6-1 散歩しながら市場調査?
結局、あの日、私に何が出来るのか。
という疑問にアズもヘルムさんも答えてくれませんでした。……まぁ答えられるわけがないよね。私だって自分で何が出来るのか疑問に思いましたし。その質問の答えは保留で、ということになりまして。
ヘルムさんから仕事をするにしても、仕事をしないで勉強するにしても、他のことをするにしても。体力を付けましょう、と進言されました。まぁ何をするにも身体は資本です。
前世、日本人で四十五歳以降の記憶が無いために、おそらくそこで死んだと思うわけですが。
二十代の頃の体力が四十過ぎて続くような生活を送ってはいなかったので。ガクンと体力が落ちたのを覚えてます。兎に角睡眠を欲する日々。肩や背中や腰や足や……全身がバッキバキに凝り固まっていたのを思い出します。肩をしょっちゅう揉んでいたり目が疲労して揉んでいたり。足は浮腫んでパンパンだしちょっと腰を伸ばすだけで「あー……」 と声が出た記憶が蘇ります。
そんな前世でしたから体力大事。
嫌というほど身に染みてます。
そんなわけで日光浴で少し体力が付き出した頃に食事の量がパン一つ食べ切るとかスープを全部飲み干すとか出来るようになりまして。家の中を歩き回る事が出来るようにもなりました。
アズのお母様もこの頃には合流し、アズのお母様にも私の考えを話せば、年齢よりも幼い体型に痩せ細っている姿から虐待を見抜かれたようで。
こんな聡明で優しいご令嬢になんてことを……と号泣されました。だからアズが私を守ってくれたんですって言ったら良くやった、とアズを褒めてました。アズのお母様の名前はヒルデさんで“ヒルデ”とお呼び下さい、とのこと。序でにヘルムさんもヘルム、となりました。
で。
ヘルムが公爵様に交渉してくれた結果。
メイドが三人。護衛が二人増えました。……多くない?
でも、公爵様はこれでも少ない方だ、とヘルムに言ったらしいので、それだけ私の血に価値がある、といった所なのかもしれません。
うーん……。
となると、私は働きに出ない方がいいのでしょうか。人に迷惑をかけてまで働きたい、というのは我儘になりますよね。どうしましょうか。
尚、生活費やら屋敷の購入費やら諸々のお金は、公爵様が仰るには必要経費だそう。……なんの? 私とオズバルド様の婚約継続の必要経費ってこと? ……多すぎない?
そんなこんなで、伯爵家を出てから四十日が経過してました。まだまだ体力不足だし、食は細いし、身体も細いし、背も低いですが、ガリガリよりは少しだけ肉がついた……でしょうかね。
あと、髪や爪がパサパサからツヤツヤに変わりつつあります。服も新品。ボロボロでもないし、袖や丈がピッタリ。本当に公爵様には感謝してもしきれませんが、タダより高いものは無いとも言いますし、恩返し、出来るのでしょうかね。
「ネスティー」
「オズバルド様」
そう。
そして何より。
オズバルド様との婚約継続中どころか、叱られに帰ったというおよそ四十日前のあの日から直ぐにオズバルド様は戻って来たと思ったら、今度は一緒に暮らし始めました。……いや、なんで?
オズバルド様、小説ではそろそろ学園生活を送る頃合いじゃあなかったでしたっけ? 残念ながら学園生活は詳細が描かれていなかったですが。だってあの小説、冒険小説だし。冒険者登録をしてから成長していく話なので、学園生活なんてそりゃあ描かれないですよね。
だから学園を卒業してから成人して、公爵子息という貴族の地位を捨てて平民として冒険者登録をして冒険者生活を送り始めた……と、サラリとしか書いてないんですけど。
でも、小説では学園生活は送っているはずだし、転生してアズから教わった所によれば、大体オズバルド様の年齢よりちょっと下くらいから学園に入学する者が多いそうなんですよね。だから学園に入学していても、おかしくないはずなのですが。
実際には、私と一つ屋根の下で暮らし出したんです。いや本当に、なんで?
学園行って勉強とか友人作りとか、そういうのが必要なのでは?
通わない選択肢もあります。騎士で身を立てる、とか。平民になることを見越して商売人になる、とか。騎士見習いや商人見習いは、騎士団に入団するとか商会に入会するとか、そういう方が学園行くより即戦力になるので、通わないという選択をするわけです。
でも、オズバルド様の場合、小説では冒険者登録をしていましたけど、それでも学園に通ったわけです。まぁ小説は小説。此処はあくまでも似た世界なだけだと思います。それでも学園に入学する方がいいのではないのですかね?
世界は広いわけで視野が広まれば、また変わってくることもあるでしょうし。友人も出来るでしょうが冒険者じゃなくて違う進路もあるでしょうし。私との婚約を継続する意味はおそらく無いですし。オズバルド様にお似合いの令嬢が現れるかもしれないですし。そうすれば婿入りも有り得ると思いますし。
人生、棒に振っていやしませんか?
お読み頂きまして、ありがとうございました。




