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七話 アランとフィンの固有魔法

 アランの固有魔法、『魔法解除』はその名の通り、魔法を解除する魔法である。

 解除対象となるものは、発動途中の魔法から発動後の魔法まで、それに加え、解除した魔法の魔力はアランに還元されるというチート性能、真正面から魔法戦を仕掛ければ勝ち目はない。


「ーーーー真正面から、ならね」


 どんな相手にでも弱点や対処法は必ずある。非の打ち所がない完璧なもの存在しない。

 ミレーネの頭の中に、かつてそう話していた恩師の姿が思い浮かぶ。


『ミレーネ、完璧を追い求めんなよ、なにせ、この世界には完璧なもんなんて存在しねぇかんな』


「まあ、アランは一度倒したことのある相手だ。対処法ならわかってる」


 ミレーネは呟きながら周囲に無数の小さなひょうを生み出す。

 だが、それらは魔法で生み出されたもの、すなわち『魔法解除』の対象物である。


「はっ、ミレーネ、芸がねぇな」


 言いながらアランは雹を『魔法解除』を使用して消滅させる。


「ふふ、君ならそうするだろうと思ったよ」


 刹那、アランの耳元でミレーネの声が聞こえた。


「あれは囮だったってわけか、さすがだな、ミレーネ、ま、俺は最初から分かってたけどな!」


「おお、さっきまで芸がないとか言ってたやつの発言とは思えないな」


 互いに視線を交わしながら、二人は煽り混じりの会話のキャッチボールをする。そのままミレーネはアランとの距離を詰め、ゼロ距離でアランに雷魔法をぶち込んだ。

 アランはそれをかわしきれず、モロに受けてしまう。

 雷がアランの体中を這い回り、筋肉を痙攣させる。


「だけどそれは一時的なものだ」


 ミレーネは呟く。

 すると、アランは自身に『魔法解除』を使用し、そのままミレーネに向けて炎魔法を放った。

 当然、ミレーネは身をよじってそれを避ける。


「ふはぁ!やっぱすげぇなミレーネ、わかるぜ俺は、お前、俺の魔法を研究したんだろ?」


 先ほどの魔法を無力化したアランは、愉快げに指を指してくる。

 アランから距離を取ったミレーネは、近くに着地をして「研究、といえるものなのかはわからないが、それに近しいものはしているね」と返答した。


 珍しいことに、アランの言っていることはあながち間違ってはいない。


『ミレーネ、この世のもんはな、全部法則があんだよ』


 幼い頃、ふと師匠にそう言われたことがあった。


『魔法もだが、生き物にも、事象にも、植物にも、全部法則がある。そこでアタシは考えた、相手の動きを法則化してれば戦いが楽になるんじゃねぇかってな』


 この世界にあるものは何かしら法則があり、それらが何重にも重なっているから難しく感じるだけであり、紐解いていけば意外と単純になるのではないか。

 師匠はそう言っていた。

 簡単に言ってはいるが、実際にやって見ると難しいものなのである。

 だが、習得できれば、それは強力な武器となる。


 人には人の法則があり、それを読み解けば楽に戦いが楽になる。

 師匠に教えて貰った法則と言う概念は、いつの間にかミレーネの体に定着していた。

 今では無意識に法則を読み解いてしまうくらいに極めてることができている。


 師匠との会話を思い出しながら、ミレーネは氷魔法で数千の矢を創り出した。


「ほら、全部消してみなよ≪零度千矢ゼロ アイシクルーチェ≫」


「はっ、そう来なくっちゃな!」


 アランは楽しそうに迫り来る矢を避けて次々に消していく。

 ーーーー次の手を考えろ。


 魔法戦とは、創意工夫が試される戦いだ。

 ただ闇雲に魔法を行使していても、敵に当たらなければ無意味、魔法戦とは、自分の魔力量、そして、自分の力を最大限に活かすことが重要となる。


 ーーーーアランの法則は魔法で生成されたものを全て消すこと、まあ、あんな力を持ってたらそんな癖がつくのも無理ないか。


 考えろ。


 ーーーーこれは時間稼ぎなんだ。いつも通りアランを瞬殺することはできるが、まだあいつは起きていない。


 なら、


「アラン、追加でこれもどうだ?≪氷人形アイスドール≫」


 言いながらミレーネは5体の氷の人形を創り出し、アランを追尾させた。

 これでもうしばらくは時間稼ぎができるだろう。


「フィン、君は不意打ちが苦手だね」


 刹那、人一人分ほどの大きな炎の塊がミレーネに突進してきた。

 ミレーネはそれを風魔法で進路を変えさせる。


「ったく、やっぱ駄目か……」


「フィンの固有魔法は不意打ちに向いてないっていつも言ってるだろう?」


 フィンの固有魔法、『気体化』は、その名の通り体を気体に変化させる魔法だ。

 魔法を行使した場所に存在する気体ならば何にでもなれる。それに加え、その気体の性質を受け継ぐことができる。現に、酸素に変化していたフィンは自身に炎魔法を使用して燃え上がりながらミレーネに突っ込んできた。

 文字だけ見れば人体発火現象のように思えるが、酸素になっているフィンは熱を全然感じないそうだ。


 だが、この魔法にも弱点がある。

 それは、魔法使用中は攻撃が相互に当たらないと言うことと、魔法使用後は体の重さが極端に上がってしまうこと。

 だから学生時代にミレーネはフィンに提案した。


『その気体の性質を利用して戦えばいいのではないか?』と。


 そのおかげかフィンはエンパイアに所属できるほどに強くなった。

 まあ、フィンの魔法の弱点を知っているミレーネからしたら相手にもならないのだが……


「先輩!私のハートも激しく燃えてますよぉ!」


 上空に浮かぶフィンを見つめていると、吐息がかかるほどの距離にシンシアが来ていた。


「なるほど、≪全力突撃フルチャージ≫に身体強化と風魔法を同時に使用したのか」


 言いながらミレーネは風魔法を利用して近くの大木の上に飛び移る。


「せ、先輩〜!これ止まらないんです〜!!」


 勢いが強すぎたのか、シンシアは止まることができず、進行方向の先にあった大木に突撃してしまう。

 大木が大きな音を立てて破壊される。


 その下では目をぐるぐるさせてのびているシンシアがいた。

 これは戦闘不能だろう。先ほどすれ違いざまにみたシンシアの鼻からは血が出ていた。おそらくは魔法の重複使用による反動のせいだろう。

 シンシアは、もうこれ以上、魔法の使用はできないと思われる。


「まあどちらにせよシンシアにはすぐ寝てもらう予定だったからね」


 シンシアの法則は基本的に真っ直ぐ、正面突破だ。

 大抵の相手ならばシンシアのスピードに対応できず、防戦一方になるだけだろうが、ミレーネにそれは通用しない。


「さて、残りはフィンとアランか」


 言いながらミレーネはミアクマの方を見る。

 見ると、ミアクマは体をありえない方向に動かしている。それを見たミレーネは猟奇的な笑みを浮かべた。

 すると、ミアクマはこちらの視線に気がついたのか、サムズアップをしてきた。


「おいミレーネ、自分の心配をしたらどうだ?」


 刹那、フィンによって殴り飛ばされ、ミレーネは地面に向かって急速に落ちていく。


「フィン、面白いものが見れるかもしれないよ」


 言いながらもミレーネは落下を続ける。


「おいミレーネ!そのままだと死ぬぞ!」


 先ほどの魔法を全て捌き切ったアランが大声で叫ぶ。


「これが吉と出るか凶と出るか、ボクにも想像がつかないよ!!」


「おい、お前は自殺志願者か?」


 刹那、ミレーネは何かに抱えられるのを感じた。

 そのまま近くにお姫様抱っこをされたままミレーネは地面に降りる。


「君なら来てくれると思ってたよ、月城トウマ」


 そこにいたのは、ミアクマの中で気を失っていた自称異世界転生者、月城トウマであった。


「お前、俺のことを信用してなかったんじゃないのか?」


「ああ、そうだとも、ボクは君を信用してない、だけど」


 言いながらミレーネは足を地面におろす。


「君を信用するかしないかは今から決める。ここからは先の君の行動次第さ」


「なんで上から目線なんだよ」


 ミレーネはシュッと杖を取り出してトウマの首筋に当てる。


「いいかい?君の命はボクに握られている、そのことをよく理解することだね」


 ミレーネはそう言ってフィンとアランのいる方向を見つめた。


「フィン、アラン!こいつのことは君たちに任せたよ、煮るなら焼くなり勝手にしてくれ」


「おい!お前!」

「しーっ」


 ミレーネはトウマの唇に人差し指を当てる。


「ボクは君を助けないし攻撃もしない、だから生き残りたかったらあいつらを倒すしかない、異世界人様には理解できたかな?」


「あー、俺やっぱお前嫌いだわ」


「それはどうも」


「反応が違ぇだろ、…………まあいい、やるしかねえかんな」


 トウマはそう言うと一歩前に足を踏み出した。


「おし、行くぞっ!」


「さて、お手並み拝見と行こうか」


 次の瞬間、トウマは一気に走り出した。

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