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4-1 公爵様のお知恵拝借

 あれから二日後。

 再び私を驚かすように

「良い案貰って来たよ」

 とヘルムさんがやって来た。

 ……それもいつものように、手を伸ばしてベッド枠にぶつけ、足がベッドから落ちた所で目を覚ました私の真横に立って。


「ヒッ」


 流石にこんなに早く来るとも思わなかったし、一応窓も扉も鍵をかけていたというのに、どうやって入って来たの? という疑問もあるし、おまけに寝起きの顔をアズ以外の人に見られるなんて思わなかったし、あまりのことに混乱して悲鳴も短く上げるくらいしか出来なかったし。

 ……一周回って冷静になれた。

 アズもまだ私の元には来ていない。メイドだと太陽が地上から顔を出す頃に起き出して動き出すけれど、侍女は太陽が完全に地上から出た頃に起き出す。

 私? 私もそんなもんで起きる。アズの身支度が終わり、私付きだからアズも使用人達からあまりいい顔をされていないが、執事のクリスが味方だからそれなりの食事は貰える。

 つまりパンとスープとサラダで、それを私用に分けてから自分の分を食べ終えてから持って来てくれる。

 尚、私用はパンを半分。これは私に使うお皿が無いから隠せないため。

 料理長が厨房に入ってしまうと、私の分を取り分けた直後に、要らないと見做されて料理長が食べてしまうようなので、何日か置きに食べられない日というのが私にはある。

 パンを隠せればオッケーだし、隠すのが遅いと料理長に食べられてしまうということ。まぁ食べ物を棄てることにならないからマシか。

 料理長は義母自らどこからか引き抜いたらしいので、完全に義母の味方というわけだ。

 それはもう仕方ない、と割り切っているし、アズが食べられないのは申し訳ないので、私が食べられない日があってもアズは必ず食べるように言い含めてある。

 それにしても、あの料理長って“長”が付く割に厨房に入る時間がマチマチのようだ。偉い立場だから遅く入ることにしているのか、別の理由があるのか。

 となると、早く厨房に入る日は何があるのか。……まぁ考えても私には分からないことだ。

 取り敢えず、アズが来る前に着替えたいので、私が起きたことに気づいているのに関わらず、ベッド脇から退かないヘルムさんにジト目を送ってみた。


「おはよう、ご令嬢」


 私のジト目に気づいて爽やかに挨拶をしてくる。


「おはようございます、ヘルムさん。どうやって早朝から入り込んだのか、尋ねる気はないですが、この離れ、窓も扉も鍵がかかってたはずですが」


「俺の特技は鍵開けと縄抜けなの」


 それだけで何となくこの人の生活が垣間見える。

 敢えて突っ込まないことにしよう。


「私を驚かせるのが面白かったですか」


「うん。それもあるけど、単に、本当にこんな小さなベッドにご令嬢が寝てるのか気になっただけ。……本当に寝てたのにこっちが驚いた」


「他に寝る場所がないので。それとも床で寝ろ、と?」


 目を丸くするヘルムさんに肩を竦める。


「いや、ご令嬢が部屋って言ったけど、実は本邸の何処かにきちんとした部屋があって、何らかの理由があって昼間はこの小屋に居て、夜になったら本邸の部屋に戻るのかと……」


「ああ、そういう……」


 確認をしてみたかった、ということなのだろう。


「でも。まさか本当に貴族のご令嬢がこんな所で寝起きしてるとは思わなかった。

 俺、公爵様にお仕えしてるけど、貴族って嫌いでさ。ご令嬢のことを公爵様から話を聞いても、嘘だと思ってたんだよね。

 きっと父親に愛されてて、ご令嬢の我儘というか拗らせた感情みたいなので敢えて小屋を作って拗ねてみせてる、みたいな」


 あー。成る程。親を困らせるしょうもない令嬢というか、どうしようもない令嬢というか、そんなのだと思われていたわけですか。


「分かる。私も関係ない人間だったらそう思うし、どうしようもない性根の令嬢に思うもん」


「だけど、違ったね」


「違ったねぇ。自分で言うけど、違うねぇ」


「ご令嬢、怒りとか憎しみとか湧かないの?」


 他人事のような私の反応に、ヘルムさんがニヤニヤしながら尋ねて来る。多分、ヘルムさんは育った環境だか生まれついた性質だか、よく分からないけど。性格が悪い人なんだろう。まぁだからどうしたって話だけど。


「最初は悲しんでたよ。なんで私が……って悲劇の令嬢みたいな。その後、ラテンタール伯爵は怒りと憎しみ、義母も異母妹も憎いし恨んだよね。あと、祖父にも。お兄様だけ守ってなんで私は守ってくれないのって。

 でもね。

 ヘルムさんは打たれたことある?」


「あるよ。蹴られたことも」


「そうしたら分かるでしょ? 痛い思いをしたくないから逆らわなくなる。諦める」


「……そうだね」


 ヘルムさんはようやく私の置かれた環境を理解してくれたように静かに頷く。


「反撃する気もなかった。今までは。……でも死にたくないって思って。反撃したんだよね。反撃したら尚、やられちゃって。だから……この家に居たら死んじゃうかもって思ったらこの家から出たくなった」


「そうだな。分かる。俺も家を出た。で。生きるために人の財布を狙ったり俺が暴力を振るう側になったり。そんな生活してたらある日公爵様に拾われた」


 多分、私の話が嘘や偽りじゃないことをヘルムさんは理解してくれたのだと思う。

 同じような環境に陥っていたからこそ、私の話が真実なのか判断が出来たのかもしれない。

 そして、彼の過去の一端を明かしてくれた。

 こういう人は、なかなか人を信じない。

 だから過去を語らない。

 それを語ってくれたということは。

 少なくとも少しは信じてもらえたのだと思う。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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