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2-2 アズと夢の話

「ええと。反旗を翻すことは考えてなかったけど」


 困ったように私が笑うと不思議そうにアズが言う。


「でも、あの小娘に反撃していましたよね?」


 それはそうだけど。だって痛い思いをずっとしていたくなかったし。


「痛い思いを我慢する意味が分からなくなったのと、夢で……死ぬかもしれないって思ったら、このまま死ぬよりやり返したいなって思ったんだよね」


 それに。

 前世の記憶を取り戻したけど、今の私は思っていたことを押し込めるのではなくて解放することにしただけで、元々のネスティーとしての性格は変わってない。

 元々が前世とあまり変わらない性格で。

 ただ、それを表に出すか内心に押し込めるか、どちらかだっただけ。

 アズを含めてきっと誰もが私を“変わった”と見るだろうけど、変わったわけじゃなくて内心に押し込めることを止めただけなんだよね。


「誰だって、理不尽な目に遭うことは嫌なのですからやり返して良かったんですよ、お嬢様」


「……うん。今までは、我慢することで私はこの家に必要とされているって思ってた。でも。我慢してもなんにも良いことはなくて」


 言葉が詰まる。

 胸が苦しい。

 喉がヒリつく。

 鼻の奥がツンとする。

 全身が痛い。

 涙が……零れ落ちる。


 ヒッ、ヒィッ、ヒッ

「あ、あ、あああああっ」


 きっと、前世の記憶を取り戻す前の“わたし”も今の“私”も、もう限界だったのだ。

 涙が零れ落ちて来たことを自分で分かった途端に、しゃくり上げ、引きつけを起こしたみたいに、一気に涙が溢れ出る。

 背中がいつの間にか温かくて。


「お嬢様……、頑張りました。よく、頑張ってきましたね。いいんです、沢山泣いていいんですよ」


 優しい優しいアズの声が耳元で聞こえてきて。

 アズが私の背を摩りながら慰めてくれていた。


 ウワァァァァァン

 アズの優しい声が温かい手が更に涙を誘う。

 記憶を取り戻す前の“わたし”を今の“私”が抱きしめているような感覚がする。でもその“私”も一緒に泣いている。そんなよく分からない感覚。

 多分、この時、“わたし”と“私”が混ざり合って本当の私になったんじゃないかなって、泣きながら思った。


 どれだけ泣いたのか、自分でも分からないけれど。


 暗い夜もいつか朝が来るように、私の涙も落ち着き出した。

 冷静になると恥ずかしい、とも思うし、スッキリした、とも思う。

 前の“わたし”の記憶から、こんなに泣いたのはお母様が死んだ時以来だ。

 あのラテンタール伯爵はお母様が生きていらした時から私に冷たかったし、義母と異母妹を含めた虐めを受けて泣いたこともあったけれど、お母様が死んでしまった時よりは、悲しみも苦しみも痛みも辛さもなかったから、これほどじゃなかった。

 だから、お母様が亡くなって、自分のために、自分の辛さや痛みや苦しみを認めるために、これだけ泣いたのは、今日が初めてだった。

 今まではこの家から追い出されないために、我慢していたから、こんな風に泣けなかった。


 だけど。今はもう我慢しない。


 前世の記憶が無いままの“わたし”だったら、この家を追い出されたら生きていけない、と思ってた。

 きっと今の“私”でもこの家を追い出されたら生きていけないのだと思う。……一人では。


 でもアズがずっと一緒に居てくれるって言ってくれたから。


 アズと一緒ならこの家を追い出されても生きていけそうな気がする。

 その前に。

 アズの気持ちを確認するのと、私の亡きお母様の実家について聞かないとならないけれど。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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