3-1 追放されるために
驚きの実母の実家話で、長く息を吐き出してから、ふっ……と思い付いた。
待って? 待って、待って、待って。待てよ待てよ待てよ待てよ待てよ……!
もしや、コレって「夢で見た」 ことを利用すれば家から出られるチャンスじゃない⁉︎
「あの、アズ」
「どうかしました?」
「その、ね? お母様の実家のことを知らなかったから、夢で見たことを気にしていて、話せなかったのだけど」
私がアズの顔を見ながら、話そうかどうしようか迷った、というようにオズオズと切り出す。
アズが途端に真剣な顔になった。
「また、何か見られたのですか?」
「うん。アズの、そのご実家のことの他、に、続けて見たけど……。その、アズのことが本当なら、アズに嫌われているかもしれないから……話そうか迷ってて」
アズが深くため息を吐き出した。
「お嬢様、心外です。私はお嬢様に心からお仕えしていますのに」
「ご、ごめんなさい、疑って!」
あ、しまった。
アズを疑ってますって言ってるようなものだ!
「夢の内容をきちんと教えてくれなければ許しませんよ」
アズが怖い顔して問い詰めてくるけれど、それは言い換えれば、夢の話を教えれば許す、と言っているようなもので。
ここからは、私の作戦であって夢の内容ではないけれど、そこまではアズには分からないわけだし、夢で見たことにしよう。
「実は。私が死ぬ夢を見たじゃない?」
「はい」
「その続きというか。どうやら、私はこの家に居ると死ぬみたいなの。それでね、アズ。生きることが出来ないのか夢を見続けたらこの家から出ることだったの」
アズは、成る程、と得心がいったように頷く。
私の現状を見れば病気はしていないものの、あまり肉のない骨と皮のような身体付きで、打たれたり蹴られたりと暴力を振るわれている身体なのだから、然もありなん、といった所だと思ってくれたらしい。
「確かにこの家に居るとお嬢様は死んでもおかしくないでしょう。
ですが、お嬢様を外に出すのは……かなり難しいと思うのですが」
アズの言うことは分かる。
抑々、私はお茶会にも出られないし、買い物すら行ったことがない。
アズが言うには、家から出たくないとか我儘を言う娘、みたいなことをラテンタール伯爵達は言い触らしているようだけど。
この離れから庭にさえ碌に出られない身だから、アズが眉間に皺を寄せて悩むのも分かる。
でも。
一つあるのだ。私が外に出る方法が。
「確かにお茶会とか買い物とか出来ないし、オズバルド様に会いに行くという理由では、ロイスデン公爵家に迷惑をかけてしまう可能性があるわ。
この前は何とか私とアズだけで行けたけど、次は、あの異母妹がついてくる可能性もある」
「はい。本当に令嬢教育を受けているのか疑いたくなるほど常識知らずですからね」
アズ……。
あなたも相当腹に据えかねているのね……。
「だから、ね? 逆に考えればいいと思うの」
「逆?」
「夢ではね? 家を出る方法が、私が追放されるの」
アズは、ポカンと口を開けて、私を見た。
そんなに驚くことかなぁ?
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