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第4話 はじめての夜会

 夜会の会場となるホールはとても美しかった。

 天井には豪華なシャンデリアが君臨し、みんなを照らしている。

 ずっと地下室にいた私にはあまりにも眩しい光だ。


 まもなく司会者の進行で夜会が始まった。

 貴族の令息と令嬢たちは誘い合い、談笑したり、食事をしたりしている。

 まだ私にやるべきことはない。壁際で立っていよう。

 ちなみにこういうパーティーで輪に入れず壁際にいる女を「壁の花」って言うんだって。ちゃんと社交用語も勉強したわ。私の場合、猛毒のある花だけどね。


 しかし、物好きというのはいるもので、私に声をかけてくる男もいた。


「お初にお目にかかる方ですね。よかったら踊りませんか?」


 手を差し伸べてくるが、私の手を握ったらあなたの手は間違いなくかぶれちゃうよ。今は毒を抑えてるけど、ゼロにはできないから。


「悪いけど、他を誘って」


 私がこう言うと、プライドが傷ついたのか、男はあっさり去っていった。


「せっかく誘ってやったのに……なんだあれ」


「まあまあ。そう怒るなって」


 こんな会話が聞こえる。

 ごめんなさいね、誘いに乗らなくて。でもちょっと嬉しかったから、あなたがいい女性と巡り合えることを祈ってるわ。


 あと私がここでやるべきことは皇帝を待つことだけ。

 喉が渇いたので、テーブルの上にあるお酒をグビグビ飲む。生まれた時から毒を食べている私が、今更お酒に酔うことはない。いくらでも飲めてしまう。

 私を見たある令嬢が眉をひそめた。夜会に馴染めなくて酒に溺れてる女に見えているんだろうな、きっと。あながち間違いでもないけど。


 突然会場が沸き上がった。

 なんだろうとそっちを向くと、ついに皇帝が会場に現れたとのこと。

 どんな奴なのかしら、と私も眺める。


「ジェラルド・レクス陛下です!」


 司会者の声とともに、皇帝ジェラルドが入ってきた。

 若い。これが第一印象だった。

 皇帝っていうから、勝手に老けてる太ったおじさんを想像してたわ。

 艶やかな黒髪で切れ長の瞳を持ち、すらっとした顔立ちと体型をしている。皇帝の白い衣装が、その神秘性を高めている。美しい、と思ってしまった。仮にも令嬢なのに貧相で毒まみれの私とは大違いだわ。


「ようこそ、夜会へ。今日は楽しんでいってくれ」


 若い貴族の子息や令嬢が盛り上がる。この国で一番偉い人がやってきて、しかもあんなにかっこいいんだから、盛り上がらない方がおかしいわね。

 あの皇帝は、容姿も、境遇も、権力も、人気も、私が持ってないものをみんな持ってる。なんだか妬ましさすら覚えてしまう。

 私は生まれてすぐにヘドロ川に捨てられて、あの男は生まれてから今までずっと大切に育てられたに違いない。こうして私から狙われてるけど、それだって有名税みたいなもんよ。

 暗い情念がどんどん湧き上がる。

 今夜、私はあの皇帝を殺す。その後、きっと私も護衛に殺される。持たざる者が何もかも持ってる者を殺して、ジエンド。実にドラマチックじゃない。なんだかモチベーションが上がってきた。ああ、早くあの皇帝が中座しないかしら。私はまたお酒を一杯飲んだ。


 皇帝が場に出てきてから、一時間ほど経った頃。


「では私はそろそろ……」


 皇帝ジェラルドが皆から惜しまれつつ、ホールを後にする。

 やっとこの時が来た。

 もはや誰も私なんか見てないので、用を足しに行くような素振りでこっそりと、かつ堂々と後をつける。


 上手い具合に回り込むことができた。

 衛兵二人を連れた皇帝が歩いてくる。

 ここまで来れば成功したも同然だ。衛兵をどうにかしてから、皇帝にタッチすればいい。最大限に毒を発揮すれば即死させられるはずよ。


 私は皇帝の前に飛び出した。


「ん?」と皇帝。


「なんだ、お前は!?」


 衛兵二人が剣を抜くが、すでに私も武器を抜いている。毒ガスという武器を。


「うっ……!」


「ぐえっ……!」


 昏倒させるような毒を体内で作り上げ、衛兵にだけ放っておいたの。今の私はこんなこともできる。

 これで舞台は整った。

 トドメは私自身の“手”で決めたい。私はどんどん皇帝に近づいていく。

 すると、皇帝は言った。


「毒か……」


「ええ、そうよ」


 皇帝はあまり焦っていない。よほど肝が据わってるのか、それとも状況が分かってないのか。


「道具を使ったって感じでもなかった。どうやったんだ?」


 興味を持たれたのがなんだか嬉しくて、私はつい答えてしまう。


「体質というやつよ」


「なるほど、面白いな」


 今からあなたはその面白い奴に殺されるのよ。私は皇帝に触れようとする。


「握手しよう」


「は?」


 皇帝は私に右手を差し出してきた。


「ほら、握手しよう」


 自分を殺そうとしている相手に握手を求めるなんて、なにを考えてるのよ。

 私の方が困惑してしまった。

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