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8-8 ロイスデン公爵家にて

「では、私の愛人になるかい?」


 その言葉にドキドキとキュンがすっかり消えて、真顔になりました。いえ、心境ですけど。それとも無表情になってますかね。公爵様の片方の眉がおや? という感じに跳ねてますし。


「遠慮致します。私を愛人にしても公爵様になんの利点も無いことが一つ。公爵様が奥様を妻として大切にしていることは社交に疎い私の耳にも入ってますので、その奥様を蔑ろにするようなことをしないと思うことが一つ。公爵様は恐らくご自身の敵に対して容赦しないお方だと思いますが、抑々は面倒ごとが嫌いだと思いますので、その気が無いと思うことが一つ。以上からお断りします。また、私個人の感情としても嫌ですから」


 率直に意見を述べましたが、内心ビクビクしてます。無礼討ちされても文句言えませんもん。でも私が死んだらある意味小説通りになりますね? どうあっても死ぬのであれば、公爵様に手討ちにされる方がいいかしら?


「ラテンタール嬢が嫌だと思う理由は、父親である伯爵が愛人を囲っていた上に母親の喪が明けないうちに愛人とその娘を伯爵家へ迎えたから、かな」


 やはりご存知ですよね、公爵様。何処までラテンタール家の内情をご存知なのでしょうか。


「社交界では有名ですか」


 私の質問にはニコリと笑うだけ。成る程。答える必要もない程……つまり殆どの貴族がご存知というくらい有名なのですね。


「そんな父親を見ているからこそ、愛人にはなりたくない、か」


「ただ闇雲に愛人を受け入れないわけではないです。政略結婚の相手を愛せなくて別に愛する人を作るのは仕方ないこと。感情はどうしようもないですから。妻との間に子が出来ず、親戚から養子をもらうか愛人を持って愛人に子を産んでもらうか。それはその家の考え方でしょうから、それについても何も言いません。ですが、配慮、というものは必要ではないか、と。配慮のない愛人生活など送りたくない、と思っています。公爵様の場合、奥様を愛していらっしゃるのかどうかは存じませんが、奥様を大切にしていらっしゃるわけですし、跡取りの問題も無用。そして公爵様が私を愛していらっしゃるとは思ってもいないので、私も別に公爵様を愛していないですし、見返りが無いのでお断りする以外、返事はないか、と」


 明け透けに物を言っている自覚は有りますが、公爵様自身にその気が無いのはイタズラするような子どもみたいな笑顔を浮かべた時点で分かりましたし、本来なら話す必要の無いこの王命による婚約の内容を聞かせてもらえると言うのは多分私のこういった所をお気に召してもらえたのだろう、と思うので自覚は有っても後悔はしません。


 ふふふ。

 笑い声が別方向から聞こえてきました。私の背後はアズなのに、別の女性の笑い声です。振り返る間もなく、その女性が丸テーブルの隣に立ちました。


 気品ある佇まいの女性。間違いようもなくロイスデン公爵夫人でしょう。

 細身な公爵様とは対照的に肉感的……特にまだ十二歳だけど細やかすらない胸の辺りの侘しい私とは比較するのも烏滸がましい、羨ましいくらいのボリュームあるお胸を持つ夫人は、白百合と呼ばれるに相応しい方のよう。

 肉感的な身体を持たれながらも楚々とした雰囲気。貞淑を現す百合の花が良く似合う方のようです。公爵様が大切にするのもよく分かります。

 赤みを帯びた金髪はまるで太陽のようで、キラキラしてます。公爵様とは別の意味でキラキラ感がありますね。癖っ毛なのでしょうか、毛先がカールしていて躍動感があります。更に目に力があるんですよね。パチリと合った薄い茶色の目は太陽の光を浴びると金色にも見えます。活き活きとしていて生きることを楽しんでいるようにも見えます。

 というか、これほど外見が薔薇の花か牡丹の花のような艶やかな見た目で白百合のような楚々とした雰囲気を持っているのが凄いんですけども。


「はじめまして、可愛いお嬢さん」


 その声を聞いた私の背中に何やら甘い痺れが走ったような気がします。此方も相当の色気の持ち主ですかっ。


「はじめまして、ロイスデン公爵夫人。白百合の君と伺っておりましたが太陽の女神だとは思いませんでした」


「あらあらまぁまぁ。わたくし、殿方にはよく口説かれましたけれど、こんなにも若くそして同性の方に口説かれたのは初めてよ」


 カーテシーをした私の下げた頭に驚いた、と言わんばかりの声が落ちてきます。その驚きが演技か本気かはさておき。この声を浴び続ける度胸は私には有りません。


 公爵様が一歩引いた所から鑑賞しつつ手駒になりたいタイプなら、夫人は全てを擲って尽くして手駒になりたいタイプです。自分で何を言っているのか不明ですが。

 どちらにしても私は手駒にされても文句などないな、と思わせるお二人です。お二人は絶対に敵と認定した相手を掌でコロコロと転がしまくって、相手の自爆を呼び込むタイプですね。分かります。


 ところで……公爵様が直々に現れたどころか、夫人までもこの場に現れましたね。もしや、この王命による婚約話ってかなり大きな裏がある、と見てもおかしくないのでしょうかね……。

 そして、その婚約話の裏側を、いつお話してもらえるのでしょうか?

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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