第五十九話 何者
「あ………」
ガラシャは、近づいて、それに触れる。
壁があったことにようやく気づいた。
ゼロイチは、ガラシャを見つめる。その瞳は、潤んでいた。泣いているのだろうか。と、考えてしまう。
私が…………
いや、違うそんなはずは………
私が…………
いや、違うそんな………そんなはずは………
「ゼロイチ!聞こえる?」
「………」
ゼロイチは、首を捻った。
「え…………嘘だよね?」
ガラシャは、ようやく理解したのだ。声が届かないことに。最初は、聞こえていた。たしかに聞こえていた。その、事実が2人を容赦なく蝕んでいく。
考えられるのは一つだけだ。最初は壁がなかったのだ。どうやって、この空間に見えなくて頑丈な壁が作り出されたのかは、知る由もなかった。神の仕業か、それとも悪魔の仕業か、はたまた手紙屋の仕業か………答えに辿り着ける蜘蛛の糸は、そこにはなかった。
ゼロイチが、壁に近づいていく。そこで、凭れかかってみた。するとだ、体がみるみるくい込んでいく。
「うわぁ、あれ?」
ゼロイチは、気がつかなかった。ガラシャのいる空間にはあかりがあるのに対し、自分がいる空間は真っ暗闇の空間であることを。ここはどこなのか?その疑問が頭の中を反芻する。
「ゼロイチ?どうしたの?」
気がつけば、ゼロイチの身体は、ガラシャの隣にあった。壁のあった方向を向いて、手で触れてみようとするが、そこには、なにもなく、ただの部屋があるだけだった。
「が、ガラシャ!!」
「なーに?ゼロイチ!」
ガラシャをゼロイチは、抱きしめようとしたが、そんな気には、なれなかった。
あの手紙の文面を思い出していた。送られたのは、自分だと、今、気づかされる。
自分は、からかわれているのだと、心底思い、憎くなった。あの、手紙屋という訳の分からない存在をなんとかしてやりたくなった。
「なに、浮かない顔されてるんですか?ゼロイチさん。」
「え、誰?」
「手紙屋ですよ。私はですね。紙媒体を使って、色んな空間を行き来するんですよ。手紙もそのひとつと言っていいでしょう。」
「今は、喋れるの?」
「紙を人間の口のように器用に折ってしまえば、造作もないこと。容易く喋れますよ。」
「ガラシャさん。何かお忘れではありませんか?」
「え、なに?」
「あなたは、取引をしたんですよ。」
「そうだけど、それがどうかしたの?」
「わたくしが、お手伝い致しましょう!」
それは、なんとも突拍子のない一言だった。
しばらく、更新できてなくてすみません。
これから、夢への第1歩へと向けて、走ってゆきたいのです。
皆さんのお力添えに大変感謝しております。
これからもどうぞこの作品をよろしくお願いします!




