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6-2 散歩しながら市場調査?

「あの、オズバルド様」


「どうした?」


「学園に入学しなくてよろしいのですか?」


 そのうち飽きるだろう、と思って何も聞かないし言わないでいたのですが。そろそろヘルムからお庭の散歩を始めましょう、と言われた事から思い切って尋ねてみました。つまりそれだけ時が経っている、という事ですから。もうそんなに時間が過ぎた? って自分で驚きましたけども。

 痩せ細った私が憐れを誘ってオズバルド様にとっては物珍しい人間なのだろうな、と思っていたので。だけど変わり映えしない毎日を送っている私に直ぐに飽きると思っていたんですよ。それなのに。

 やれ、食事の量が増えたのは喜ばしい、と頭を撫でられ、やれ、たくさん歩けるようになったのは嬉しい、と頭を撫でられる……。こんな毎日を十日くらいで飽きるかと思っていたら、今も尚……およそ四十日程という事ですけど……続けられているので、そりゃあ気になりますよね。

 とはいえ、オズバルド様、私に飽きませんか?

 なんて流石に直接過ぎて聞けないので。

 聞いてもいいですけど、何となくオズバルド様って不器用なりに私を可愛がってはいる……ようなんですよね、多分。だから飽きない? と聞いて、逆にオズバルド様が、自分は邪魔者なのか……みたいなそういう感じで気に病ませても嫌だったので。

 学園に行かなくていいんですか? と無難な所というか、遠回し? に、尋ねてみたのです。


「学園? ネスティーは行きたいのか?」


 ……いや、私の話ではなくて、オズバルド様が行かないのかって確認です。


「いえ。行ってみてもいいかもしれませんけど、学力も分からないですし、勉強についていけるか分からないですし。お友達が一人も居ないので作ってみたいような、出来ないかもしれないようなって躊躇ってしまいますし。礼儀作法や教養も追いついている自信も無いですし。色々考えると私は行かなくてもいいかなぁって。抑々、平民ですから学園の入学試験に合格するのかも分からなくて、学園の学費も支払えるとは思っていないですし。だから私はどうしても行きたい、とは思ってないです。

 私じゃなくてオズバルド様は行かなくていいのかな? と思って尋ねました」


 オズバルド様に尋ねているのに、何故私が行きたいのかって問い返されたのか分からないものの、皆が居る前で宣言をしておくのも良いか、と考えたことを口にします。

 此方の世界の学園って、日本でいう所の高等学校にあたるわけですが。年齢がちょうど高校に入学する年齢だから、というのではなくて本当に高等な教育のようです。

 まだ伯爵家に居る頃にアズから聞いた話ですけど。

 王立の学園は富裕層の平民が生徒の一割。九割は貴族の子息子女が通っているそうで。

 領地経営に特化した学科。文官を目指す学科。侍従・侍女を目指す学科。当主・夫人教育に特化した学科。王城の使用人を目指す学科の五つの学科があるそうです。

 前世で読んだラノベでは淑女教育を主とする令嬢が通う学科がよくあったんですけどね。それはこの国の学園には無いそうです。学園に入学前に淑女教育が出来ているのが当然だから態々作る必要がなかったそうで。合理的ですね。

 領地経営学科は所謂後継の子息が多いそうですが、稀にぶっちゃけると領地経営に向いてない人が後継の家も出てこないとも限らないので、その代理を務められる人材を育成する学科だそうです。なるほど。

 文官学科は城の文官を目指す学科。男女問わず文官になれるそうなので、富裕層の平民の男女が多い学科だそう。もちろん下位貴族と高位貴族の子息子女もいるようです。

 侍従・侍女学科は下位貴族の子息子女が多いそうです。尚此方は高位貴族の使用人を目指すというもの。富裕層でも平民だと高位貴族家での雇用は下働きから始まるので、この学科は選ぶ意味を成さない、とか。奉公先の高位貴族家で、下働きから経験値を積んで昇格して侍従や侍女の地位を目指すのが平民は普通だから、学園で学ぶ必要が無いそうです。でも下位とはいえ貴族の子息子女が使用人として育てられているわけではないので、学園で使用人として仕えられるように覚えるための学科だとか。納得。

 王城の使用人を目指す学科は、これも下位貴族の子息子女が多いようです。侍従・侍女学科よりも高度な礼儀作法や知識教養が求められるので、採用されれば給金は高いけど血の滲むような努力が必要な学科だとか。アズの令嬢時代のご友人がこの学科に合格し、話を聞いた所、目が死んでいる人か血走っている人か、どちらかしか居ないと断言されたそうです。斯くいうご友人は血走った目の方だった、とアズが遠い目をして証言してくれました。

 そして、私の中で一番不思議だったのが、当主・夫人学科です。何それって話です。

 貴族の子息子女のみが通い、学園に通う高位貴族の子息子女は殆どがこの学科に在籍しているそうです。ラノベの淑女科みたいな、キャッキャウフフのふんわりした学園生活を送れる学科かなぁなんて勝手に想像していたのですが、アズ曰く。一番過酷な学科、だそうです。

 ーーどういうこと?

 と思って尋ねたら。

 宰相補佐様から聞いた話ですが、という前置きの後。


「数十年前にとある高位貴族の子息数名を誑かす下位貴族の子女が現れたそうです。で、婚約者が居た子息数名は全員婚約破棄をし、全員がその子女を妻に娶ると大騒ぎを起こしたことがあったそうです」


 わぁ。所謂ラノベの婚約破棄モノだわ。あれ、なんだっけ。乙女ゲーム転生? 悪役令嬢モノ転生? ああいうやつってこと?


「その場が王家主催の夜会会場ということで、各家の当主・夫人、婚約者の家の当主・夫人どころか全ての貴族家の当主と夫人に国王陛下筆頭に王族がいらっしゃる所でのやらかしに、その子息達の親である当主と夫人方のみならず、国王陛下も激怒したそうで」


 ……うわぁ。まさかの学園での卒業パーティーとかそんな可愛いものじゃなく、王家主催の夜会でやらかしたんだぁ。そりゃあ親だけじゃなく国王陛下も怒るよね。自分主催のパーティーで自分のメンツを潰されたわけだから……。


「国王陛下が当主になるとは。夫人になるとは。という教育を身を以て思い知るよう、当時の学園長に指示をしたそうです。それが当主・夫人学科。内容は知識教養なんて可愛いものではないそうです」


 知識教養のお勉強が可愛いものと表現された上に、そうではない、ときた。では何。


「当主として家を存続させるにはどうしたらいいか。派閥内での争いごとを収めるにはどうしたらいいか。別の派閥との軋轢が生まれた場合、どのように互いが妥協して落とし所を付けるのか。家同士の利益等を考慮する婚姻が成された場合と破棄された場合の利益と不利益を第三者に提示する。など実際に起こったトラブルを元に自分で対処方法を考え実践して、何が良くて何が悪いのかを話し合うという学科を学園長が考案したとか。これは婿入りし、当主代理となる予定の子息も学びます」


 おおぅ。まさかの実地研修学科……。しかも実際に起こったトラブルって、何処かの家で有った出来事だから、やらかし具合によっては、これは我が家の先祖が起こしたトラブルでは……と子孫が憂いと羞恥に塗れるやつでは……っ。


「夫人学科は、なんて言いますか。女同士の闘いのお勉強といいますか。実際に夫人の立場の方を講師として招いて、ドレス、服飾品等の褒め方と褒めているようで貶している話し方と貴族的な嫌味の応酬などを教えてもらうとか。或いは下位貴族の子女のカーテシーが高位貴族の夫人には受け入れられず、指先が震えていると難癖を付けるとか高位貴族の子女でも返礼状を書かせてみて文字が汚いと読めない、と返礼状をその場で破いて貶めるとか。そういう事例を出して女同士の闘いの交わし方を勉強するそうです」


 怖っ。

 当主学科も夫人学科も怖っ。

 ああ、そういう実地研修を実施されれば、そりゃあ恋愛に現を抜かした挙げ句の婚約破棄なんて、しないや。現実を突き付けられるわけだもんね……。恋愛が悪いわけじゃないけどお花畑思考を回避するには、そんな現実を突き付ける学科は大事かもね……。

 まぁ平民になった私には夫人学科なんて関係ないですけども。貴族の身分だったとしても、やっぱり関係なかったとは思いますけども。

 アズから聞いた学園の内情をこうして改めて思い返してみると、行かなくていい気がします。

 行くとするなら文官学科か王城の使用人学科なら価値があるかもしれないですね。でも、今のところ、どちらにも興味が無いので行きたいとは思いません。

 そんなことをツラツラと考えていられたのは、要するにそれだけオズバルド様のお返事が無かったから、です。


「ネスティーが行かなくていい、と思うなら、私も行かなくていい」


 黙考というのか熟考というのか。

 行かなくていいのですか?

 という至極単純な質問からかれこれ三十分くらいの時が経過してから、オズバルド様がお答えしてくれました。

 ……いや、その答えだけなら三十分も考える時間、要りましたか?

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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