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1-3 交流目的、ですか?

「お前っ、何者⁉︎」


 ヘルムさんが応えようとしてくれたらしく口を開いたところで、私の背後から鋭い声が飛ぶ。アズだねぇ。


「アズ、落ち着いて。オズバルド様のとこの使用人だって」


 私が振り返りつつ説明すれば、顔を険しくさせながらもアズが「公爵子息様の……」 と呟く。


「オズバルド様の護衛を任されているヘルム、と申します」


 ヘルムさんは綺麗なお辞儀をしてみせる。角度といい乱れの無い姿勢といい、きっと教育の賜物なのだと予測出来る。


「アズ、向こうはどうだった?」


「伯爵と後妻とその娘がロイスデン公爵子息様に媚を売ってましたから近寄れませんでした」


 成る程。物凄く分かり易い状況説明だ。


「オズバルド様は、ご令嬢との交流を深めたいって目的で、本日訪われてますねー」


 のほほんとした口調のヘルムさん。私との交流目的、ですか? まぁ一応婚約者なので構いませんけど、多分私は彼方に呼ばれないだろうから無理でしょうねぇ。


「うーん。まぁ婚約者としては当然かもしれないですけど交流出来るとも思えないから、オズバルド様にはある程度したら帰られた方がいいとお伝えしてもらっていいですか?」


 おそらく会えないだろう、と判断した私はヘルムさんに言伝てを頼む。


「会いに来たオズバルド様を会わずに追い返す?」


 ヘルムさん、その通りだけど言い方! 私が素っ気ない対応しているみたいですけど⁉︎


「まぁそうですねぇ。私、七歳からずっと此処の離れなので、本邸に行くことはないし、おそらく呼ばれないので会わずに追い返しますねぇ」


 でもまぁ、確かに追い返すようなものか、と私は同意しましたよ。だって本邸に行けないし。行く必要もないし。行きたくないし。


「行くことはないって食事は? 勉強は?」


 私は肩を竦めて説明する。アズが持って来てくれないと食事抜きで一日を過ごすこともあるし、勉強は。

 ヘルムさんが立っている窓の外にもう足が折れて天板も端が壊れて天板の周囲がささくれ立つ、元の色が白だと辛うじて分かるようなテーブルを指差した。


「それを使ってます。見ての通り、狭い小屋だからそのテーブルを中に置けないので、そこでアズに教師をしてもらいながらそのテーブルを壊さないように気をつけつつ不要な紙の束をアズが差し入れてくれるので、その紙に書きつけていく、という感じですかね」


 ヘルムさんは「は?」 と口を開けたまま、私とテーブルを見比べてます。驚きっぱなしですかね。


「えっ……伯爵家のご令嬢だよね?」


「一応? 亡き母とラテンタール伯爵との間に生まれてるみたいですね」


 母が不貞した、とは思わないけどあのラテンタール伯爵の態度を見ると父親とは思いたくないっていうか。


「取り敢えず、オズバルド様に言伝ては預かるね」


「お願いします」


 なんだかやけにショックを受けたようなヘルムさんを見送り、私はアズを見て、昨日の決意を思い出した。


「ねぇアズ」


「なんでしょうか」


「アズってさ、ずうっと私に付いてるじゃない?」


「はい」


「疲れない?」


「えっ、まさか私がお嬢様の専属に付いていることがご不満ですか⁉︎」


 いやいや、そうじゃなくて。

 私はアズに考えていたこと……つまり、働き詰めで休みがないことを心配している、と切り出した。


「ああ……そういう……。ですが、私がお休みをもらってもお嬢様に付く者がおりません。それに、天気の悪い日は庭も出られないですし、勉強も出来ないからお嬢様が下がってよい、と言ってくれますし。

 昔みたいに家庭教師の先生方がお嬢様につきっきりで勉強を教えて下さるのは無いですけども。昔は勉強時間にお休みをもらってましたからねぇ。

 今は、伯爵がお嬢様付きだった家庭教師を後妻の娘に全員付けてしまったから、私が家庭教師を務めさせてもらっていますからね。

 それにあの頃は奥様が生きていらしたから、私以外にもお嬢様付きの侍女が居て交代で休みを取ってましたけど。でも一日休みが無くても、お嬢様が時間で休みをくれますし、お嬢様にお仕えするのは好きですから、一日の休みがなくても別に構いませんよ」


 いや、それはダメだよね?


「アズに倒れられたら困るから、明日は休んでいいよ。さすがに明日もオズバルド様が来るとも思えないし。というか、今日も会えるとは思わないし。着替えてしまおうかな。で、アズはこれから休めばいいと思うの。明後日の朝にまた顔を出してもらうってことでどうかな?」


 本当に、アズに倒れられたら私も生活がかかってるし。

 私の話にアズは渋々とした顔をしながら、私のドレスをさっと脱がして下がった。

 ワンピースは着脱が簡単だからね。アズが居なくても着られる。アズには明後日まで自由に過ごすよう伝えておいた。きっとアズのことだから、観たい画集が溜まっているはず。

 アズって、画集を観るのが趣味だから、もらった給金で画集を少しずつ買っているの、知ってるんだよね。

 多分午後から休みとか、午前中の休みとか、数時間の休みで観てるとは思うけど、ゆっくり観て欲しいなって思う。それくらいしか私がアズに出来ることがないんだけどね。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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