9-1 大事な話だそうで
オズバルド様の看病(?)も有りましてその日のうちに熱が下がった私ですが、オズバルド様が何故か過保護になりまして。大丈夫だ、と言っているのに関わらず三日は寝ているようにと小言を言われ、結局折れた私は三日間ベッドから離れることが出来ずにいました。でも、おそらくオズバルド様を説得出来たとしてもアズがやっぱり心配をしていたと思うので、まぁいいです。
で。
三日間の空き時間、何故かオズバルド様は甲斐甲斐しく私の世話をしたがるのでちょっと鬱陶しく思いました。……ごめん、オズバルド様。
でもご飯の餌付けだけじゃなくお菓子もたくさん買って来て食べさせようとするんだもの。ネスティーとして生まれ変わってからお菓子を食べる機会なんて殆どなかったから、初めは嬉しかったのだけど。食べてこない生活を送ってきたからなのか、それとも急激に脂質と糖分たっぷりのお菓子を食べたからなのか。
……お菓子に嫌悪感が出るほどになってしまいました。尚、七日目で。
オズバルド様が私にお菓子を食べさせようとしているのは痩せ細った私を心配して、という事は理解出来ましたけれど。でも毎日毎日お菓子をお腹いっぱい食べるのは、無理です。
というか、勝手かもしれませんがお菓子をお腹いっぱい食べてしまうとご飯が食べられなくなりそうなので、やっぱりやめて欲しいんですけど。なんて攻防を少しした後。オズバルド様は渋々お菓子の餌付け行為は控えてくれました。
「そういえば」
明日はようやくベッドから起き上がることが許されることになって機嫌が良くなった私に、オズバルド様は思い出した、と言わんばかりに口を開きました。なんです?
「私は先日父上から呼び出されて会いに行って来たのだが」
そういえば私が侯爵領の中心地で店を見回る前に、ヘルムからオズバルド様についての話を聞かされていたっけ。
「はい」
「そのことについて、少し大事な話がある。良いだろうか」
大事な話、と言われてしまえば聞かないわけにはいきませんので頷きます。
「はい」
「先ず、ネスティーと私の婚約だが王命は撤回された」
わぁ、本当に大事な話でした!
いえ、確かに大事な話とは言われましたけれども!
中々にいきなりぶっ込んで来る内容ではないですよね!
……なんて数々の言いたいことを飲み込んで続きを聞くことにします。
「でも父上はネスティーを気に入っているから婚約は続行したい、と望んでいる。でもそれは難しい」
「まぁ私は伯爵家を追放された平民ですし、オズバルド様は貴族子息ですしね」
「そう。それで。父上はネスティーを何処かの子の居ない貴族の養女にして跡取り娘とするか、父上が持っている爵位の一つを私に与えるか、考えているらしい。ただその場合平民のネスティーを娶るとしたら、男爵位になるが残念ながら父上の持つ爵位に男爵は、無い。何処かの男爵位を買ってしまおうか、とも考えたらしくて私にどうする、と尋ねて来た。でも私は……断ったんだ。ネスティーを貴族の養女にするのも私が男爵位を貰うのも」
オズバルド様の話は随分と具体的に私を囲い込もうとする公爵様の話で。公爵様がそれほど本気なのか、それともオズバルド様を試されているのか。俄かに判断がつかない。
「何故お断りを?」
まぁ公爵様の真意はさておき。オズバルド様が貴族のままでいるのなら、この二つが簡単なはず。あとは騎士になって授爵されるとか、騎士ではなくても何かの功績を立てて授爵されるとか。そんな所。
「何故ってネスティーは平民のままでいたいのだろうと思ったんだ。あなたが実の父達に受けた仕打ちについて、どれだけ大変なのか私には分からない。だが貴族令嬢として育てられるはずのネスティーは、知識教養マナーが出来ていても、圧倒的に足りていないものがある」
オズバルド様が、私の気持ちを考慮してくれたこと、素直に驚いて嬉しかった。そして、私に足りないものは私も何となく分かった。
「同世代の方を含めた貴族の皆さまとの交流、ですか」
「そう。ネスティーには悪いが、貴族の子どもは五歳頃から徐々に両親と繋がりのある家との交流を始める。十歳前後には繋がりが無い家からも招待状が届く。そうして繋がりを増やしていく。もちろん交流してみて合わないとなれば、挨拶程度の仲になって繋がりはあまりなくなるけれど。ネスティーは十二歳。既に交流が始まっていなくてはならない。もちろん今からネスティーが頑張ると言うのなら、それはいいと思うけれど」
でもネスティーは、それを望まない気がした、と最後は呟くように言葉を溢して。
きちんと私の気持ちを考慮してくれていることが、とても嬉しかった。
お読み頂きまして、ありがとうございました。




