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2-1 アズと夢の話

「よく、休めた?」


 約束通り丸一日と半日以上の休日を終えたアズが顔を出して、私は声が震えていないか自分で客観的に見ながらいつものように笑いかける。


「ありがとうございました、お嬢様。本日よりまたよろしくお願いしますね」


 アズもニコリと笑ってくれたけれど、私はアズが休んでいた間に色々とシミュレーションしていたことを思い出して深呼吸した。


「お嬢様?」


 呼びかけには応えず、どう切り出そうか考える。

 でも、結局は話し合うことだから……と回りくどい言い方はしないで切り込むことにした。


「ねぇアズ」


「はい」


「私の夢の話、覚えてる?」


「ロイスデン公爵子息様が冒険者になることや、お嬢様が死ぬといった夢を見た、ということでしょうか」


 打てば響くように応えてくれるアズに、培われてきた信頼関係が分かるようで嬉しくなる。

 私が頷くとアズが真剣な表情になった。


「また何か夢を見られましたか」


 勘の鋭いアズに頷いてから、小説の内容を思い出しつつ夢の話、として口を開いた。


「私が見たのは、アズ、あなたの家が没落してしまったのは……ラテンタール伯爵家が関わっていたから、ということだった」


 ロイスデン公爵家にて、公爵様がアズの本名というか伯爵令嬢としての名前を呼んだ時に小説の内容を思い出した。

 アズレイア・ボート。

 ボート伯爵家は派閥争いに巻き込まれて失脚した家。

 その、派閥争いに噛んでいたのが、ラテンタール伯爵家だった。

 詳しい内容は小説にも出てこなかったし、此方の世界に転生してからも、アズから何も聞いてないし、他の誰からも聞かされていないから、知らない。

 ただ。

 小説の内容が蘇ると、どう考えてもアズとしか思えない描写があった。


 それは冒険者になったオズバルド様がとある依頼を受けるに辺り、パーティーを組むことになった時のこと。

 そのメンバーの中に“レイア”と呼ばれる女性がいた。

 彼女は貴族令嬢だったのか、肌は白く美しい。食事にしても何かを行うにしても綺麗な所作をしている。

 そんな彼女を見て、オズバルドはふと気付く。

 君は、あの家に復讐したのか? ボート家を没落させたのは、君が使用人として仕えていた家だろう?

 と、尋ねる。

 彼女はただ微笑みを浮かべただけだったけれど、オズバルドの亡き婚約者の家が没落した、と噂で耳にしていたから、彼女が復讐を果たしたのだろう、とオズバルドは思った。


 という内容。

 確かあのシリーズの内容だったはず。

 これ、多分アズのことだよね。新作にはその辺のことも詳しく書かれるかなぁと思って楽しみに待ってた記憶しかないんだけど。

 アズを見れば困ったように笑っている。


「お嬢様の夢は未来だけでなく過去も見られるのですか。流石はオーデ侯爵家ですねぇ」


「……どういうこと?」


 お母様の実家の名前が出て来て首を傾げた。


「先ずは、私の実家のことにお答えします。確かに、ボート家が没落したのはラテンタール家……もっと言えば、前ラテンタール伯爵も関わっていたから、です。

 と言っても、あの派閥争いは元々はある侯爵家同士で起きたものです。それも同じ派閥内でボート家もラテンタール家もその派閥内に属してました。ラテンタール家はまだ派閥内に属してますが。

 確かにラテンタール家というか前ラテンタール伯爵は関わってますが、ラテンタール家だけが悪かったわけでもないです。もちろん、恨まなかったわけでもないですよ。それはラテンタール家だけでなく、争いを起こした侯爵家も恨みましたけど」


 つまり、やっぱりあの小説内容は合っているということだよね。


「じゃあ私に仕えているの、嫌じゃない?」


「恨みはもう無くなりました。それに万が一恨んだまま、仕返しをするなら前ラテンタール伯爵様個人か、大元の侯爵家二家ですよ。お嬢様には何もする気はありません。

 今も知らん顔して存続するあの二家をどうにかしてやりたい、と思ったこともあって。実は宰相補佐様に、どちらかの家へ使用人として潜り込ませて欲しい、と訴えたこともあります。でも断られてしまって。

 お嬢様にお仕えすることが決まったのはその後です。前ラテンタール伯爵様には思う所もありますが、お嬢様には何の関係もないですし、ね。だからお嬢様にお仕えするのは嫌じゃないですよ。好きでやってます」


 アズの言葉にポロポロと涙が零れ落ちていく。


「まぁまぁお嬢様、そんなに泣いて」


「よ、よかったぁ。だってアズのこと大好きだから、恨まれてたらどうしようって……」


 アズが困ったように笑いながら私の涙を拭ってくる。


「もし、ラテンタール家に何かするのなら、前伯爵ですよ。お嬢様の父である伯爵と後妻とその娘には私の実家とはまた別で怒りを持ってますが、それはお嬢様への仕打ちについてですからね。

 それと、誤解されたままでは嫌なのでお伝えしますが、宰相補佐様が亡き父とのことを大切に思って、私達残された家族に手を伸ばしてくれたから、段々と恨みは無くなっていったんです。宰相補佐様が手を伸ばしてくれなかったら、どうなっていたのか……分かりませんが。

 だからお嬢様は気にする必要は無いのです。

 まぁ、なんで我が家が巻き込まれて没落しなくちゃならなかったの、と憤慨しましたし、今でも思いますけど。

 名前は出しませんが、派閥争いを起こした侯爵家二家は、辛うじて侯爵位を保ってますが、ロイスデン公爵家を含む全ての公爵家から睨まれているらしいので、侯爵家二家、下手なことは出来ない、と宰相補佐様が教えてくれました。

 あの二家は崖っぷちに立ったままの状態らしいですよ。とはいえ、崖っぷちどころか巻き込まれた我が家のことを思うと、男爵位に降爵くらいしてもらってもいいとは思いますけどね!」


 嬉々として教えてくれるアズは、ニヤリと笑っていて。日本人だったら「ざまぁみろ」 と言って高笑いしてもおかしくないような表情でした。……うん、アズは敵に回しちゃダメなタイプだ。


「じゃあ、本当に私に仕えているのは嫌じゃないのね?」


「ええ。もちろんですとも! なんだったらお嬢様が伯爵達に反旗を翻すなら、私もお供したいくらいですからね!」


「反旗……」


 いや、反旗を翻す、とは考えてなかったなぁー。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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