ヴルムドルフへの帰還
ボイマルケンの最北端に位置するグリュンブルク城から故郷のヴルムドルフ村までは駿馬のグラニを大急ぎで走らせても途中の宿に泊まるのも含めて丸2日かかった。ヴルムドルフは丘に石造の領主の館があり、そこから少し離れた所に鍛冶小屋、水車小屋、神々をまつる神殿と村人200人が住む家々、そしてその家々を円で囲む様に耕された農地と少し離れた所に小さな山を囲った森があった。
別の村との境目を越えて早朝に故郷に帰ってきたヴァルターは冬至祭以来1カ月ぶりに故郷の風景を馬上から眺めていた。村人の中にはまだ冬でも育つ野菜が傷ついていないか確認している者、雪が地表を覆っているからと雪遊びをしている者もいた。
「若様だ!若様が帰ってきた!」
村人の誰かがそう叫ぶと村人達の声が大きくなってきた。領主の館へと通じる村の中へと入ると農奴、自由農民、村の役人や村長が特徴的な毛衣と帽子で雪と寒さから身を守っていたヴァルターを見ようと集まって来た。馬上のヴァルターには蹴られるから馬の後ろに行かないようにと村人に注意するしかなかった。野次馬の様に集まった村人の中から齢40代の村長がゆっくりとヴァルターの前へと出た。お互いに軽い挨拶をすませた後に村長がこう尋ねた。
「若様、お帰りなさいませ。冬至祭りからまだ一ヶ月しかたっていませんがお早い帰還ですね。ご領主様はまだ戦場ですか?」
決して悪意の無い質問だったがそれにヴァルターが顔を歪ませる。しばしの沈黙の後、ヴァルターが口を開いた。
「大公様から数日間の暇を言い渡されたのだ。領主のヴォルフラムについて話したい事があるから昼食後に皆を集めてくれ。母上と妹とエルフのティッタは俺の家にいるな?」
「奥様と妹様は間違いなく館で暖まっております。ティッタ様については我々はめったにお目にかかれない方ですのでいるのか分かりません・・・」
村長からそれだけ聞くと「分かった。ありがとう」とだけ言い残してヴァルターは馬を家へとゆっくりと進めた。
村から出ようとした所にヴルムドルフ村の鍛冶屋がある。戦場でヴァルターの祖父の指揮下で武器の鍛え直しをしていた所、村で働かないかと彼に誘われてこの村にやってきたドワーフの家族が朝は自宅兼工房にこもりながら親子2代に渡って村人の為に鍋や鍬などの道具を作っていた。普段なら体質的に日光を嫌うドワーフは朝にはあまり外にでないが今日は雪雲で太陽が覆われている為、工房から親方のオラフがヴァルターの元にやってきて挨拶してきた。オラフの息子のトルシュテンも工房から出てきて馬上のヴァルターに会釈した。
「若様、お帰りなさいませ。ご領主さまの従騎士として戦場でお仕えになっていたんじゃなかったんですか?今回はどういったご用件で?」
オラフとトルシュテンを馬上から確認したヴァルターは当たり障りのない答えで返した。
「エルフのティッタに大事な話がある。その為に戻ってきたが・・・他にも報告する事があるから昼食後には他の村人と共に集まってくれないか?」
ヴァルターはそれだけいうと駆足で馬のグラニを走らせ、胸の痛みを感じながら丘の自宅へと急いで戻っていった。
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