2ー2 書籍の内容を思い出してみる
自室は本邸ではなく離れにある私。
その自室は一部屋プラストイレとお風呂。トイレは前世を思い出してしまうと水洗式ではないのが辛い。いや、水洗式云々以前か。
でも私は知っている。本邸は前世と同じ水洗式なのだ。世界観は日本人の小説家が書いたものなのだろうから。じゃあどうして私の自室、つまり離れは水洗式ではないのか。答えは簡単。私を押し込めるために突貫工事で作られた離れだから。私がこの離れに押し込められたのは五年前。七歳の時だった。
前年、母が病死し、父は速攻で外に囲っていた恋人を後妻に引き入れた。伯爵のラテンタール家は父の生家だから簡単に引き入れたが……実は母との結婚前から続いていたらしい……恋人との結婚は許されていなかった。
当然だ。伯爵領の平民だから。祖父……父の父は、平民を伯爵家の女主人にする気は毛頭無かった。大体、父と母は婚約関係にあって、何だったら幼馴染のような関係だったのだ。だから父の恋人よりも母との付き合いの方が長いというのに、母には幼馴染以上の感情が芽生えなかったそう。それは良い。心は仕方ない。だけど思春期に領地で平民と恋に落ちて、母と婚約破棄して、平民を妻にしようと考えたのは、父の頭の中身が残念である事を示しているとしか、思えない。
父は両親に反対されて仕方なく母と結婚し、二歳上のお兄様と私が生まれた。だが、祖父母に隠れて恋人と続いていた父は、お兄様と私が生まれたことで役目は果たしたとばかりに、恋人との間に娘を生ませた。僅か半年違いの異母妹の誕生である。祖母は私が三歳の時に亡くなり、祖父は気落ちして父に伯爵位を譲り。私を産んでから身体が弱くなった母が、私が六歳・お兄様が八歳で亡くなった直後に領地にある本邸から出て別邸を建てていた祖父の目を掻い潜って長年の恋人を後妻にした。義母である。そして半年違いの異母妹も一緒に引き取って養女にした。
異母妹が養女なのは国の法律の問題だ。未婚の父若しくは母の子は、実子であったとしても、実子とは認めない。あくまでも養子・養女でしかない、と。これは貴族社会で本妻が産んだ子を守るためのもの。らしい。
……全部小説の内容だから現実ではどうなのか不明だけど、異母妹が養女なのは執事長から教えられているので、多分小説と同じ世界観なのだと思う。とするならば、小説でそんな法律が出来たのは、跡目争いのことを考えた結果だったはず。小説では法律が施行された実例として、とある侯爵家で五十年以上前に起こった跡目争いが描かれていた。
確か、その侯爵家の当主と愛人の間に男の子が生まれ、実子として引き取った。跡継ぎとして育てられたのは妻が産んだ長男で、もちろん出来の良さもそちらだったけれど、愛人が息子可愛さに妻の長男を殺そうと階段から突き落とした。
幸いにも後遺症など残らなかったが、実は侯爵当主本人も愛人の息子を跡取りにしようとしていたことが判明。つまり愛人が妻の子を殺そうとしたことは、当主本人の後押しが有った。さすがにこれは看過出来ないと、妻は前侯爵である夫の父や自分の実家を頼った。
妻の実家は公爵家。爵位は妻の実家の方が夫よりも上だったことも助けになったし、夫の父である前侯爵も妻の産んだ長男を可愛がっていた上に息子が愛人を作っていたことを許してなかったので、その一件に激怒して、前侯爵と妻の実家の公爵と妻の訴えにより国王陛下直々にお出ましで裁判が行われて、結果、長男が跡継ぎ。侯爵は即座に幽閉が決まって、前侯爵が長男が成人するまでの間、再び侯爵になって長男に後継者教育を施した。愛人は己の産んだ息子と共に縛り首になったと共に、今後、このようなことが起こらないように、愛人の子は実子だとしても養子・養女でしかない、と決まった。
という話だっけ。