5-5 伯爵家追放
あれからまた四日経ち、そろそろクリスとフォールもアズのお母様の具合について疑わなくなった……と思われる頃、計画通り、アズも病に罹ったように体調が悪くて仕事に力が出ないフリを始めた。
先ずは朝起きるのにキビキビと動けないアズ。その後食欲も半減するアズ。極め付きに私の元にも来る体力が無くなりつつも何とか私の所に来るアズ。
これを七日間。
その間も、体調不良でありながら自分の母の見舞いに向かうアズ。
そんなアズが昨日、初めてラテンタール家に帰って来なかった……。どれだけ体調が悪くても必ず帰って来ていたアズが。
この事態を使用人達から報告されたクリスがそっとアズの様子を私に知らせて来る。
それを聞く私もアズのように二日程前から体調が悪くなっ来た気がする、と力なく笑うけどまだ動く。
感染したのか、と慌てるクリス。
私が一番アズと接触しているのは彼も言われなくとも理解している。
「い、医者を招びますからお嬢様、お待ち下さいね!」
珍しく血相を変えるクリスを見てほんの少しだけ罪悪感が生まれるけれど、私はそれに気付かないフリ。
「大丈夫。感染した、とかじゃなくて疲れただけじゃないかな」
クリスに力なく笑いかけて宥める。取り敢えず今は感染してないフリをして、もう少ししたらやっぱり感染していた、というフリをして……。
でも、と渋るクリスに「どうせ、私が本当に病に罹ったのか分からないのに医者なんて金の無駄だ、と怒られるわ」
と言う。クリスも誰が金の無駄だと怒るのか言わなくても察したのだろう。まぁそういうことしか言わないだろうと予測出来るわけだし。
クリスは仕方なく「本当に具合が悪くなりましたら言って下さいね」 と引き下がった。
よし、これで前振りはオッケー。
あ、そうだった!
体調が悪くなるようにしておかなくちゃ。
でも、まだ大丈夫だよね。早めに準備しないと。
ヘルムさん経由で実際に病気になるための素をもらおう。これってアレだよね。多分、向こうで言う何かのウィルス的なの。ウィルスを経口摂取してわざと病に罹り対処薬を飲むってわけだ。
つまりワクチンみたいな感じだよね。弱毒化されたウィルスを体内に取り入れて免疫力を付けるということだし。
取り敢えず病気になっても治る見込みのある薬がある病にわざと罹らないと……。
早めにヘルムさん経由でワクチン的なソレをもらおう。万が一免疫力が付かなくて発症しても対処薬があるわけだから安心出来るし。
そんなことを考えながら大人しく離れに居た所にヘルムさんがやって来た。私に会おうと定期的に現れるオズバルド様が、この日も訪れたのだろう。
尚、ヘルムさんからこの時のオズバルド様とクリスとのやり取りを教えてもらった。
曰く。
「オズバルド様」
血相を変えるクリス。でもラテンタール伯爵一家に気付かれないように配慮した。オズバルドは僅かにクリスに視線を向けるがラテンタール伯爵一家は気付かない。
クリスはそっと走り書きしたメモをオズバルドの手に押し付ける。何気なく下を向いたフリでメモの走り書きを確認したオズバルドは、微かに頷いた。
それにクリスは安堵の表情を浮かべる。
「って感じだったよ」
ヘルムさんの話を聞いて、おそらくクリスがオズバルド様に私の容体を話して医者の都合を頼んだ、と思われる。
でも。
「そうですかー。でも計画通りだとまだお医者さまは来ない予定ですよね?」
二人のやり取りを教えてもらった私は、ヘルムさんに確認を取る。……というか、私とアズの計画ではまだ医者は登場しないのだが。
だから医者を、と頼まれてもオズバルド様はまだ招ばないはず。
「それはご令嬢と侍女殿の計画では、そうだよね?」
逆に確認されてしまったのは、あくまでもこの計画は私達が立てたもの、という認識をヘルムさん……延いては公爵様が持っているからだろうし、私達に当事者意識を持たせるためだから、だろう。
私はヘルムさんの確認に強く頷いた。
「じゃあ計画通りに進めないとね」
「では五日後辺りでヘルムさんにはお願いした通り、病の素というのをお医者さま経由で下さい」
私が亡きお母様と同じ病気に感染したことを話した時に、お母様を治すために自らも病に罹って薬を作った医者の話をヘルムさんに話してあった。
そして病の素を使って本当に病に罹ることを提案し、ヘルムさんにそれを融通してもらう手筈を整えた。
ちなみに、結局、自らも感染して薬を作ってくれたが、その完成した薬はお母様が摂取する前にお母様は亡くなってしまった……。
ただ、私も罹患していたことに気づいた医者が、完成した薬を私に投与してくれたので、お母様の命を奪った病は、私の命を奪うことは出来なかった。
お読み頂きまして、ありがとうございました。




