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第2話 ヴォルフラムの子ヴァルター

ザーゼンヘイム帝国を構成する大公国の内南部に位置するボイマルケン大公国の最北端の城塞であるグリュンブルク城で見習い騎士のヴァルターは指導役として城に住む城主に仕える年少の従者達たる小姓達の稽古を城の中庭の訓練場で見ていた。ヴァルターの目の前に10人程いる小姓たちが盾と木製の剣を手に持ちそれぞれ地面に打たれたペルという稽古用の柱と面と向かっていた。


「はじめ!」


ヴァルターがそういうと小姓たちはペルを敵に見立てて掛け声と共に木剣でバシバシとペルを叩き始めた。


「1番クラウス、踏み込みが甘い!もっと素早く攻めろ!」


「はい!」


ヴァルターがそう指摘するとクラウスと呼ばれた少年が足の速度を上げようとしていた。


「4番マグナス、斜めに斬ろうとするな。縦に切って相手の頭を狙え!」


「分かりました!」


去年で晴れて見習い騎士となったヴァルターもかつては大公が普段住んでいる大きな城で7歳から小姓として大公や彼の王族の身の回りの世話をしながら先輩の大人の騎士達から騎士としての戦い方、馬の扱い方、テーブルマナーなどを習っていたので目の前の小姓の少年達が行っている戦闘訓練には身に覚えがあった。


「7番ルドルフ、剣ばかり使うな!盾を使ってしっかり構えろ!」


「は、はい!」


偉そうに指導しているヴァルターだがかくいう彼も初め小姓の時、大公家で戦闘訓練をしていた時は先輩の騎士たち方から似た様な指摘を散々受けて来たものだ。故に見習い騎士になったばかりの彼がふんぞり返っているのはどこか恥ずかしくむず痒い気分になった。

実はグリュンブルク城の指導には普段は正式な騎士の者がいるのだが、その指導役も大公の軍務に就く事になった為、代わりにヴァルターが指導役を任される事になった。


「やってるな、ヴァルター。こういう寒い日は武術の稽古なんてしないと思っていたけど。」


「ハインリヒか、城の食糧庫の確認は終わったのか?」


しばらくしていると訓練場に現れた金髪の青年はヴァルターと同じ見習い騎士のハインリヒ。注意深く見るとやや尖り気味の耳と緑色の目が彼がエルフの遠い末裔であるという彼の一族の伝説を思い出させる。


「最初の方だけな。まず葡萄酒が籠城に必要な分だけ備蓄されてあるか確認するだけで大変だったよ。」


ハインリヒがそう言い終えるとヴァルターはそうかと頷いて訓練場の方を見直した。稽古の開始から既に20分がたっており、寒い中で休憩を取らずに剣を木の柱に向けて掛け声をかけつつ叩き続けていた小姓達は息を切らし始めていた。


「そこまで!稽古終わり!」


ヴァルターの命令で小姓達は構えていた木剣を降ろし訓練を終えた。小姓達は疲れ切っていた。


「ディートリッヒ殿がすでにお前達の昼食を用意している。訓練でくたくただからといって粗相のないように。」


「はい!ありがとうございます!」


稽古を終えた小姓達が持っていた訓練用の武器を入れてあった箱の中へと戻していき大広間へと向かっていくのをヴァルターとハインリヒが眺めていた。見終えるとヴァルターがハインリヒの方へ顔を向けた。


「さっきの質問だがな、こんな時だからこそ稽古が必要だと思う。大公殿や親父がこの寒い中戦地の赴いている中、俺たちが城の暖炉でぬくぬくと暮らしている訳にはいかない。」


こう真面目に答えられるとハインリヒもバツの悪そうな顔をする。ヴァルターの父親ヴォルフラム・フォン・ヴルムドルフは正式な騎士としてボイエマルク公国を収めるルドルフ大公の指揮下でグリュンブルク城の北にある魔族達が占領している領土を取り返さんと戦っていた。ヴァルター達は見習い騎士として城内で食料や武器の手配をしたり戦場に赴く騎士達の甲冑の準備などをしていた。ヴァルター自身も昨日自分の父親に甲冑を着せていたのだ。


「ハインリヒ、昼飯を食い終えたら俺たちも稽古するぞ。30分間打ち込んでやる。」


「えぇ?あのペルの柱、20分打ち込むだけでへとへとになるぜ。せめて15分減らそうぜ?」


「ダメだ、ハインリヒ。小姓の子供らが頑張ってたのに俺たちが手を抜くなんて許されない。」


うへぇとハインリヒが呟きながら大広間の方へと逃げるように向かっていった。

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