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6-7 散歩しながら市場調査?

 無言で私を抱っこするヘルムと同じく無言のアズに首を傾げつつ、次に気になったのはテーブルと椅子の絵がある看板のお店。多分家具屋さんでは……と予想し、入ってみる。予想通りローテーブルや椅子、というか日本人だった頃、バーで見かけたやたらと高いスツールもあった。コレ、私が座るのが下手なのか腰より高いからすんなりと座れなくてスムーズに座れる人に憧れたもんだわ。まだ二十代の頃の初々しさが残る頃だったなぁ。


「えっ? 怪我をした?」


 思い出に浸っていたら驚く声が耳に飛び込んで来た。この店もお客さんが居て、此方は四人。二人ずつ二組のようで、そのうちの一組が店員さんと話している姿を見てはいたけど……。

 怪我とは穏やかではないね。


「そうよ! 私達の子が此方のテーブルの脚に引っかかって転んで頭をぶつけたの! 医者はたん瘤が出来てるから大丈夫! とは言ってたけど、危ないテーブルなんか作らないでよね!」


 ……おー。

 凄い剣幕でクレーム付けてるわぁ……。

 指差したテーブルは確かに脚が長いけど、いや、買う時点で高さがあることは見れば分かるよね? お子さんが怪我したのは可哀想だけど、買ったのは自分達でしょうに。

 チラリと見ると若い男女。多分夫婦。この外見から察するに二十歳前後? となると子どもは小さいかな。

 店員さんは、怪我をした事によるクレームに対して「お大事にしてください」 とお見舞いの言葉は口にしたけれど、クレームそのものには困ったような表情を浮かべている。

 まぁそうだよね。買ったのは、そっちじゃん。って話だもんね。ふむ。


「こんにちはー」


 ちょっと無邪気な子どもキャラみたいになって割り込んで挨拶をする。店員さんも客夫婦も驚いてビクリと身体を震わせてから「こんにちは」 と店員さんが挨拶をしてくれた。


「ねぇねぇ、お姉さん」


 店員さんにニコッと笑ってから客夫婦に声をかける。


「な、何かしら」


 お姉さん、と呼ばれて警戒しながら応えてくる女性に更に笑いかけて言う。


「子どもちゃん、怪我をして可哀想だね。痛いのが早く良くなるといいよね! でも、お姉さんとお兄さんが買ったのが、このテーブルだよね? なんで? なんでこんなに大きなテーブルを買ったの?」


 大きいというよりは、高さがあるテーブルだけど、まぁ分かり易く大きいと言ってみる。若い客夫婦は、私が話を聞いていた事にムッとしていた。勝手に聞いて腹が立つ、といった所かも。聞こえて来たんだから仕方ないよね。割り切って答えを待つ私。


「そ、れは……私達が使い易いテーブルだったから」


 ちょっと悔しそうな表情から察するに、分かっていてもクレームを付けたくなった、といった所なのかもしれない。自分達で買ったことは分かっているのにクレームを付けるって理不尽以外の何物でもないと思うのは私だけでしょうか。

 まぁ兎に角、この若い客夫婦のクレームには、もう一組のお客さんも眉間に皺を寄せて見ている事からも分かるように、非常識のようなので。


「あー、お兄さんとお姉さんが使い易いからなんだ! じゃあどうしてお姉さんは、お子さんが怪我をした事をこのおじさんに怒ったの?」


 一応無邪気な子どもキャラなので、分からないフリをして正論をぶっ込んでみましょう。途端に気まずい顔をしてみせる若い客夫婦。私に言われて理不尽なクレームを付けた自覚が出来ましたかね。何よりです。

 そして無邪気な子どもキャラなので店員さん、と言うよりおじさんって呼んでみる方がそれっぽいかなと考えて、おじさんと呼んでみます。


「それは……」


 言葉に詰まる女性。すかさず男性がフォローしてくる。


「君には関係ないだろう」


「関係ない! でも、自分達で買ったのに、なんで怒るのか不思議だもん!」


 確かに関係ないですけど、イラッとしたので笑顔いっぱいにお前達が買ったんだろ、と言ってやる。


「それは、そう、だが! 何とかならないかと思って」


「なんとか?」


 何とかって買ったテーブルを返品したい、とかそういうこと?


「ああ。君の……お嬢さん、の質問で気持ちが落ち着いたけど、折角気に入って買ったテーブルだ。何とかしてもらいたいと思ってな」


「そのなんとかって? どうして怪我をしたの?」


「ああ、脚が長いからその脚に子どもが足を引っ掛けて転んでおでこを床にぶつけたんだ」


「じゃあテーブルの脚を切ればいいんじゃないの?」


「そうすると俺と妻は低くて使い難い」


 なるほど。

 店員さんをチラリと見れば難しい顔をしている。


「でもそれだとお子さんはテーブルを使えないでしょう」


「椅子に座らせてご飯を食べてる」


「それ以外は使わないんだ」


「そうだな」


「じゃあお兄さんとお姉さんはご飯以外では何に使っているの?」


「いや、ご飯を食べる時だけだな」


「じゃあお子さんに合わせて脚を短く切ってお兄さんとお姉さんは椅子を使わないで床に座って食べればいいじゃない」


「それは……まぁそうだが」


 男性の若い客は渋い表情で、でも頷く。気乗りはしないけどそれ以外の方法が無いと分かるらしい。


「いや、お嬢ちゃんの言っていることは分かるが、それだとおじさんは悲しいんだ」


 渋々納得仕掛けた所で店員さんから待った! の声がかかる。……まさかの。


「おじさん、悲しいの?」


「そうさ。このテーブルは脚が長く高さがある事が美しいテーブルなんだ!」


 力説されたし。

 まぁ確かに木の温もりを感じさせるこのテーブル。脚すらも手触りが良さそうで脚の一本一本に丁寧なヤスリがけをしてささくれ立つ所が無いから、そういう意味では手間暇をかけて職人さんが作り上げた代物なんだろうけど。


「そっかぁ。作った人の気持ちがあるんだ!」


「そう! そうなんだよ! お嬢ちゃん、分かってくれてありがとう!」


 ウンウンと強く頷くけど、それじゃあこの若い客夫婦の言う“何とか”にはならないよねぇ。

 例えば、前世では使わない時はテーブルの脚を折り畳んで片付けるようなテーブルがあったなぁ。後は脚そのものを外すテーブルとか。

 ふむ。

 まぁ子どもの発想、と言い切れるかどうかはさておき。

 まぁ子どもの発想だとゴリ押しする気満々だけど。

 店員さんに紙と鉛筆を借りて前世の記憶にある折り畳めるタイプのテーブルを描いてみる。金具の名前は分からないし、詳細もぼんやりで覚えてないけど、店員さんが真剣な表情を見せているので何となく理解してもらえているらしい。後は、脚そのものを外すバージョン。穴を開けてそこにクルクルとネジで脚を止めていくタイプと、嵌め込み式タイプ。簡単なのは嵌め込み式だけど、さてどうするのかは、この店次第だねぇ。


「なるほど。お嬢ちゃん、凄いな! こんなことを考えついたのか!」


「脚が長いなら切ればいいって思ったけど、切るのがダメなら、こうするといいかなって思ったー」


 無邪気な子どもキャラは続行中です。

 ……というか、ご都合だよねぇ。日本っぽいのに、こういう所が雑な感じというか、折りたたみ式テーブルとかありそうで無いのが雑だよね。小説とは違う世界と思うつもりだけど、ちょいちょい日本を思い起こさせるのに、この辺のアバウトさが何とも言えない。

 ご都合だねぇ。

 でもまぁ、店員さんも若い客夫婦も真剣に考えているみたいだから、何とかなりそうかな。日本の知恵が役立つといいなぁ。

 尚、そこで私は関わるのをやめて、この店の家具をあれこれ見たけど、気になる商品は無かったので買わなかった。でも店から出ようとしたら店員さんに止められて、あの若い客夫婦と話し合って嵌め込み式の脚が取り外せるタイプのテーブルを作って、それと交換することにしたらしい。

 交換だと、お金が不要になっちゃうと思うんだけど。

 なんて思ったら、嵌め込み式の手間賃だけ支払ってもらい、後はこういうテーブルが出来たよ、と話を広めてもらうことにして、お金は払わなくていい事にした、とか。

 成る程。

 口コミですか。それもまた商売には必要ですよね。

 そんなわけで次のお店に行きましょう!

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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