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第十六話 最後のその時まで

 彼らの力を手に入れた今、俺には無限とも言える魔力が流れていた。

 パンドラさんの手を借りずとも、転移魔法だってお手の物だ。

 全身を包むような浮遊感。

 今すぐにでも飛び立てるという中、俺はパンドラさんに頭を下げた。


「パンドラさん、いってきます」


「いってらっしゃい、ネモ」


 頭を上げれば、今までで一番優しく笑んだパンドラさんがそこに居た。

 やっぱりパンドラさんって美人だなってこんな時にも思ってしまう。

 俺、パンドラさんに出会えてよかった。


 消える最後の瞬間までパンドラさんを見つめていた。

 そしてこれが、俺がパンドラさんと交わした最後の言葉になった。




 再びの転移は一瞬で終わり、俺はあの玉座の前に再び立っていた。

 玉座には魔王が仰け反る様に座り、その隣には黒衣の男が一人だけ立っていた。

 魔王は紅の瞳をぎょろりと動かして、俺の周囲を見渡した。


「パンドラはどうした。貴様に用は無い」


「パンドラさんは来ねぇよ。アンタが俺に用が無くても、俺はアンタに用がある」


 体の中から膨大な魔力が溢れ出る。

 奴を倒せと俺の全てが咆哮する――!


「ッ、王よ! 御無礼をお許し下さいッ!」


 大鎌を構えた黒衣の男が、俺を斬ろうと魔王の側から飛び出した。

 一瞬で間合いを詰めた男が躊躇なく鎌を振り抜く。

 しかしその刃が俺に届くことは無い。

 鎌の刃が風を切る音すら消し去って、全てが目の前から消え去った。


「ほう」


 魔王の嘆息だけが耳に付く。

 今の俺は、常に無属性の魔法を発動している様なものだ。

 彼らが俺に与えてくれた力が、無限の魔力になって溢れ出る。

 予備動作もなにも無く、俺の意志一つで何もかも消し去れる程だ。

 その証拠に、大鎌を構えた男は跡形もなく姿を消していた。


 俺は魔王を睨みつける様に見据えた。

 魔王は目の前で側近が消されても、表情一つ変えやしない。


「先ほどよりも魔力の出力が上がっているな? 意志の統合でも図ったか」


 答える代わりに俺は魔王に一歩ずつ歩み寄る。

 一歩一歩を踏みしめるようにして進み、玉座の前に立つ。

 目と鼻の距離。

 手を伸ばせば触れられるほどの近さに立って、座る魔王を見下ろした。


「……アンタ、この星も吹き飛ばすのか?」


「無論。余を呼び出すとはこういう事だ。恨むならば無能な皇を恨め」


 言われなくても、全ての元凶である帝国皇帝の事は恨んでいる。

 魔の者なんか呼び出そうとしなければ、村が消されることは無く、シリウスが命を落とすことも無かった。


 けれどそれは全て結果論だ。

 そうなっちまったもんは今更どうしようもない。

 過去は変えられない。

 けれど……未来は変えられるんだ。

 まだこの星の消滅は避けられる。


「確かに俺自身はアンタに恨みはない。だから恨む前にアンタを消す。消えてくれ」


 祈る様に口にした途端、急に俺の体から重さが失われた。

 視界が欠けて見えにくい。

 残った視界で自身を見れば、体の右半分が丸々失われている事に気が付いた。

 鋭い刃物で切り取られた様な鋭利な切断面。

 けれど血が噴き出す様子はない。


 魔王は指先一つ動かしていない。

 視線一つで俺はこうなってしまった。

 タダでは済まないとは思っていたけれど、やっぱりこうなるか。

 悪ぃ、シリウス。

 お前の体、めちゃくちゃになっちまった。


 しかし俺達の決死の覚悟は無駄ではない。

 魔王は変わらず玉座に悠々と腰を掛けているが、見れば俺と同じように左半身が消失していた。

 切断面には漆黒の闇が蠢き、今にも溢れ出そうな様子でいる。


「余を無に帰すか。喜べ、この星は救われたぞ?」


 残った半身を千々に砕けさせながら魔王が笑う。

 俺の残った視界が欠けてきた。

 どうやら俺もまた魔王と同じく千々に砕けようとしいるらしい。


 俺と魔王は無言で見合った。

 交わす言葉もなく、互いに消える最後の瞬間まで見つめ合う。

 最後まで魔王は浮かべた笑みを絶やすことは無かった。

 そして俺もまた、最後の最後に僅かに残った唇の端を吊り上げて笑っていた。






 大波に揺蕩(たゆた)う。

 天地左右を失った真っ白な世界に浮かぶ。


 ――同胞よ。良くぞ成した。


 そりゃどうも。

 でも、これは俺とアンタらの掴んだ勝利なんだ。

 アンタらの執念があればこそ。

 だからアンタら全員、良くやったよ。


 心の底からそう思うと、周囲に満ちていた彼らの気配が一つ一つ消えていく。

 ようやく戦いから解放されたんだろう。

 そう思うと他人事ながら、思わず安堵した。


 最後に取り残されたのは俺とあいつだった。

 互いに肉体も無く、存在は精神だけであってもそれが誰か分かる。


「悪ィな。お前の体、滅茶苦茶になっちまった」


「構わないよ。ありがとう、星を……いや、ラナを守ってくれて」


「体貸してもらった恩返しだ。じゃあな。お前はラナの所に帰れよ」


「いや、僕はもう死んだんだ。このまま君達と一緒に、」


 そう言うと思ったよ。

 お前、真面目そうだからな。

 俺は最後に残った力でシリウスを突き飛ばした。

 白い空間から弾かれて、シリウスは重力に引かれて落ちていく。

 

 星に落ちていくシリウスを見送って、俺は詰めていた息を吐き出した。

 無に帰る最後の瞬間まで、青く光る星を見つめ続けていた。


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