ヴォルフラムの覚悟
「黒の大将軍、私を殺せ。」
ヴォルフラムの言葉にヴァルターは衝撃を受けた。父親の顔を見ると甲冑を着せ終えて出撃する時に自分にみせたもの悲しそうな笑顔を彼に見せていた。黒の大将軍も突然の発言には少し驚いた様でヴォルフラムに顔を向けた。ヴォルフラムが黒の大将軍に見せた顔はヴァルターとは違う覚悟を決めた顔つきだった。
「捕虜が勝手に話すとは生意気だな。どういう了見だ?」
「彼らはまだ修行中の従騎士だ。強い戦士を殺す事で名誉が大きくなるのがお前たち魔族の戦士道だろう?だったら彼らを殺す事で得られる名誉はない。それに比べて俺は武勇で名を上げた旗騎士だ。先の戦ではお前達の戦士を何十人も殺してやったのを忘れている訳ではなかろう。恨みを晴らしたい戦士は多い筈だ。」
黒の大将軍が問いただすとヴォルフラムは魔族達の戦士道に則ってヴァルター達よりも自分を殺した方が得だぞと話し始めた。息子のヴァルターは父の話の内容に唖然としていた。
ヴァルターに構わず黒の大将軍はヴォルフラムに問い続けた。
「旗騎士のヴォルフラム、お前が代わりに死ぬ事で要求する事はなんだ?」
「ヴァルター達4人の生命と安全をグリュンブルク城に還すまで保障しろ。その代わり私をあの生贄の祭壇で焼くなり煮るなり好きにするが良い。」
父の要求に耐え切れず思わずヴァルターが叫ぶ。
「父さん!そんな要求しないでくれ!俺は父さんを助けに来たのに・・・!」
「ヴァルター!これは私と奴の問題だ。私はすでに奴の捕虜だ!生かすも殺すも奴次第だという事を分かれ!」
黒の大将軍はヴァルター達親子のやり取りを眺めながら一考した。ヴォルフラムの言い分は一応理に適ってはいた。オークやゴブリンを主体として構成された魔族の軍は強い戦士を殺せば殺すほど戦士としての名誉が上がるという倫理観を有していた。特に彼らの崇拝する古の魔王フリュムにその戦士を生贄として捧げその肉を食らえばその戦士の強さを継承できると信じている魔族は多くいる。鬼殺しとして悪名高いヴォルフラムを生贄にすれば雑兵で構成されたこの軍の士気は大いに上がるだろう。そう判断した黒の大将軍はヴォルフラムの提案を受け入れる事にした。
「ヴォルフラム、捕虜にしては生意気だが戦士としてその提案を受け入れる。約束通りこの4人のガキどもはあの城に生かして返す。奴らの武器や靴に着けていた拍車は戦利品として貰うがガキどもの愛馬だけは返して進ぜよう。」
「寛大な処置に感謝する。黒の大将軍。」
黒の大将軍はヴォルフラムの提案を受け入れてしまった。父は生贄としてあの鬼どもに殺され食われてしまうのだ。その衝撃でヴァルターは言葉が出ずむせび泣いた。
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