第五十三話 厄除け
ガラシャは、本を何気なく見つめる。その本の背表紙には『数字は嘘をつかない 数多九』と書かれていた。その言葉の意味は、わかるのだ。だがしかし、その名前が意味するものがわからなかった。数字が多い九と書かれたふざけたような、名前。思わず、ガラシャはクスリと笑う。本を戻そうとすると、本棚に『何か』が隠れているではないか。草書体で書かれたそれは、不気味な雰囲気を醸し出していた。
「なに………これ………」
誰が見てもわかる。
『お札』だった。1枚だけではなかった。隣の本を何冊も崩してみると、何枚も貼られているのが、わかった。その『お札』に好奇心を擽られる。
ガラシャの手が動く。それに思わず、触れてしまいたくなる。それほどの好奇心。幼子がなんでも、口に入れてしまうような、その感覚に似ていた。本能で、触れてしまいたくなる。
その場を、どこの誰が見ても触れてはいけないのだが、なぜだか、触れたくなる。
触れてみるガラシャ。
キイイイイン!!
目をくらます程の光が、全ての『お札』から、放たれる。
『何をしておる。』
「え、誰の声なの?」
『わしじゃ。今、触れておるじゃろ。』
「御札が喋った!!」
『何者じゃ。』
「ええ、こっちのセリフだよ!喋る御札なんて見たことないし、聞いたこともないよ。」
『この世界の者ではないのう。あの世の者か?』
「ぶっぶー。」
『再度尋ねる。何者じゃ。』
「ガラシャだよ?」
『ほう。興味深い。ガラシャと申すか。』
どうやら、喋る『お札』は、ガラシャという名前を知っているようだ。
『では、ガラシャ。そなたは玉を知らんか?』
「うーん。知らないかな。でも、私玉って呼ばれてる!」
『ほう。興味深い。では、そなたは玉ではないのじゃな?』
「そうだよー!」
『事実とは、誠に奇想天外である。不思議なものじゃのう。どうじゃ、ガラシャ。わしと取引せんか?』
相手は、悪魔なのだろうか?取引を仕掛けてきた。
「どんな取引?」
『簡単な話じゃ。玉を見つけるのじゃ。』
「え、見つけたらどうなるの?」
『望みを叶えてやろう。』
「怪しい〜」
『そうかの。ならやめておくかの。』
「やるー!」
『取り引き成立じゃな。また来るがよい。ガラシャ。』
「はーい!」
ガラシャは、『数字は嘘をつかない』という本を手に取ると、帰っていった。
『お札』が、本棚に貼られることはまずないのですが、あの世とこの世を繋ぐ、扉に貼られることが多いそうです。意外なもので言えば、インターホン。事故物件で、インターホンの中に見えないように貼ってあることがあるそうです。そうすることにより、霊が入ってこられず、厄除けになるのだとか………
次回までどうぞよしなに!




