5-3 先ずは太陽の光を浴びます
いらっしゃらないなら仕方ない。オズバルド様には醜態を晒したことの謝罪と気にしないで下さいってフォローを入れておこうと思っていたのですけど。あ、でも、もしかしてあんな醜態を晒した私が汚く思えて会いたくないとか思うかも?
貴族の子息として育った……って要するにお坊ちゃん育ちですよね。ああいう姿を見ることが初めて……だったとかしますかね? そうすると、もう顔を合わせたくない?
あら、でも。
ヘルムさんが公爵様に叱られに行ったって言いましたっけ。それって私の体調を考慮せずに残さないように、って助言を下さった事から私が醜態を晒したことまでを報告して。その件ですよね?
じゃあ顔を合わせたくない、とは思われてない。……というか、気にしないでくださいってフォロー入れる前に叱られに帰ったってこと⁉︎ あー、悪いことをしてしまいました。
「ネスティーちゃん、じゃなかった、お嬢様? どうした? なんか急に落ち込んだけど」
「それに顔色も悪くなりましたね。お嬢様、無理をしないって話なのに体調が悪くなったのを隠すおつもりでしたか」
私がオズバルド様のことを悩んでたら、ヘルムさんとアズにそんな事を言われました。アズに至っては怒る気配を感じたので、慌てて考えていたことを話しました。怒られたくないです。
「ああ、そういうことでしたか。別にお嬢様がお気になさらずとも良いかと思われます。公爵様に怒られに帰るというのは殊勝な心掛けですが、怒られる以上に反省して来て欲しいですよね」
アズ。
アズさんや。
なんかちょっと上から目線でオズバルド様に文句を言ってませんか?
そんなにオズバルド様のやらかしにアズは怒ってるの?
「まあアズの言い分は分かるっていうか。ネスティーちゃんは十二歳なのに物分かり良過ぎっていうか。取り敢えず、お嬢様は気にしないでいいと思うよ」
「アズとヘルムさんがそこまで言うなら、気にしないでいます。では、もう一つ、お話があります。この話が終わったら中に入ります」
アズとヘルムさんに取り成されたので気にしないことにして、平民になったら……と考えていたことを切り出します。
「アズ、ヘルムさん、私は公爵様からお金を出してもらって生活していく事に慣れたくないです。お金を出してもらうなら、公爵様に損をさせてはいけないので、オズバルド様との婚約が続こうと無くなろうと、公爵様にご恩返しをしなくてはなりません。
もちろん、今まで受けた恩はお返ししたいとは思っています。この屋敷の手配とか色々。でも、これくらいのことをしないと、私が望まなくても何か起きてしまう可能性が高いのでしょう? だからこの屋敷から出て行くことがあるとしたら、黙って出て行かないで公爵様にご相談します。
私は自分の身を自分では守れませんから。だけど、それで甘えっぱなしというのも嫌です。だったら最初からロイスデン公爵家に行って、公爵様の望むようにする方がいい。
恩恵だけ受けて何もしない、知らない、出来ない、したくない、どうしようもない人間になりたくないです。
それは結局、あの伯爵一家のような人間と同じ最後になりそうで」
アズとヘルムは神妙な顔で頷きます。
話し出した時は何を言い出すのだろう、という顔を二人でしていましたが、一応実の父親みたいな末路を迎えることになったら……と言った途端に、私の懸念を理解してくれたようです。
「お嬢様のそのお考えはご立派です。そうです。あんなクズ共みたいな末路を迎えないためにも甘えっぱなしではいけない。そう考えられたこと、アズは鼻が高いです」
アズが感極まったように涙を浮かべました。ヘルムさんは複雑そうな顔です。
「お嬢様の言ってることは正しい。十二歳なんて子どもだから普通はそんなことを考えないで、甘やかされて我儘言って恩なんて思い付きもしないほど、当たり前に恩恵を受けるもんだが……。
それが当たり前ではないってことに気づいてしまう程、お嬢様は過酷な生活を送って来たってことで。俺としてはもっと子どもらしく何にも考えずに一日を元気いっぱい過ごして欲しいと思うし、それが俺の思う子どもらしさでもあるけど。実の父親がアレだからなぁ。それでお嬢様は子どもらしさが無くなったんだもんなぁ。
だから、ああはなりたくないってお嬢様の気持ちは凄く分かるんだよなぁ。
それで何を考えているんだ?」
「何か仕事をしたいと思います。でも、あの伯爵みたいに人に任せっぱなしだと働いている気にならないで、結局、あんな人になりそうなので、アズとヘルムさんを心配させない程度に何か仕事がしたいです。私に出来る仕事ってありますか?」
コレが私が話したいことでした。
成人も迎えてない私ですし、何が出来るか分かりません。でも仕事もしないで、貴族として大切な勉強もしないだろうし、マナーを覚えることもないと思うんですよね。
そうすると、何もしないでのんびり過ごすだけって十二歳でもヤバくないですかね。なんて思ってしまうのです。
平民の子なんかは多分家のお手伝いとかやってる年齢じゃないですか?
貴族でも子ども達だけの社交みたいなのありますが、私はそういうの、全く出てないですし。確か、異母妹……じゃあなかったらしいですけど……あの子は義母に連れられて、子ども達だけの社交場……お茶会でしたっけ? あれに出てましたよね。
つまり、貴族の子でも既に家のために人脈作りをしている年齢ですよね。
一応お勉強はしていましたけど、伯爵家は追放されたから貴族の子として何かすることは出来ないし、でも根っからの平民じゃないからお手伝いもして来てないし。
あら……
本当に私が出来ることって何かあるんでしょうか?
お読み頂きまして、ありがとうございました。




