第四十四話 零一(ゼロイチ/れいいち)
『ヴォルフガング』作詞メテオーラ
忘れないで
今、信じるこの気持ち
胸の中でざわめいた
獣よ目覚めろ
誰かがじゃない
私だから
できることはひとつじゃない
ふたりならみっつかな
できないことはなにもない
正しさは間違いで
愚かさと賢さを知らぬ者
真実を拵える
「いいですか。零一さん。」
レイイチ。人生で何度聞いただろうか。事ある毎に聞くその名前を忘れないはずがない。ここに来る前の世界で1番よく聞いた言葉であり、聞き捨てならない言葉だった。僕の名前だ。僕は、ゼロイチじゃないのに。でも、そのことをわかってくれている気がした。気の所為かもしれない。でも、この人は何かが違う。そう直感でわかったゼロイチ。
「は、はい。」
「この世界に迷い込んだ。異世界の人間の話をします。」
「僕ですか?」
「違いますよ。その方は、一さんと言います。三大賢者に協力し、この世界を作りあげました。しかしその名前は、有名どころか無名であり、知ってる人は少ないでしょう。それもそのはず、今から何十年以上前のことですからね。」
ゼロイチの全身から汗が吹き出る。一とは聞いたことのある名前だからだ。
「レイイチ。父さんみたいにたくさん食べて大きくなれよ。父さんは昔な不思議な経験をしたことがあったんだ。そこには、神様がいたんだ。」
低い声で、一は、話し始める。
「また、始まったよ。父さんのホラ話。証拠がなきゃ信じないよ。」
「賢いなレイイチは、誰に似たんだろうな?」
「あなた、またその話?」
「そうだレイ。レイともそこで出会ったんたんだぞ?聞いてるかレイイチ?」
「うん。うん。聞いてるよー」
「―――で、その世界は女の子だけになったんだ。」
これって、これって、僕の記憶だよね?自分に聞くが、そこに返事はない。
「父さんは、本当に………」
「これは驚きましたね。人生に驚きを!さあ、ご唱和ください。まあ、冗談ですが、ええ、そうなんですよ。あなたのお父様が、三大賢者と協力し、この世界を創りあげたのです。」
「だから、みんな僕のことを・・・」
「そうです。お母様の零様は、この世界であなたを身篭ったのです。最初は、ゼロイチと名付けるとお父様が引かなかったので、ゼロイチという名前こそ浸透していますが、ある時、お母様が私の名前を入れてほしい。とおっしゃったのであなたの名前は、両親からそれぞれ名前を取り、零一となったのですよ。もしかして、聞かされてないんですか?」
「初耳だよ。知らなかった。でも、どうしてそれを知ってるんですか?タコなりさん。」
「本ですよ。本を読んだんです。オススメですよ。本。」
「そうなんですね。」
ゼロイチは、今までに感じたことのない感情を抱いていた。事実は小説よりも奇なり。本当ならば、「そうなんですね」の一言で終わらせてはならないのだが、ゼロイチの頭の中で、様々な思考が駆け巡る。あれがこうだとか。それは違うだとか。こんなことを考えても、何にもならないことはゼロイチが1番よくわかっていた。
ゼロイチの肩をタコなりが、そっと触れる。
「こんな言葉を知っています。本当の真実というものはいつでも真実らしくないものだ。 真実をより真実らしく見せるためには、どうしてもそれに嘘を混ぜる必要がある。 だから人間はつねにそうしてきたものだ。」
「てことは、嘘なんですか?」
「違います。あなたのお父様の話です。嘘をついてたんじゃないですか?」
「え………」
次回までどうぞよしなに!




