表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/31

思いやりという感情の話①

 言葉には力が宿る。ヒトの名前も例外じゃない。

 強い願いを込められた名は、相応の強い力を宿すものだ。


 光星(みつぼし)(そら)、私の弟子の名前だ。

 あんまり綺麗で澄んだ名前をしているから、知った時には圧倒された。その名前(ことば)の力の強さに。

 彼は、星空の力を引き出すことに長けている。まぁ、本人は気付いていないだろうけど。


「教えてないけど、飛べるんじゃないか……?」


 カウンターで肘をつきぼんやりとしていた私は、そのことに気付いて呟いた。

 呟いたらそれは確信に変わった。そうだ、飛べないわけがない。彼は『空』なんだから。


 そうなれば、必要なのは飛ぶための道具。空には何が似合うだろうか。

 マントか、絨毯か、ハネか……

 空は魔法使いに憧れているんだから、ここは箒を用意すべきだろう。ニホンでは、魔法使いは箒に跨るのが定番らしいからね。


「シュヴァルツ、久しぶりだね」


 ベルが鳴り、ドアが開いた。

 銀の髪を揺らしながらやって来たのは、エルフの男性、グリムニル。私は彼をニールと呼んでいる。


「ああ。ニール、いらっしゃい」

 

 古い友人だ。星降堂が、エルフが住むこの世界を選ぶ度、毎回星降堂に立ち寄ってくれる常連客だ。

 かつて先生と共に宮廷魔導師をしていた彼は、私にとても良くしてくれる。まるで兄のように。


「何を悩んでいるんだい?」


 ニールに問われ、私は肘をついたまま口を開く。


「弟子の空に、飛行用の箒か何かつくってあげようかと思って」


 その一言で、たちまちニールの顔が驚きの黄色で彩られた。

 ああ、空がいることが当たり前になっていた。何も知らないニールに、うちの弟子に箒を、だなんて言えば驚くに決まってる。


「君が、弟子を? 君が?」


「ニール、視界がうるさい」


 視界は一面真っ黄色。大きすぎる驚きの色が目に痛い。

 読心の術を無理矢理切って、ようやく視界は良好になった。ニールのニヤニヤした含み笑いが不愉快だ。


「シュヴァルツ、あれだけ弟子は取りたくないと言ってたじゃないか」


「60年前だったか。確かに言ったね」


「それなのに、どういう風の吹き回しだい?」


「……別にいいだろう」


「あっはは。拗ねなくてもいいのに。

 で、ソラ、だっけ? 君の愛弟子は何処に?」


 愛弟子……愛弟子……ねぇ……まぁ、否定はしないけど。

 ニールは私にとって兄のようなヒトだから、どれだけからかわれても反抗できない。悔しい。

 ニールが嬉々とした目で私を見てくる。紹介しないとダメなんだろうなぁ。


「わかった。呼んでくるよ」


 私は売り場を離れ、空の部屋へと向かう。

 ドアの向こうからは宝石の囁き声が聞こえてきた。多分、空が意思の宝石を出して眺めているんだろう。


「空、起きているかい?」


 とりあえず、声をかける。

 すぐにドアが開いて、空が顔を出した。


「おはようございます」


「おはよう」


 服はすっかり着替えているし、顔もしゃんとしている。身支度はできているみたいだね。


「さっそくで悪いんだけど、常連客が来ててね、空を紹介したいんだ」


 空は首を傾げた。

 少しだけ感情を見る。灰色がかった緑色。疑問の色と少しの期待。星降堂に常連客は珍しいからね。


「長く店をやっているとね、とんでもなく長生きなお客様と出会うことがある。くり返し同じ世界に訪れていると、常連客になってくれることがあるのさ」


 とはいえ、ニールは私の古い知り合いだから、ちょっと事情は違うけど。

 空の頭に残っていた寝ぐせを魔法で直してやってから、空をニールに引き会わせる。


「こんばんは。君が空だね」


「こんばんは」


 空はお辞儀をしながら、ニールをじぃっと見ていた。

 空にとってエルフは珍しいだろう。なにせニホンからやって来たのだから。

 空がニールと話す度、感情が揺らめいて色んな色を咲かせる。前は煩わしいと思っていたけれど、空の感情の色はどれも綺麗なものだ。

 つい、見とれていると。


「しかし、シュヴァルツが弟子をとるとはねぇ」


 ……ニールがニヤニヤ笑いでそう言ってきた。


「ニール、そう茶化すのはやめて。そもそも空に私の名前教えてないんだけど」


 自分の名前を明かすのは苦手なのに。ニールもそれを知ってるだろうに。


「魔女さん、名前あったんですね」


 空まで失礼なことを言う。

 見下ろすと、空は少しだけ嬉しそうに桜色の光を散らして笑顔を浮かべた。なんか……なんか、気に入らない……


「失礼だね。空が聞いてこなかったから言わなかっただけだよ」


 ああ、全く、大人気ないね、私は。つい冷たい口調で言ってしまった。でも、先生がつけてくれた名前を呼ばれるのはね、ちょっと複雑なんだよ。

 空は理不尽を感じているだろう。赤色の棘がちらりと視界を舞う。

 でも……私は、


「悪くない」


「頭、のぞかないでくださいよ……」

 

 そんなやり取りがおかしいのだろう。ニールはカラカラと笑って、私達弟子のやり取りを見ていた。

 調子が狂う。ニールに空を紹介したのは間違いだったかもしれない。からかわれ笑われるなんて、思ってなかった。


「それより、ニール。今日は何を買いに来たんだい」


 咳払いして、ニールに尋ねる。流石に、私を茶化すために来たわけじゃないだろう。

 ニールは魔法具を見回してこう言った。


「もうすぐ母の二千歳の誕生日だからね。プレゼントを買いに来たんだ」


 ちらりと窓の外を見る。いわし雲が、青い空を泳いでいる。


「ああ、この世界ではそんな季節なんだね」


「毎年、食べ物なんかを贈っていたけど、母は二千歳だからね、大概のものは知り尽くしてしまっているから、たまには魔法具を贈ろうかと思ったんだ」


 そう言われても、難しいな。

 ニールのお母様は、高齢なエルフだ。千年生きた先生より、うんと長生きをしてる。あまりお会いしたことはないけれど、私なんかよりもずっと多くの物を知っているはず。


「しかし、魔法使いの君のお母様だろう。大概の魔法は使えるだろうし、今さら魔法具というのも……」


「うーん……異世界を渡る星降堂なら、面白い魔法があるかなと思ったけどね」


「ないない。私の浅い魔法使い歴じゃ、君のお母様を驚かせるようなことはできないよ」


 私はゆっくりと首を振った。

 そう話している間に、空は立て看板を店の外へ出しに行った。拗ねてるみたいだ。うーん、申し訳ないことをしたな……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ