第二十七話 心の鍵
鍵は、一つだけでは意味をなさない。開けるものがあって、初めてその意味をなす。
では、本編へどうぞ!
ゼロイチは走っていた。大学の講義が始まる時間なのだ。まともに大学を受けたことがなく、そして尚、小学生であるのも事実に他ならない。大学の勉強についていけるのか。自分で理解できるのか。挫折してしまうのではないか。と、様々な憶測や、不安が頭を過ぎった。
しかし、それは自然なこと、誰しもが不安を抱くことをゼロイチは知らない。不安をどう捉えるか、どう活かすかが、鍵となるのだ。
心という名前の扉は、鍵を見つけなければ、決して開かないのだ。固く閉ざされたその扉をこじ開けようとゼロイチは必死になった。その行動こそが、走ることだった。意味もなく走っていた。
「あれ〜?何してるの?」
「そっちこそ。」
「学部どこだったっけ?」
「頼むよ。それすら聞いてないなんてさ。一緒に暮らしているのに。」
女性は、 青い瞳をしていた。特徴的な十字架のネックレス………彼女は、ガラシャだ。周りの風景から、写真を貼り付けたように、そこに佇んでいる。まるで、往年から、紛れ込んでしまったかのような風景。
ゼロイチは、美しいと思った。それは、彼女の容姿の話ではなく、風景とガラシャが佇んでいる姿だ。皮肉を言ったが、言わないほうがよかった。と、できもしないことを考える。ゼロイチは申し訳なく思った。
「国際じゃないか。言った気がするけどなあ。」
質問されるだけで、嬉しかったゼロイチ。ガラシャは、ゼロイチの返答を聞いて、微笑んだ。その美麗な顔から、真っ白な歯が現れ、ゼロイチの目を奪った。
ゼロイチは、思わず顔を背ける。
「よしてくれよ。」
「え?何が?」
「笑うなんて卑怯だよ。」
「えー!じゃあ、もっと笑っちゃおっかな!ふふふ!」
何気ない、他愛もない、この会話を楽しんだ。ガラシャが、ゼロイチの手を握る。ゼロイチの心臓は、踊っていた。
「そんなに汗だくで、何してたの?」
「いや、別に。」
「ふーん。じゃあ行こっか!ゼロイチ!」
「うん。」
素っ気ない返事だった。だが、必要以上に話すのも野暮ったいのではないかとゼロイチは、考えていた。これでいいんだ。と、自分に言い聞かせる。
「私ね。」
「え、なに?」
「言いたいことがあるの。」
胸の鼓動が高鳴る。これは、もしや………
「言いたいことって………?」
ゼロイチは、心の赴くままに、期待をした。期待が、膨らんでいく。赤い風船が、今にも割れそうだ。
「ペット買いたいの!」
「あ、うん。そうなんだ。」
これが現実である。
次回までどうぞよしなに!




