8-1 甘やかされてま……す?
カーテンの向こうから射す太陽の光で目が覚める。ぼうっとしながら視線を彷徨わせてベッドサイドのテーブルよりやや足元寄りにアズとヒルデの二人が並んで座って目を閉じていた。
身体を起こそうとして昨夜よりも身体が動かない。指先に力を入れてゆっくりと腕を曲げ伸ばして。でもそこで力尽きた。昨夜は上半身を起こせたのになんで今朝は腕に力を入れるだけで力尽きるのか。可笑しな自分の身体。目を閉じてゆっくりと全身に意識を向ければ関節が痛い。
日本人だった頃も熱を出すと関節が痛んだけど、それはネスティーとして生まれ変わっても変わらないようで。痛む節々に我慢しながらゆっくりと手の甲を額に当ててかなり熱い事を知る。……どうやら熱が下がっていないみたい。
体力が付いてきた、と調子に乗ったから疲れたが出たのかもしれないし、環境の変化に戸惑ったのかもしれないし、緊張の糸が途切れたのかもしれないし、全部の要因かもしれないし、風邪なのかもしれない。要するに原因は分からない。
「お嬢様?」
「アズ……おはよう」
擦れる声。
心配そうな表情のアズとヒルデ。
ヒルデは氷枕を替えると下がって、アズは私の額に手を当てて下がらない熱に眉を顰める。
「水を飲みますか?」
コクリと頷く。
「起き上がれない」
力が入らないことを伝えれば心得たようにアズが私の身体を起こして、ヘッドボードにクッションを置いて支えを作ってくれた。水差しから水を注いでコップを渡してくれたアズに礼を述べてあっという間に飲み干す。もう一杯飲んだ所でズルズルと身体がベッドに逆戻りしていく。
それだけ身体を起こしているのがとても辛かった。
「何か、食べますか?」
この質問には首を左右に振る。食欲が無い。
ドアがノックされた音に視線を向けると顔色を変えたオズバルド様がバタバタと走り込んできた。
「オズバルド様! お嬢様は病人です! お静かに! というより勝手に入室しないで下さい!」
途端にアズに叱られている。
……そういえば、オズバルド様は何故かロイスデン公爵家に帰っていて、昨日此方に戻って来るという話だったっけ……。でもなんでオズバルド様はこの屋敷に滞在するのかしら。
ああ頭がボーッとする。考え事が上手くまとまらない。そしてオズバルド様はなんで血相を変えてるのかも全然分からない……。
取り留めもなく思考がバラついて。
アズがオズバルド様を叱っていることに対しても、公爵子息に失礼じゃないかな、とは思うけれどそれを口にするのも億劫で。
「済まない。ただネスティーが心配で」
あれ? いつの間にかオズバルド様に呼び捨てされているような気がする。気のせいかな。というかオズバルド様、アズに叱られて素直に謝って偉い。あと、私の心配をありがとうございます。心配をかけてごめんなさい。
……ああ、冷たい枕が欲しい。
そう思った所でヒルデが氷枕の替えを持って来てくれて「取り替えますよ」 と優しい声がして。頭の下に氷枕が敷かれてその冷たさにホッとして。
トロトロとまた瞼が下がって来て眠りの淵に引き込まれそうになる寸前、また頭を撫でられる。昨日のヒルデの優しい手じゃなく、いつものアズの温かい手でもなく。
ちょっとゴツくて大きな手。
ーー誰の手か分からないけど、その手に擦り寄ったまま、また夢の世界に旅立った。
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