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八話 かみさまからのおくりもの

ギリギリ毎日投稿継続

「よく来たな若者よ」


 眩い光に包まれ、覚ました時、俺は既にそこに存在していた。

 ここがどこだかわからない。

 ただ、もう二度と、元いた場所に帰ることができないことくらいは理解できた。


 目の前には光り輝くおじいさんがいた。

 おそらくは彼がここに俺を呼んだのだろう。


「いきなりのことで驚いてるじゃろうが……ってええ!?何してんの君!?」


 オーバーリアクションで驚いたおじいさん目の前で、俺は地面に頭がのめり込む勢いで土下座をしていた。


「お願いします……元の場所に戻してください」


「じゃ……じゃが……そう言われても、もう戻せないのでな……」


 おじいさんは申し訳なさそうに視線を落とした。


「お願いします……妹が……俺には帰りを待つ妹がいるんです……」


 だが、どんなに頼まれようとも、この場所に来てしまった時点で戻すことはできないのだ。

 自分で呼んどいてなんだが、おじいさんは早々に居た堪れなくなっていた。


「あのぅ……一度顔を上げたらどうじゃ?」


「嫌です」


 ーーーーああもうこれどうしよ、お爺ちゃんなんだか申し訳ないよ……


「えっと……では今から転移してもらう異世界について説明していこうと思うんじゃが……」


「そう言うのいいんです、早く元の世界に返してください」


 刹那、沈黙が周囲を支配した。

 おじいさんは俯き、しばらくして頭を上げると、ものすごい勢いで「もうわかったっ!おじいちゃんの特大サービスで転移特典にプラスで妹ちゃんが大人になるまでのお金と祝福を用意するからっ!」と提案して来た。


 俺の耳がピクリと反応した。


「大人になるまでとは言わず死ぬまでにしてくださいっ!」


「おけまるっ!死ぬまでにしてあげるから君は異世界に転移してっ!」


「わかりましたっ!」


「よろしいっ!」


 こうして、俺はおじいさんの提案に承諾し、半ば強引にだが、異世界への転移を決めた。

 これから行く世界、与えられた能力、そして目標、それらの説明を受け、いざ異世界へと……


「なんで街じゃなくて森の中なんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 こうして、月城トウマの異世界生活が森の中で幕を開けたのであった。


 *****


「ったく、つくづく俺は運がねぇな」


 呟きながらトウマは何もない場所に手を伸ばす。

 次の瞬間、トウマの手の周りに歪みが生じ、そこから美しい純白の剣を取り出した。


「『天剣』ヴァルキリー」


 黄金で出来た持ち手に、天使の羽がかたどられたつか、刀身は神々しく白色に光り輝いており、見ているだけで、まるで芸術品のような壮麗さを感じさせられる。


「おいおい、冗談だろ……」


 言いながらアランは後退りする。

 当然だ。

 アランは『魔法解除』を主軸にした戦い方をする魔導士だ。相手の使うものが魔法以外の場合の想定もしてある。だが、あれは想定外、というよりか、生きているうちに一度、拝めることが出来るか出来ないかくらいの代物、それすなわち、


「神器」


 ミレーネが呟く。


「ここまでとは思わなかったよ、まさか、神器を所有しているなんてね」


 ヴァルキリーがより一層眩く光り輝いた。


「アラン!!今すぐ逃げるぞ!」

「ああ、言われなくてもわかってる!」


 急いで二人は逃げようとする。


「だが、もう遅い」


 ミレーネは杖を構えてアランとフィンの周りに全力で防御魔法を重ねがけをする。

 何重にも重なった防御魔法は、肉眼でも見えるほどに厚くなってはいるが、これでもまだ足りないだろう。体が、否、魂が震えている。

 あれはまずい、放っておけば、アランとフィンが死んでしまうかもしれない。

 まさに想定外の出来事。


 間に合え、間に合え、間に合え……


 その瞬間、世界が白に包まれた。

 つるぎを振り下ろすだけで辺りの雪は一滴残らず蒸発し、トウマの正面50mほどにあった大木は全てすっぱりと、綺麗な断面を残して倒れる。


 それを成し遂げた『天剣』ヴァルキリーの所有者であるトウマは、ぐるりと周囲を見つめる。見ると、彼の周りが、無数のひょうに囲まれていた。ミレーネが出したのだ。

 彼女は拍手をしてトウマの前に現れる。


「いやはや、見事なものだね、『天剣』ヴァルキリー」


 言いながらミレーネは気を失っているアランとフィンの方を見つめる。

 ミレーネが何重にも重ねたはずの防御魔法でも受け止めきれなかった一撃、幸いにも、体がひしゃげるような事態に、なってはいないが、あと少しでも防御魔法の展開が遅れていた場合、それが現実に起こっていたかもしれない。


 神器。

 それは人に神と同等の力を与える、世界のことわりに干渉するほどの力。

 それらは世界の至る所に存在し、所有者となれば、国の歴史に名を刻めるほどの代物。法則化なんて到底出来ない、不条理な力。


「何かしら力を持っているとは思っていたけど……神器とは思わなかったな」


 トウマと出会ったあの森は、『冥府の魔森』と呼ばれる森で、他の場所と比較して、かなり魔物が出る地域だ。


『そう言うことじゃないってなんだよ!!なんで信用してくれねぇんだよ……せっかく人に会えたってのによ……』


 あの時、トウマはそう言っていた。

 ということは人が恋しくなるくらい長い間、あの森を彷徨っていたと言うことだ。当然、魔物と戦える力を持っているはず、だから、ミアクマの認識阻害魔法を見破った時、彼はミレーネよりも高い魔力を持っていて、その魔力で魔法を使用して生き残っていたのだと考えた。

 そう考えれば、都合が良かったからだ。


 だが、その力も全部、神器に頼っていたのだとしたら?そう考えた瞬間、喉の奥につっかえていたものが取れたような感覚に陥った。

 それは、


「君は……本当に異世界から来たんだね」


「ーーーー!!信じてくれるのか!?」


 トウマは声を弾ませてそう聞いてくる。ミレーネはそれに、「ああ、もう信じるしか選択肢がないからね」と答えた。


「そこで君に選択肢をあげよう」


 ミレーネは言いながら手を合わせた。


「選択肢ってなんだよ」


 トウマが訝しげに聞いてくる。


「ここでボクに殺されるか、ボクと共に旅をするか」


「どっちも嫌だね」


「ふふ、即答か、これでも少しは傷つくんだよ?まあいい、とりあえずボクの話を聞いてから決めておくれよ」


 言いながらミレーネは手を後ろに回して歩き出す。


「まず、一つ目の理由、君の持つ『天剣』ヴァルキリーの力が強すぎること。このまま野放しにしておけば君がいつか帝国に害をなす敵になるかもしれない、だから今のうちに排除した方がいい」


 ミレーネが話した瞬間、トウマは剣に力を込める。

 ーーーー今は何もしないのにね。


「まあ君が、ボクと一緒に来てくれるのなら、監視できるから殺さなくてもいいんだけどね」


 ミレーネとて不要な殺しはしたくないのだ。


「次に二つ目の理由、おそらく、ここで君を殺さなかったとしてもいつか捕まる。そして、君は皇帝の名の下に処刑されるだろう」


『天剣』ヴァルキリーの力が強いとは言えども、トウマがその強力な力を使いこなせていない。このくらい力なら、他のエンパイアのメンバーが複数人がかりで戦えば全然勝てる。

 捕まった先には神器剥奪のためにトウマは処刑される可能性が高い。


「お分かりいただけたかな?」


 ミレーネが聞く。

 すると、トウマはギリ……と口を噛み締めて周囲の雹を『天剣』ヴァルキリーで振り払った。


「お前はさっき、俺を倒せるって言ったな」


「ああ、言ったとも」


「なら、倒してみ……!!??」


「おや、何か言おうとしてたかな?」


 刹那、トウマの体は地面に倒れる。

 思わず離してしまった剣が、トウマの体に足を乗せるミレーネの手に渡った。


「これに力があるだけで、君自体には大した力はないんだろ?」


「俺が言い切る前に襲いかかってくるとか……反則だろ……」


「ふふ、君にいいことを教えてあげよう。殺し合いの世界に反則なんてない、勝者だけが正義なんだよ」


 言いながらミレーネは剣をトウマの首筋にひたりとつける。


「さあ、これが最後だよ、ここでボクに殺されるか、それとも、ボクと共に旅をして、少しでも長く生きるか、選択権は君にある。3秒以内に選んでくれ、3」


 トウマは黙ったまま何も喋らない。


「2」


「あー、もうわかったよ」


「1」


「言っとくが、お前の旅についてくだけで絶対助けたりしねえからな、お前が死んでくれれば万々歳だ」


「ふふ、決まりだね、これからよろしく頼むよ、ツキシロ・トウマくん」


 ガチャッと何かが音を鳴らした。

 こうして、トウマは強引にもミレーネの旅について行かざるを得なくなった。

<視点外の出来事>

ミアクマは魔法の効果が切れたので、その反動で地面にうずくまっています。

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