第16話 新たなる危機
私の父――ムゾンは遠い辺境に追放された。
もう二度と会うことはないだろう。
私もあの男に未練はない。
私はやり遂げたのだ。
だけど、ジェラルド様や重臣たちは今まで以上にバタバタしていた。
ムゾンの屋敷は家宅捜査され、その非道な行いの数々が明らかになったのだけど、ムゾンのさらなる悪行が明らかになったのだ。
ジェラルド様が教えてくれた。
「奴は――イブル王国と繋がっていた」
イブル王国といえば、西にあるレグロア帝国に野心を持っている国家である。
近年は国境付近で挑発的な行為を繰り返し、緊張状態が続いている。
侮れない軍事力を持ち、ジェラルド様も日々その対応に追われていた。
「それどころか、奴はイブル王国のアゴン王に軍事機密を売り渡していた」
繋がっているどころじゃなかった。
ムゾンはれっきとした売国奴だった。
「おそらくイブル王国に我が国を攻めさせ、それに乗じて、私や皇帝派の人間を抹殺。奴はイブル王国の協力の元、この国のトップに上り詰めるつもりだったのだろう」
家宅捜査でそんな計画書が次々に発見されたらしい。
「侵攻計画はすでに水面下でかなり進んでいたはずだ。もう間近といっていいかもしれない。このタイミングでムゾンを失脚させられたのは、まさに幸運だったといっていい。いや、私としてはニーシャのおかげだと思っている。君がいなければ、私は奴を放置してしまっていただろうから」
褒められてしまった。私のおかげだなんて……。
だけど喜んでいる場合じゃない。
ジェラルド様にとって最大のピンチがまもなく訪れつつあるのだ。
ムゾンを倒してから、ジェラルド様は大忙しになった。
イブル王国はまず間違いなく近日中に攻め込んでくる。
しかも、相手にはレグロア帝国の軍事機密の情報が大量に流れ込んでいる。ジェラルド様はまだまだ国内での求心力が足りない。戦争になればあまりにも不利。
しかし、私に出来ることはない。
ケイティたちと解毒に励む日々が続いた。
体内の毒はなくならないけど、体外に毒を出すようなことはなくなってきた。
「さあ、今日も祈りましょう、ニーシャちゃん!」
「うん……」
ケイティと共に祈るしかない自分が歯がゆい。
けれど、私もますます毒を上手く操れるようになってきた。
私も何か役に立てることはないだろうか。
まもなく、ついにイブル王国軍が動き出したとの情報が入ってきた。
戦好きのアゴン王自ら、軍を率いているとのこと。
国境を突破してくる日も近いかもしれない。
一方、ジェラルド様はギリギリまで戦争を回避するつもりだ。
今の状態で戦争になったら、レグロアは厳しい戦いを強いられる。
臣下との会議を終わらせたジェラルド様にはこんなことを言われる。
「ニーシャ、もし戦争になったら君は逃げろ。あの三人には君の世話を任せてある」
「逃げるのならジェラルド様も一緒に……」
「私は皇帝、逃げるわけにはいかないさ。大丈夫、あくまで念のためのお願いだ」
平静を装っているが、国の命運を背負い、肩に力が入っているのが分かる。
何とかしたい。
教会でのお祈りを思い出す。
私はジェラルド様のためなら我が身を捧げてもいいと祈った。
今こそ、その時なのかもしれない。
私はある決意をした。




