敵陣地の偵察
城を出てからグリュンブルクの平地を越えて馬での駈足なら1時間程かかる場所に魔族の軍の野営地が敷かれていた事は父ヴォルフラムやヘルムートの父テオデマー将軍から聞いていた。疲れた馬を近くの林の木に手綱で留めたら各々リンゴや人参を与えて休息を与えながら4人の従騎士達は潜入の準備を始めた。まずヴァルターとヘルムートが林の中で比較的高い木にのぼって野営地を望遠鏡で確認した。
魔族の野営地は周辺を見渡せる様に他より高めの台地に築かれていた。野営の為のテントの多くは汚れておりボロボロで穴が空いており中にどんな魔族がいるか分かる場合もあった。その多くのテントの周りを木で作った四角い防壁で広く覆っており防壁の一角にそれぞれ見張りが一人づつ立っていた。
「オークやゴブリンにしても要塞の作りが粗雑ですね。見たところ数百人の兵隊の面倒を見ないといけないから急ごしらえで作ったのでしょう。」
「野営地の中央が集会場の様だな。大きなたき火の周りに魔族共がわらわらと集まってきている。潜入するなら今だな。」
ヘルムートが要塞の作りの粗雑さを指摘し、ヴァルターは潜入するタイミングを計っていた。たき火に集まった魔族達をみると奥の黒い大きなテントから甲冑に身を纏ったオークが出てきて誰かを前へと進めていた。
「あれは俺たちの軍の騎士じゃないか!?」
ヴァルターの認識に間違いは無かった。甲冑も兜も外されているが、ルートヴィヒ大公からの青色のお仕着せを着ておりどこかの隊長という事は分かった。両腕を縄で拘束された捕虜の騎士はたき火の前に用意されてあった祭壇らしき所へと連行されていく。床が血で汚れていた祭壇で魔族の神官と思わしきボロボロのマントと黒い帽子を着ているオークが捕虜の騎士と連行してきたオークの戦士を歓迎している素振りをみせる。
「まさかあいつら捕虜を・・・」
思わず言葉を発したヘルムートだがその先は言いたく無かった。まさにそれが起きたのは一瞬だった。大声で叫ぶ捕虜の騎士を無視してゴブリン達によって血まみれの床へとうつ伏せにさせたあとオークの戦士は両手斧の刃を捕虜になった騎士の首筋にそっとつける。するとオークの戦士は両手斧を上げて勢いよく騎士の首をスパっと叩き落とす。地面に落ちた騎士の首の髪を神官のオークが掴んで観衆の前に掲げて何か大声で演説していると魔族たちは勢い良く歓声を上げた。ヴァルターとヘルムートの二人には目も当てたくない光景だった。
気をなんとか持ち直したヘルムートが最初に口を開く。
「ヴァルター、まず要塞の壁を越えないといけません。あと少ないとはいえ要塞の見張り台が面倒です。」
「ヘルムート、攻城用に必要な梯子を城から持ってきた。要塞が木製ならもっと簡単に設置できるだろう。」
ヴァルターは木の下に立っていたグラニの鞍に固定されてあるフック付きの縄で出来た梯子を指さした。続けて二人はヴォルフラムのいそうな場所を探していた。しかし捕虜を入れる牢屋のようなものは見えない。しばらく探し続けているとヘルムートがヴァルターの肩をそっと叩いた。
「こちらからみて要塞の右奥に木の柵で囲った広い場所があります。その入口を1匹のゴブリンの槍兵が近辺を警戒して警備しています。自軍の兵士が近づかない様に見張っているのでしょうか?」
そう言われヴァルターがすぐさま答える。
「多分あそこに我々から奪った戦利品がある。魔族にとって捕虜自体も戦利品だからそこに父上がいるかも知れない。」
「問題は右奥のすぐ左にあるあの黒いテントです。あれは多分敵軍の指揮官の者でしょう。であればその護衛兵がこちらへ駆けつけないように気をつけないと。」
ヴァルターはこちらにもっともちかい見張り台とその下にある右奥の木の柵で囲まれている場所を一瞥した。
「木の柵には上る侵入者対策の為に尖らされてもない。音に気を付ければ入るのは容易いだろう。」
侵入の為の算段が一通りつくと、ヴァルターとヘルムートは木をゆっくりと音を立てないで降りた。
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