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8-9 ロイスデン公爵家にて

「マリー、君は私に口説かれていればいいと思う」


 おや、公爵様が拗ねてます。私に見せるための演技だとしても目の保養ですね。


「あらあら、あなたまで何を言っているのかしら。さて可愛いお嬢さん。ラテンタール伯爵令嬢でしたね。お母様には似ていないのね……。お父様である伯爵にそっくりだわ」


 夫人は、母をご存知か。まぁ私が六歳までは生きていたのだから社交の場で母を見掛けることもあったのだろうし、母は元々は侯爵令嬢。身分的に夫人と顔見知りでもおかしくないのかもしれない。

 けど、自分で自覚はあるけどあの父に似ていると言われるのは本当に嫌だわ。


「夫人は母をご存知でしたか。父に顔はそっくりのようですね」


 他人事のような返事で私と父の現状は理解してもらえたと思う。それ以上夫人は何も言わなかった。


「では、改めてこの婚約の経緯を話そうか」


 改まった公爵様。いつの間にか家令が戻って来ている所から、オズバルド様を呼びに行くように公爵様から合図を受けていたのだろう。また夫人が来た瞬間、サッとテーブルとイスが交換された。さすが出来る殿方の家の使用人も出来る。

 夫人とオズバルド様も当然のように座られて(尚、丸テーブルは丸テーブルでも大きい丸テーブル)改めてお茶を出されたわけですが。一口喉を潤して私は改めてお二人を見ました。


 公爵様と共にお二人が並ぶ姿は国を代表する美術品みたいなもので眼福です。

 オズバルド様もまぁお二人の子なので眼福ですけど、お二人が居るなら、ねぇ……。


「先ず、君の母上の実家のことは知っているか?」


 意外にも話し出したのはオズバルド様でした。婚約者だからなのか、お二人のお考えでオズバルド様に華を持たせたいのか、別の理由なのか。まぁ私には関係ない事情ですね。考えは放棄してオズバルド様に視線を向けてお答えします。


「私の母はオーデ侯爵家の生まれだと生前聞いておりますが、母方の祖父母や母の兄弟姉妹には会った事も手紙のやり取りなどの交流も有りませんので、オーデ侯爵家がどのような家か、全く知りません。あくまでも貴族家の一つとして、侯爵位であり、現在は母の弟である私の叔父が侯爵を継いでいること。夫人との間に男女二人の子があることは、勉強しました。その他に母には姉である私の伯母がいらっしゃるようですが、それくらいしか」


「そうか。全く交流が無かったのか」


 オズバルド様が呟きつつ、眉間に皺を寄せて頷いてます。


「オーデ侯爵家については、家そのものに今回の話は関係ないから、割愛しよう」


 お母様の実家の名前を出して来たから関係があるのかと思ったら……ないのかいっ! 危うく口に出して突っ込むところでした。


「そうですか」


「オーデ侯爵家と交流があるなら、今回の話の立ち位置を説明するつもりだった。説明が無くても問題ない、という程度の立ち位置だと理解して欲しい。婚約の経緯で君に話せる範囲は、この婚約は、ラテンタール伯爵家の内情を調査するためのもの、と思って欲しい」


「内情、ですか」


 それはまた随分と曖昧な説明だな、と思う。

 内情と言うが、内情の何を知りたいと言うのか。

 例えば、父である伯爵、義母・異母妹の身辺調査でも内情だし、領地経営で引っかかる箇所があっても内情だし、可能性は低いけれど我が伯爵家の庭の調査だとしても内情だ。曖昧過ぎじゃない?


「もう少し詳しく言うと、伯爵家で雇われている、ある使用人についての調査」


 成る程。確かにそれも内情。それにしても、ラテンタール伯爵家で雇われている使用人、ねぇ……。


「何か心当たりが?」


 公爵様が静かに問いかけます。


「いえ、別に」


「いや、心当たりがあるのだろう? 君は今、何かを考えるように視線をオズバルドから外して彷徨わせた。人が考えことをする時の癖だ」


 えー、そんな心理学みたいなことを言われてもなぁ……。出来る殿方は心理学みたいなことまで出来るんですかね。観察眼が鋭いとも言うのか……。


「本当に心当たりがあるわけではないのです。ただ、母が亡くなってから五年以上。前伯爵の代から仕えていた使用人や、亡き母が実家から連れて来た使用人が何人も辞めていますから、新しく雇った使用人達は結構な人数です。恐らくラテンタール家の使用人の調査とは、その使用人達の誰か、を言っているのでしょう、と考えただけです」


「つまり、誰か怪しい使用人が居るとは分からない?」


 オズバルド様から再び質問されて、「ええ」 と頷きつつ補足する。


「というより、新しい使用人達とは関わりを持っていないので、誰が怪しいのかなんて疑う以前の状況です」


「使用人達と関わりを持っていない……? あれか? 自分の気の許せる相手以外は近付けたくない。若しくは使用人を人と思っていない、か?」


 オズバルド様が眉間の皺を深く刻んで更に問いかけてきますが、あれですかね、返答次第では私の高慢な鼻をへし折ろう、とか、そういう感じですか? 雰囲気として。


「発言の許可をお願いします」


 困ったなぁ……なんてのんびり考えていた私の背後からアズの声が聞こえてきました。緊張しているからでしょうか。とても硬い声音。


「いいよ」


 公爵様があっさりと頷き、アズは「では」 と切り出した。


「お嬢様は、使用人を人だと思わず、物のように扱う方では有りません。また、気の許せる相手以外は近付けたくないのではなく、近付きたくても近付けない、が正しいか、と」


 以上! という声が聞こえた気がしました。アズ、上手く答えてくれましたね。

 そうです、私は気の許せる相手も何も、殆どアズとしか過ごしてません。だって向こうが私に関わらないのですから。だから、使用人を物のように扱うも何も、そんな態度を取るつもりも有りませんが、取ることすら出来ないくらい、関わってないんだよなぁ……。


 結局、アズだけしか関わっていないのと同じ。

 ……やっぱり、ブラックです。アズとは雇用条件についてハッキリと話し合い、休みを与えないといけませんね。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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