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息子に託して 前編

しばらくして魔族達の儀式が再び始まった。太鼓が鳴らされ魔族達の狼にも似た叫び越えが要塞のいたる所で聞こえる。捕虜となったヴァルター達4人の従騎士たちは拘束されたまま大将軍の黒いテントから出されて祭壇の近くへと連れて来られた。彼らを見たオークやゴブリンたちがその恐ろしい形相をむき出しにしてトロル・スピーチでありとあらゆる罵詈雑言をヴァルター達4人にぶつけた。ヴォルフラムとの約束で黒の大将軍の親衛隊は結果的にヴァルター達の身の安全を守るはめになり、魔族の兵士たちが襲いかからない様に間に警備の為に壁になった。


「驚いた。あの魔族の大将は本当に約束を守るつもりらしいな。」


ディートリッヒが感心した様に発言するがすぐに後悔した。ヴァルター達4人の安全を本当に守るという事はつまりヴァルターの父ヴォルフラムを生贄に捧げる約束も果たさなければならないという事だった。そう理解したヴァルターの顔はすでに沈んでいた。

魔族の罵詈雑言が途端に歓声へと変わっていった。ヴァルター達がテントの方へと目を向けると黒の大将軍に連れられたヴォルフラムが腕を拘束されたまま祭壇へとゆっくりと向かっていった。

ヴァルターはこの状況をどうにか打開できないかと考えていた。敵の武器を奪って魔族の誰かを人質に取って父の解放を要求するのはどうか。しかし拘束されている上に仮に武器をとってもすぐさま他の仲間たちも敵の人質に取られてしまうだろう。父も無事ではすまない。結局ヴァルターは打開策を考えては諦め、考えては諦めるの繰り返しを頭の中で何度も行っていた。そう考えている内に連行されたヴォルフラムがヴァルター達に近づいた。

人間族の話すグーツ語でアジノスが従騎士の4人達に対して大声で言い放った。


「生贄前の挨拶をさせてやる!ありがたく思え!」


ヴォルフラムはやつれていながらもニコリとした顔でヴァルター達を見ていた。ハインリヒ、ヘルムート、ディートリッヒの3人は自分たちの尊敬する旗騎士が生贄にされる現実を受け入れられず各々泣いていた。


「ディートリッヒ、君たち分家の者達が戦にはせ参じた時は本当に世話になった。ヴァルター達を頼むぞ。」


「当主様・・・ずみまぜん・・・」


ヴォルフラムは遠戚にあたるディートリッヒに優しく語り掛けた。その優しさに耐え切れず大男のディートリッヒがついに子供の様に大泣きしてしまった。


「ハインリヒ、詩人修行と女遊びばかりやっていると陰口を言われている君も違う形で武者修行をしているのは知っている。君には弓の才能があるからそれに励みなさい。」


「ヴォルフラム様、そこまで俺の事を知って・・・」


ヴォルフラムに己の才能を評価されて今生の別れだというのにハインリヒは感動してしまった。


「ヘルムート、テオデマー将軍にこの要塞の事を・・・」


「承知しております・・・。ヴォルフラム様」


ヴァルターには具体的な事は分からないがヴォルフラムの頼みを察したヘルムートは涙を抑えながら了解した。

ヴォルフラムは最後に自分の息子の方を見た。ヴァルターは黒いテントの中で散々泣いて、目の周りが涙で真っ赤だった。それでも涙は止まらない。


「父上・・・父さん、ごめん。俺のせいでこんな事に・・・」


ヴォルフラムは優しく首を横にふった。


「俺は奴らの優秀な戦士を撤退中に何人も斬り殺して捕まった。遅かれ早かれこうなる運命だった。俺の命でお前たちを助けられるなら安いものさ。」


「父さん・・・父さん!」


またヴァルターの目から涙があふれ出た。それを見たヴォルフラムは彼を戒める事もなく「ヴァルター」と威厳のある声で彼に語り掛けた。声の変わりように気づいたヴァルターが父を見た。


「母さんとエマ、あのエルフのティッタを頼む。今日からお前が家長だ。」


「お別れの時間は終わりだ。来いヴォルフラム!」

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