息子に託して 後編
別れを惜しむ暇もなく家督を息子に譲ったヴォルフラムはアジノスに大声で呼ばれると魔族の親衛隊の兵士に連行され祭壇の上へと連れ去られて行った。魔族達の怒号が要塞に響き渡る中、ヴォルフラムは先ほど処刑された騎士と同じ血まみれの処刑台に連れられ体を固定された。処刑台の横にいたゴブリンの神官が右手の錫杖を上げて魔族の兵士たちを黙らせた。神官はトロル・スピーチで話しはじめたが、その内容が父の処刑に関する事はヴァルター達にも理解できた。
「聞け!全ての母ユミルから生まれし魔人の同胞よ。今宵新たに人間の生贄を捧げる事にした!我らの戦士を何人も殺したヴォルフラムという男だ!」
神官の言葉に魔族の兵士達から歓声が鳴り響いた。処刑台に斧を持った黒の大将軍が上がって来る。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。起こらないでくれ。神々よ、父を助けてくれ。
ヴァルターは神々に祈ったが奇跡は起こらなかった。ゴブリンの神官は恐ろしい言葉を続けた。
「我が軍を督戦しに来た親衛隊の長、黒の大将軍が直々にこの憎き敵を斬首し、その首を髑髏杯にする。そして我らはこの憎き強き戦士の体の皮を剥ぎ、肉を喰らい、こやつが持つ強さを身に付けようぞ!その時が今だ!」
ゴブリンの神官は錫杖を再び上げた。合図を見た黒の大将軍は斧を天に上げるとヴォルフラムの首根っこめがけて斧をふるった。肉を切る音と生首が祭壇の床に落ちる音はヴァルターを黙らせた。ヴァルターが今起きた事態を心の中で整理する暇もなく黒の大将軍は床に落ちたヴォルフラムの首の髪を荒々しく掴むとその首を魔族の兵士に向けて勝ち誇った様に掲げた。トロル・スピーチで黒の大将軍が演説した。
「見よ!これが我らに仇なした敵の隊長の首だ!ボイマルケンの大公もその司令官も我が髑髏杯のコレクションにしてくれるわ!」
ヴァルターはトロル・スピーチなどあいさつ程度の事しか理解できなかった。しかし殺された父の首を無残にも掲げて勝ち誇った様に演説した黒の大将軍のその姿は悪鬼そのものに見えた。拳を激しく握りしめていたヴァルターは祭壇で父の首を掲げるその悪鬼と首の無い父の遺体の服を奪い取り皮を剥ぐ魔族達を涙を流しながら憎悪の眼差しで見ていた。心の中に溜まった怒りをヴァルターは声にした。
「殺してやる!父さんを惨たらしく殺したこの鬼畜生共め!絶対に殺してやる!」
親衛隊の兵士に抑えられながらもヴァルターは激しく唸りながら黒の大将軍への憎悪のこもった眼差しを向け続けていた。
暗い話でしたがお読みいただきありがとうございました。ご感想や高評価などよろしくお願いします。