クルト激怒
「この馬鹿者!」
クルトから平手打ちを右頬にくらったヴァルターはそのまま佇んでいた。
「この大馬鹿者!」
今度はクルトから左頬に平手打ちをくらった。ヴァルターは何も言えず立っていた。
この様な折檻は小姓の時は大公の大事な宝物を壊してしまったり貴重な本を汚してしまった時にクルトから何度か受けた。しかしいっぺんに二度も頬をぶたれるのは初めてだった。
荒くなっていた呼吸を整えながらクルトは拳を握りしめてヴァルターに声をあげた。
「小姓のマグヌスから話しは聞いている。ヴァルター、姫様に出撃させる様に要請した様だな。いまだ従騎士の身分で何様のつもりだ!」
ヴァルターは自分を見上げる目の前のドワーフに何も言えなかった。レギンリンダに強引に頼んで門を開けさせたのは事実だからだ。クルトは話しを続ける。
「ハインリヒ達もそうだ、お前達は仕える騎士こそ違えど最終的にはこのボイマルケンを治める大公ルートヴィヒ様に仕える身分の筈だ!お前達はボイマルケンの兵隊を将来率いる身分の者なのだ!それが命令も受けず勝手に出撃とは何事か!」
「お言葉ながらクルト様、俺たちはヴァルターのお父上を助けたかったのです!出撃しなくとも奴らの生贄にされる予定でした!それなら・・・」
クルトの言葉にディートリッヒが抗議した。自分たちにも言い分はあると。しかしクルトがその言葉を遮った。
「黙れ、ディートリッヒ!お前達はルートヴィヒ様にお仕えする事で賜った軍馬を勝手に乗り回し危険な敵の要塞に乗り込んだのだ。主に仕えるという騎士道にも反する行為だ!」
クルトが再びヴァルターの方を見る。声をあげる事で荒くなった呼吸を整えようとしていた。クルトの声を聞いてレギンリンダも野次馬の中を抜けてクルトの後ろに現れた。クルトがちらりとレギンリンダを見て今度は冷静にヴァルターに語り掛けた。
「ヴァルターよ。儂が怒っておるのは姫様のご好意に甘えて自分の蛮勇を叶えようとした事だ。その場限りの判断で姫様を利用した事は断じて許せん。それがお前達の騎士道ではない筈だ、お前たちはいずれルートヴィヒ様も姫様もお守りするボイマルケンの貴重な騎士になるのだ。それを忘れるな。」
冷静に諭されヴァルターは目頭が熱くなった。父親を助けようとした自分の考えに間違いはない。しかし冷静に考えるべきだった。救出作戦を大公に提案すべきだった。姫君で幼馴染のレギンリンダを利用すべきではなかった。その事に気づきヴァルターは涙を流した。
「申し訳ありませんでした姫様・・・申し訳ありませんでしたクルト様・・・」
「ヴォルフラムを助けたかった気持ちは否定はせん。彼がヴァルハラに逝ったと祈ろう。」
嗚咽の止まらないヴァルターにクルトは最後に優しく彼を諭した。それにつられ3人の従騎士達も悔しさと悲しみが入り混じって感情を抑えきれず咽び泣いた。
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