第四十九話 幼き日を思い出して
ゼロイチ………
ゼロ………イチ…………
「え、なになに?ここどこ?」
ガラシャは、気がつくと寝台にいた。古びた毛布がある。毛布は何度も縫った跡があり、ボロボロだった。
「忠興様、何をしておられるのです。」
ただおき?
「いやな、玉が、目を覚ましたんだ!ようやく目が覚めたようだな。大丈夫か?」
ただおきという人物は、ガラシャを見つめ玉と呼ぶ。不思議なことこの上ない。
「う、うん。大丈夫。ここどこ?それにあなたは誰?」
私は、どこにいるのか。ましてや玉と呼ばれている。誰なのかさえも………………見当もつかなかったガラシャ。わかるのは忠興という人物と。その側近だけである。
「困ったことになったぞ。光秀様は怒っているに違いない。玉殿は記憶喪失だ。」
忠興が訳のわからないことを言っている。そう思っていた。
「私はわかるか?玉?」
よしんば、ガラシャだけが気づいていないことがあった。ここはもうゼロイチのいた並行世界、つまりパラレルワールドではないのだ。誰かの記憶の世界にガラシャは迷い込んでしまったのだ。誰かの記憶に閉じ込められたガラシャ。その記憶とは、奇妙にも玉という人物のものであった。なぜ、もう玉という人物がガラシャを記憶の世界に閉じ込めたかは、彼女にしかわからない。そして、この世界はガラシャの元いた世界とも異なるのだ。並行世界とは無限に存在し可能性という言葉がある限り、人間の想像を超える数の世界がある。この世界もそのひとつだ。
「・・・?」
ガラシャは、だんまりだ。そうする他に術がないのだ。
また、ガラシャはゼロイチと同じ世界から来ているのだが、時間が違うため、元の世界に戻ったとしても会うことはできない。それは、必然であり、運命なのだ。ガラシャはそのことをまだ、知らない。
何よりも先に、あの語尾が金になっている。ターラの世界へ帰ることが先決なのだ。
この記憶の世界は、どうやったら抜け出せるのか考えなければならない。
「ゼロイチは?」
「な、なんだそれは!?私は、忠興だ!」
忠興が酷く動揺している。それもそのはず、忠興とは、玉の旦那に当たる存在なのだ。それを忘れられてしまっては、ガラシャは相当な記憶喪失と思われてしまうであろう。
さて、この記憶。ガラシャは無事最後まで見届けることができるのか?まあ、実際には、記憶の中で、その記憶を追体験している。と言うべきか。否か。
幸運を祈る。
次回までどうぞよしなに!




