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1-1 交流目的、ですか?

 ロイスデン公爵家で、公爵夫妻と契約を交わした翌日に、オズバルド様が出現した。……いや、本当に。

 前触れもなく伯爵家の門の前に公爵家の馬車が停まった、と。

 大騒ぎになっていたみたいだけど、一応の離れである此処までそんな騒ぎは聞こえて来ない。前触れがなく訪れたから出現、という表現で間違いない。

 日本人だった頃の記憶でも、相手の家を訪ねる時は前もって伺います、って連絡したわけだけど。

 此方に生まれ変わってから、特に貴族ではそういった前触れは大事。相手を持て成すための時間が必要だから、とアズから教わった。

 オズバルド様は筆頭公爵家の子息。そういったマナーはきちんと教え込まれているはず。

 現に顔合わせの時は、前触れが届いていた。だから私はサイズの合わないドレスを着せられたわけだし。

 あのドレス、窮屈ではないけど、腕が袖から出ちゃうんだよねぇ。此方の世界の未婚の貴族令嬢って、やたらと殿方に肌を見せないようにって言われてて……当然、足だけでなく腕も見せちゃダメなはずなので、顔合わせの時も昨日のロイスデン公爵家訪問の時も、あんなドレスはマナー知らずになってたんだよねぇ。

 おまけに、普通は同じドレスを使い回す事ないし。お金が無いですって言ってるようなもんだからねぇ。

 まぁ、あの父……というか、私を娘扱いしない奴を父親呼ばわりする必要もないよね……あのラテンタール伯爵の頭には、私のドレスを新調するって文言は無いだろうから仕方ないか。

 結果、ロイスデン公爵家の皆さまに、ラテンタール伯爵家は貧乏ですって言いふらしてるようなものって事にも気づいてないんだろうなぁ……。


 ……って、現実逃避している場合じゃなかった。

 いや、現実逃避したいでしょ。

 昨日の今日で前触れ無しに現れるオズバルド様に、現実逃避したくなるよね。

 大騒ぎしてるのが聞こえない私がなんで知っているかというと……アズが本邸と続いている使用人専用の自室から私のお世話をするために出て来た時には、既にその状態だった、とか。

 で。

 あまりにも騒がしい本邸に何事? と思ったアズがそっと覗いたら、オズバルド様が居て、おまけに目が合ったとか。

 でも、オズバルド様は「あとで」 と口の動きだけでアズに伝えたとかで、アズもササッと私の所に来て……オズバルド様が前触れ無しに出現した、と報告してくれたわけ。


「ねぇアズ」


「はい」


「昨日、ロイスデン公爵様というか、オズバルド様は、ラテンタール伯爵家に居る使用人に対して、王家から依頼があったからその使用人を調査するために婚約したって話だったよね」


「はい」


「でもさぁ、使用人の調査ってこんな派手に動いて調査出来るものなの?」


「使用人でなくても調査はこんなに派手だと出来ないか、と思います」


「そうだよね。私もそう思う。寧ろ、派手にして調査対象の使用人一人の意識を惹きつけるというより、ラテンタール家全体の意識を惹きつけたいって考えるのっておかしい?」


「……お嬢様、十二歳にしては、その考えは大人びています。前にもお尋ねしましたが、本当は、あなたはどなたなんですか?」


「んー。まぁ今日はその話は出来る状況ではないよ」


「それもそうですね」


 私は、これだけ派手に登場したオズバルド様の、というよりロイスデン公爵家の考えを推測すると、アズと対決しておかなければならないことを知る。

 本当はいつまでもアズが味方だって信じたままで、この伯爵家から出たかったんだけどなぁ。

 オズバルド様の行動で、そんなぬるま湯に浸ったままではいられなくなっちゃった。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

第二章開始です。

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