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1-6 晴れて平民生活

 細かい設定の話し合いは、アズのお母様が来てからということに。ヘルムさんは公爵様に報告するためにロイスデン家へ帰ったけど、その後此処へ戻って来たとのことで、早朝にヘルムさんを見たアズは(早朝というか夜明けだったとか)玄関のドアを速攻で閉めた、そうな。ちゃんとノックはされたみたいだけど、こんな早朝に誰が来たのかと訝って、箒を武器に恐る恐るドアを開けたら満面の笑みのヘルムさん。何だか無性に腹が立ってドアを速攻で閉めたってアズは苛立ってた。……でもその後仕方なくヘルムさんを招き入れたらしい。だからヘルムさんはこの家に居る、とのこと。つまりアズのお母様が来て四人で細かな話し合いということか。


「じゃあ、その時になんでこんな大きな家なのか、とか色々話してくれる?」


「そうですね。母にも説明をしたいので、そうします。ちなみに母が来るのは五日後の予定です。宰相様の領地で平民暮らしをすることが決まった時に母には話しましたし、公爵様も母に事情を説明してくれてますし、公爵様が母に、私と一緒にお嬢様と暮らすよう話してくれましたから、そこから母は準備を始めてました」


 そうなんだー。……で、済ませられる案件じゃないよね? アズのお母様、ロイスデン公爵様直々の話に卒倒してなければいいけど。私なら卒倒するよ……。あ、でも元々貴族の夫人だった方だから大丈夫か。


「では、お嬢様。改めて着替えましょう」


 促されて考えるのを止める。話してくれると分かった以上アレコレと話を聞くまで考えていても仕方ない。話を聞いてからまた考えればいい。

 ……フカフカのベッドから出るのが惜しいけど。


「お嬢様、毎日このベッドで寝られますから」


 み、見透かされてる……っ

 渋々ベッドから出るとアズが私が着ていた木綿のワンピースを脱がせる。手足の丈や裾の長さがもう合わないワンピース。伯爵家を出る時に着たままで、そういえばお風呂も入らないでそのまま寝てしまったんだっけ……。アズが丁寧に洗ってくれていたから何とか長年着られたんだよね。

 アズにはずうっとお世話になりっぱなしで、本当に申し訳ない。

 そんな感傷的なことを考えていたからなのか、ワンピースの袖から手を抜くにあたり、慎重に脱いだはずなのに、ビリッと音がした。見れば脇が破けている。


「あ、アズ、ごめんなさいっ! コレ、何とか出来る?」


 焦りながらアズに顔を向ければ、アズは首を左右に振ってからワンピースを軽く畳む。


「もう、このワンピースは捨てます。木綿素材とはいえ、何年も、それも数日置きに着ていた物ですから、私が繕っても繕っても破けることが多くなっていました。お嬢様がどうこうと言うより、生地そのものが薄くなっているのです。つまり劣化です。そしてお嬢様も成長していますから、このワンピースが着られなくても本来はおかしくないのです。実際、丈も裾も合っていなかったでしょう?」


 それは、そう。

 コクリと頷く。


「ですから此方は捨てます。それに……お嬢様の背丈に合うワンピースをご用意させてもらってます」


 ……えっ。そのお金はどこから出たの⁉︎


「代金などについては、母が来たらお話しますので、今日はこのワンピースに感謝と別れを告げて新しいワンピースを着てください」


 日本人だった時の記憶を取り戻す前から、アズのこの考え方は好きで。いつもご飯を食べることも物を扱うことも、感謝と別れを告げることを教えてくれていた。日本人だった時の記憶を取り戻すと、物を大切に思うアズの考え方には共感が出来る。

 素直にワンピースに感謝と別れを告げる。それからアズが新しく出したワンピースを見て驚いた。触ってないから分からないけれど、多分綿素材。それはいいのだけれど。見た目で分かる。ゴワゴワしてない。生地が透ける部分が無い。滑らかそうで肌触り良さそう。

 アズが渡してくれたワンピースを手に取ってみて、肌触りが良くて感動する。


「ゴワゴワしてないっ!」


「裕福な家なら貴族も平民もそれが普通なんですよ、お嬢様……」


 私の感激した様子にアズが曖昧に笑う。

 着せましょうか、と尋ねるアズに首を振ってボタンを外す。ボタンも壊れかけていて少し力を入れただけで機能しなくなりそうな物が、多少力を入れてもそんなことはなく。ボタンを外し、また付けるのがスムーズに終わることにも感動。前にボタンがあるワンピースだから自分で着られる。着てみて滑らかな肌触りのワンピースが落ち着かない気分になってしまう。

 薄い紫色のワンピースが私に似合うのか、疑問ではあるけれどライラックの花を思わせる色だと思う。……ん? 薄紫の色? なんか何処かで見たような色……だけど、うん、分からない! まぁいっか。


「アズ、着られました!」


「はい。よくお似合いです」


「手足が出ていません!」


「それが裕福な家の子の当たり前なんです……」


 アズがまた曖昧に笑った。

 でも、手足が出ているようなワンピースやドレスしか着ていなかったのでとても嬉しいのです。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

昨日までの更新にて若干辻褄が合わない部分を変更してます。齟齬が出ないように、と気をつけているつもりですが読み返してみて齟齬が出ている部分をちょこちょこ訂正してますが読まなくても大丈夫です。

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