第五十七話 雷鳴
とりあえず、手紙を書いてみることにしたゼロイチ。ゼロイチは不思議なことを考えていた。それは、この世界に来る前のことだ。ガラシャのことを思い出しながら、『それ』を思い出していた。
『それ』はゼロイチを蝕み、濁流の様に飲み込んでいく、ゼロイチはそこで気がついた。前にもこのようなことを考えていたと。一については考えている。もちろん、母親である零についても考えた。
だがしかし、家族に考えているなかで、なぜガラシャが出てきたかはわからなかった。こう捉えるべきなのかもしれない。家族について考えていると、ガラシャが出てくる。
そうなのだ。ゼロイチは気づかなったが、同居人であるガラシャという人物は今のゼロイチにとって、家族も同然であり、認めなければならない事実に他ならない。わからない。わかっていないゼロイチは、ガラシャの事を他人事のように考えていた。何者かわからない手紙屋は、おそらくそのことを見透かしている。気づけば、案外そうでもなかったこととはよくあることで、思い込みや勘違い、思いすましがそれらに該当する。ゼロイチの脳内で、瞬く間に閃光が弾け飛び、稲妻のような轟が、雷鳴が、頭の中でずっしりと響いている。
「燃やせ。」
頭の中で、雷鳴と共に声が聞こえる。
「その手紙を燃やせ。何も書くな。」
誰なんだ。なんで誰かもわからないのに、指図に従わなくちゃならないんだ。
「手紙屋は、君の大切な人を返してくれるのか?どうなんだ?ゼロイチ。」
関係ないだろ。この手紙を書かないと・・・書かないと・・・どうなるんだ?
利用されている?
『おっと気づいた様子ですね。私は言葉を贈ることはできます。しかし、本当に天候を操ったのでしょうか?そんな千載一遇の行為はわたくしにできかねますよ。ゼロイチさん。』
まただ、手紙の書き記しが変わった。やるしかなかった。燃やすんだと何度も自分に言い聞かせた。
燃やした。
『おっと、これでは何も贈れませんね。ならば、別のものを送りましょう。例えば・・・あなた?』
その様子は恐ろしかった。手紙が焦げながら、裏に書かれた文字が、透明な誰かが書いてるかのように、変わっていく・・・。
「ぼく・・・?」
その瞬間だった。視界が真っ暗になった。起きてはいけないなにかが起こってしまったと、ゼロイチは瞬時に悟った。
「もう、おしまいだ。」




