5-6 伯爵家追放
「じゃあまた来るね」
お母様の病気のことを振り返っていたら、ヘルムさんの声が聞こえてハッと意識が戻る。手を振って出て行ったヘルムさんを見送ったけど。一人になって息を吐くと途端にお腹が空いた。
アズから食べ物を分けてもらうくらいしか、私は食べられない。
流石に頻繁にクリスとフォールが来ることは無いから。あの二人が私の味方だ、と分かると面倒くさいことになりそうだし。
つまりアズが居ない現状、お腹が空いてる。
というよりもヘルムさんが今のように様子を見に来てくれる際、どこからか調達してくれた水が生命維持と言っても過言ではない。パンも持って来るよ、と言われたが食べてしまうと演技が出来ない。
お腹が空いてるからこそ、弱ったフリが出来るから。というか、完全に弱るわけだけど。だからヘルムさんの提案は断った。
ヘルムさんが来てくれる時にもらう水って、皮袋に入ってる所から察するに、もしやロイスデン公爵家からもらってきてくれているのかなぁ。
まぁそうだよね。いくらラテンタール家にオズバルド様の護衛として現れても、水をくれ、とは言い難いと思う。護衛のくせに、とかラテンタール伯爵一家は考えるし、使用人達もそれに乗っかりそうだし。
それなら皮袋に入れて公爵家から持って来るよね。ありがたいことだ。
それにしても生きてるって不思議。
自分が今にも死にそうな身体だと分かっているし、量も沢山は食べられない。
それなのに。
食べないとお腹が空くのだから。
本当に不思議だわ。
そんな事を考えながら何もすることがないから身体を丸めて小さなベッドの上で眠ろうとする。
クリスもフォールもアズも流石にベッドは造れないから小さなベッドのままで窮屈だけど、仕方ない。
床の上に直接寝るのは身体が痛くなってしまうから。
スプリングの効いた寝具では無いけれど。(多分本邸は使用人でもスプリングの効いたベッドな気がするけど)まだベッドの方がマシ。
一応前世の小説と似たような世界観だからなのか、ベッドも前世で言う所のソファ兼ベッドに近い感じ。あくまでも近い、だけど。
ソファとして使用するなら昔っぽく言えば煎餅布団的な薄い掛け毛布、いやタオルケット? 何だったっかなぁ……みたいな上掛けはどこに置く? というものなのでソファとして使用はしてない。型としてアレに近い感じなだけ。
せめて大きさを大人が寝転べるサイズなら良かったのに、市販ではなく特注だからなのか、子どもサイズ。きっとラテンタール伯爵が大人用より子ども用のサイズの方が値段が安かったから頼んだと思う。
それとも……あの頃は手先の器用な使用人が居たのかなぁ。それで使用人に造らせた? もうあの頃の記憶も曖昧だから覚えてないや。
あれからずっとこのベッドを使用しているから、表面は既にボロボロなのは分かっているけれど、それでも無いよりはマシなベッドに身を横たえたままボンヤリと今後のことを考える。
でも何にも浮かばない。
ラテンタール家を出てもやりたい事なんて思い浮かばない。
生きていくためにはお金が必要だから働く、という意識はあるけど、何かをやりたい、と望むことが浮かんでこない。
……ああ、ダメダメ。
こんなことばかり考えて自分を追い込んでも何も良いことなんてない。
やめよう、考えないでいい。ここを出ることだけを考えていれば、
そうツラツラと考えていた時だった。
「こっの、病持ちがぁ! とっとと出て行け! 今すぐ出て行け! 病持ちの不細工で貧相なお前なんぞに居座られたら、可愛い妻と娘が病気になるかもしれん! お前なんぞどうなってもいいが、病を移されては敵わん! お前なんぞ要らん。今すぐ、さっさと出て行けっ! 二度とこの屋敷に帰って来るな!」
離れという名の小屋の扉を破壊して(なんで破壊したのか分からないけど)怒鳴り込んで来たのは、言うまでもなくラテンタール伯爵だった。
……ええと?
なんで私の現状を知ったのかな? って疑問はある。
だけど。
なんだか此方の予想を軽く飛び越えて随分と早く、絶縁の宣言をもらったわ……。
どうしよう……予定より早い。
どうしたらいい?
お読み頂きまして、ありがとうございました。




