第二話 僕の価値
誰、誰、誰なのか。気になるところですね。
忘れないでください。人間は狩猟時代からそうたいして進化を遂げていないでしょう。
三十秒間目を瞑ってください。
わたくしが数え致しましょう。
いち・に―――おっと、失礼。これは文面でしたね。心の中で三十秒唱えてください。
準備はいいですか?
では、本編をどうぞ!
気がつけば、別世界にいた。辺りは明るく、眩しかった。明るいのは、当然かもしれないと瞬時に悟った男の子。なぜならここは、テレビの中だからである。
「どういうこと?なんでテレビの中に入れるの?ここは・・・」
その、はっきりとした顔立ちの女性の目を見ながら、男の子は、辺りを見回す。
「気づいた金。ここは私たちの世界・・・」
男の子は、掌に拳を当てて何かを思いついたようだ。
「わかった。ここ異世界だよ!僕が勇者でこの世界の魔王を倒すんだよ!」
威勢よく言ったのは良かったが、女性は、残念そうな顔で、男の子を見る。
「はぁ、違う金。鏡を見る金。」
男の子は、咄嗟に自分の頭や顔を触る。
「鏡?そういえば、顔の感覚がおかしいや。見てみようかな。」
女性は、魔法の様に何もない空間から、鏡を取り出した。
「わかったよ。今度こそわかった!お姉さん魔法使いだね!魔法を使って、鏡を取り出したんだ!」
どうやら、いい加減な当てずっぽうに女性は嫌気がさしているようだ。
「いいから、見る金。」
男の子は、おそるおそる鏡を見た。ところが、様子がおかしいのだ。人間特有の肌の色、目や鼻、口による凹凸、危険から身を守るための頭部に生えた毛の一切が見当たらないのだ。鏡に写し出されたのは無、言い換えるなら、空間そのもの。顔が、頭部が見当たらないのだ。
「おかしいよ。おかしいよ。おねえさん。この鏡壊れてるよ。だって、何も映らないじゃないか。」
「今、お姉さんと言った金?かねかねかね。私はターラ金。それに、映ってる金。この鏡はあなたの価値を表す金。あんたの価値は・・・」
「僕の価値は?」
僕は、ゴクリと唾を飲み込んだ。女性の口が開くのを今か今かと待ち構えている。
「ゼロ金。」
「そんなあ!顔がないなんて普通じゃないよ!それに、ここの世界の人達はどうやって、化粧するのさ!」
「周りを見る金。」
「え?」
思わず素っ頓狂な声を出し、周りを見ると、この世界にも、人というものは存在するらしい。その証拠に、足音や、喋り声が聞こえた。中には、不思議そうに男の子を見ている人もいた。彼らは、何かを恐れているのか、隠れながら、ひっそり、物陰から様子を伺っている。
「あれなに?ターラ。で、あってるよね?」
「あれは、人金。」
「へえぇ、えええ!」
「頭がお金になってるよ!」
「ここじゃ当たり前金。」
この世界の人は、頭部が硬貨や紙幣になっていた。信じられない光景に、慌てふためいたが、男の子は、呆然とその人々なのか、お金かわからないそれを眺めていた。
「君、ちょっといいかい?」
「私は、隠れる金。」
「あ!待ってよ。ターラ!」
「ターラ?なんだそれは?今ここには、私と君以外誰もいないはずだがな。」
男の子の前に立ちはだかったのは、警察官だった。
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次回までどうぞよしなに!




