四話 さあ、本当のところはどうなんだい?
「さあ、ここで君の処遇を決めよう」
ミレーネが話しかけると、少年は食事を止めて身構えた。
「なんでこんなことをしないといけねぇんだよ」
「これも、帝国の法律でね、不法入国者は捕らえるか即刻処刑しないといけないんだけど、ボクは無意味な殺しはしたくないからね、悪く思わないでくれ」
ミレーネが言うと、少年はこくりと頷いた。賢い判断だ。
「ではまず最初の質問だ。君の名前は?」
「……俺の名前はトウマ、月城トウマだ」
嘘発見器が緑色に光る。本名で間違い無いだろう。
「ふむ、では次、君の出身地と年齢、そして職業を答えてくれ」
「出身地は日本で、16歳、職業はコンビニ店員をしていました」
トウマの声に反応した嘘発見器はまたもや緑色に光る。だが、トウマが話す単語は、どれも聞き覚えのないものであった。
「にほん……聞いたことのない国だな……」
おそらくこの西方大陸には存在しない国なのだろう。だが、北方大陸と南方大陸にある国の名前にそんなものは無かった。東方大陸に存在するのかもしくは……
「本当に異世界から来た」
だが、断定できないにしてもその可能性が浮上してきているのもまた事実。
それに、コンビニ店員という仕事も聞いたことがない。
もしかして本当に……!
「いや、さすがにそれはないな、嘘発見器が壊れてしまっているのだろう」
あんな摩訶不思議な話を本気で考える暇などない。
ミレーネは強引に嘘発見器が故障しているのだと決め付け、ボンサックの中にしまう。
帝国の保証するものを疑うのは反逆罪に当たるが、今回は仕方がない。帝都に戻ったら魔道具を修理に出しておこう。
「さて、これからどうしたものか」
トウマは不法入国者なのだ。だから帝都へ送り届けなければならない。だが、今帝都へ帰ってしまえば、ミレーネは二度と旅を続けることができないかもしれない。
ならば次の目的地であるアイシクルロード領の領主にトウマを引き渡して帝都に送ってもらうしかない。しかし、この方法はミレーネの個人的な都合から使うことができない。
「トウマ、君はこれからどうしたい?」
ミレーネが聞くと、トウマは遠い目をして「俺には使命があるんだ……」と言って手のひらを見つめた。
ーーーーうん、本当に重症だね。
これはまずい。早く頭のお医者さんに診てもらわなければ何をしでかすかわからない。
「それで、その使命とはなんなんだい?」
前に厨二病にかかってしまった人には優しく話を聞いてあげるのがいいと、どこかで聞いたことがある。
「俺の……使命……」
トウマはポツリと呟く。すると、次の瞬間、彼は右腕を押さえて悶え苦しみ始めた。
ーーーーこれはもうダメかもしれないね……
ミレーネは思いながらコーヒーを飲む。
「なら、危険だがこうするしかないか……」
ほぼ運要素が高い作戦だが、あの子たちならきっと来てくれるはずだ。
「トウマ、しばらくボクと一緒に来ないかい?ボクたちは今、帝国を旅していてね、君はどうせ行く当てもないだろう。それなら一緒に」
「ヤダ」
即座に断られた。なんなら言い切る前に断られた。
トウマは続けて「俺のことを信用してないやつと旅なんてしたくないね」と言い、サラダにフォークを突き刺した。
「なら、信用するよ」
ミレーネが言う。
だが、トウマは「どうせ信じてないんだろ?そんなのわかるって」と言ってミレーネの提案を跳ね除けた。
「どうしたものかな……」
ミレーネが考えていると、宿の扉が開いた。
村人が来たのだろうか、そう思いながら目を向けるとそこにいたのは村人では無かった。
「思ったより来るのが早かったね」
それは見知った顔、それも、ミレーネの同僚たちであった。
厨房の方で金属が落ちる音が連鎖するように鳴った。
「あ……ああ……あなた方は!!」
「見られてしまったのなら、仕方ねぇよな」
いつの間にか厨房に男がいた。
男は驚いて腰を抜かしている女将に記憶を改竄する魔道具を使用し、手刀で叩いて眠らせた。
「な……なんだよ……お前ら……」
「紹介するよトウマ、彼らは皇帝直属魔導部隊【エンパイア】、ボクの同僚たちだ」
宿の扉の前に、黒ローブを着た、性別不詳の人間が三人立っている。
後ろの厨房にいる黒ローブは、声から男だとわかる。
「うわぁ!!大変だミレーネ!あいつらが来たぞ!!」
階段から転がり落ちるようにしてミアクマがミレーネたちの方へ走ってくる。
その後ろからは眠る女の子を抱っこしながら黒ローブの人間が一人、これで五人の黒ローブが出揃った。
「これで全員、かな、立ち話もなんだし、話は森の中でしよう」
言いながらミレーネは椅子から立ち上がる。彼女はそのまま、黒ローブの人間たちの間を通り抜け、宿の外へと出ていく。
それに続き、黒ローブの人間たちもぞろぞろとみんなついていく。
それを見ながらトウマはいつの間にか机の上に乗っていたミアクマに「な……なあ、あいつら一体何なんだよ」と聞く。
だが、ミアクマは「それは教えられない決まりなんだよ」と答え、ミアクマもミレーネの後についていく。
突然のことについていけなかったトウマは宿の中に一人で取り残される。
「どうしよ……」
トウマも呟く。すると、後ろから何者かに強く叩かれ、意識を失ったのだった。