魔剣アルフンク 前編
「お前のいう一家の魔剣とはアルフンクの事じゃ。」
夕食を終え、ヴァルターとティッタの二人は夜にティッタの魔法研究所も兼ねている小屋で魔剣の話を早速していた。魔剣の名はヴァルターにはあまり馴染みのないものだった。
「お前たちがバルドュルフィング王家の末裔という話はクラウスから聞いておるな?」
「おじいちゃんから耳にタコが出来る位は聞いた。始祖のヴァルデマール様が持ってたって話しだよな?」
迷信とも言える一家の家伝を持ち出されてヴァルターは少し驚いた気分になった。
「アルフンクはかつてバルドュルフィング家がボイマルケンを統治していた時にヴァルデマールの祖父にあたるタッシロ2世陛下がエルフの刀鍛冶であるトスティに実際に作らせたものじゃ。エルフの剣じゃからアルフンクとその時の陛下は名付けた。」
「まるで見てきたみたいな言い方だな。もしかして実際に剣を打つ所を見たとか?」
「その剣を打つ所は見た事ないがの。じゃがタッシロ2世陛下の治世の時に宮廷魔法使いとして宮仕えしてその時に陛下とエルフの同胞たるトスティからその話しを聞かせて貰った。」
小姓として大公の宮殿に仕えていた時にヴァルターは暇を見つけては歴史書や魔法書を漁った事がある。ボイマルケンの統治者の名を詳しく書いた本の中にバルドュルフィング王朝末期の王の名としてタッシロ2世の名があった。歴史上の人物の名をあっさりと出してくるティッタには改めてエルフの長命のすごさを感じた。
「自治気質の強いバルドュルフィング王朝は皇帝の権限が強くなると共に嫌われた。最後の王ガリバルド陛下は当時の皇帝の支援を受けた宮廷内のクーデターでお家取り潰しとなり神殿に出家させられた。その後密かに生まれたガリバルドの息子ヴァルデマールに魔剣アルフンクは渡ったのじゃ。」
ティッタが語るバルドュルフィング王朝最後の王ガリバルドの話しも歴史書の内容と一致していた。宮廷の家臣だったハムハウゼン家の者がガリバルドを出家させて皇帝の認可を経て帝国を構成するボイマルケンの大公となったのだ。退位後のガリバルドの行方がこういう形で明かされる事にヴァルターは面食らった。迷信と思っていた家伝に真実味が増した。
「つまりティッタは王の座を追われてからもずっとうちに仕えていた訳か?ガリバルド王の廃位からもう2世紀は経つだろう?」
「そう2世紀以上もずーっとお主らを見守って来たのじゃ。もっと感謝せい。」
そう言うと腕を組んでどや顔をするティッタがヴァルターの目の前にいた。亡くなった祖父のクラウスも自分の祖父の代からティッタはいたと証言していた。そんな彼女の口から軽く2世紀という単語が出てくるので驚いてしばらく言葉も出ない。ヴァルターの口から言葉が出たのはその後だった。
「でティッタ、そのアルフンクは今どこにある?」
「ありがとうもなしとは流石に傷つくのう。」
「すまない。でも時間がないんだ。魔剣アルフンクはどこにあるんだ?」
少し悲しそうなティッタの抗議は理解できたが敢えて退けて剣のありかをヴァルターは尋ねた。
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