事ないですよ。声を掛けて助けてくれたじゃないですか」


「……そうだな。私は君を助けた。では行こうか、シリウス。もう二度と迷わぬ様に、私が導こう」



 

 どこか遠くで見ているだろうか。

 君の行いは生まれ変わりの奇跡を呼んだ。


 魔王を倒すという偉業を成し遂げたんだ。

 これくらいの褒美は有って当然だろう。

 褒美を受け取るべき君がいない以上、仕方が無いので私が受け取り、しかるべき場所へ送り届けてあげよう。


 私は君の、雇い主なのだからね。




 終

これにて完結です。

ここまでお読みくださり、ありがとうございました!


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これからの執筆の励みになりますので、何卒よろしくお願いいたします。

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