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第4話 ヴァルターと姫の会話

「10分休憩の後は持ち場につけ!」とのクルツの号令でヴァルター以外の見習い騎士達3人は稽古用の装備を箱に戻し、大広間に暖を取る為に戻っていった。ヴァルターも木剣と盾を箱に戻したが大広間には戻らず中庭近くの廊下で柱に背を任せて地べたに座っていた。

目をつぶって体を休めていると大広間へと通じる方角から人の気配がするので目を開けてそちらに顔を向けた。上着を羽織ったレギンリンダが地べたに座っていたヴァルターを見下ろす形になっていた。


「ここは寒いわよ。大広間の暖炉で暖かくなったら?」


レギンリンダが近づいてくると、ヴァルターの横にちょこんと地べたに座った。


「姫様、そう座ると地面が寒いのでは?」


「寒いのよ。だから気をそらす為に私とお話しましょう?」


ヴァルターが隣に座った姫の方へ顔を向けると彼女から真剣な眼差しが彼に向けられているのが分かる。顔の整った彼女から来るまっすぐな眼差しが年頃のヴァルターには毒だった。

うっかり胸がときめいてしまうのではないかと。


「さっきの話しですが・・・父上がこの寒い中戦っているのに自分がぬくぬく暖を取るわけには行かないです」


「昔みたいにため口で喋らなくなったわね、貴方。」


ヴァルターが7歳になってから小姓として大公の城に送られ雑用や本格的な騎士修行をしていた頃から当時4歳のレギンリンダはいつも父の大公と一緒にいた。彼のどこを気に入ったのかヴァルターはレギンリンダの秘密の話し相手になったのだ。


「あれは・・・あの時は自分が年上だからと貴方の事を「お前」呼ばわりまでして生意気でした。バレたらクルツ様から拳骨でしょう。反省しております、レギンリンダ殿下。」


ヴァルターから謝罪があったのにレギンリンダはどこかしかめっ面になった。


「なんかよそよそしくて気持ち悪いわね。昔みたいにリンダって呼んでくれないの?」


「気分を害したら申し訳ございません。しかし私は自身の身分を弁えないといけないのです。」


釈明してもレギンリンダのしかめっ面はそのままでヴァルターは困惑する。


「今は二人っきりだから貴方が農奴騎士の家系だろうと気にしないわよ。昔はあんなに話してくれたのに時が経つにつれてよそよそしくなっちゃって・・・つまんない。」


言われてヴァルターは気まずい気分になった。彼もレギンリンダと話したくない訳ではない。大公国も一部の帝国の貴族や身分について学ぶと彼女は皇帝を選定できる大公の姫、自分は自由身分を買ったとはいえ元農奴身分の帝国の皇帝から直接叙任されてない下級の騎士の子という事を嫌でも意識させられた。


「あなたのお父様って旗騎士ってすごい騎士なのよね?」


「父ヴォルフラムは確かに旗騎士と存じ上げております。」


ヴァルターの父ヴォルフラムは10年前の魔族との戦争で武勇を認められ三角旗を掲げる普通の騎士と違い、独自の四角い旗と騎士隊を率いる旗騎士、つまり騎士の筆頭格だった。ヴァルターが小姓の頃にそれをレギンリンダや周りに思いっきり自慢していたのは今となっては騎士らしくないと恥ずかしく感じている。レギンリンダは言葉を続けた。寒い中彼女の白い吐息がヴァルターの印象に残る。


「私とあなたのお父様が今回の戦で戦功を挙げたら息子のあなたも騎士に叙任されるかもしれないのよね?」


「可能性としては低いですがありえるでしょう。」


ヴァルターはたんたんと答えるふりをするとレギンリンダはしばらく考え込んでこういった。


「その時に・・・私の騎士になってくれる?」


ヴァルターは答えに窮した。彼の家系は代々農奴身分の家人騎士として大公に仕えていたのでこのまま叙任されれば普通は大公の騎士となる。レギンリンダが宮廷愛を題材にした流行りの抒情詩に入れ込みすぎではないかとヴァルターには言えない。彼も彼女に仕えてみたいという感情がどこかにあった。

二人の沈黙を鐘が破った。非常時に備えよとの合図だ。


「すみません。その返事はまた後ほど。」


何か言いたげなレギンリンデを背にヴァルターは立ち上がり大広間へと走っていった。

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