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番外編・2

その後の彼らの話を今日と明日お届けします。

ざまぁとまではいかないと思いますが、読み手次第でざまぁだとは思います。

「なんで……こんなことに……」


「お母さんの……せい、よ……」


 なぜこんな事になったのか分からない、と呟けば隣から娘の恨みのこもった声が聞こえてくる。それに返す気力も体力も無い。でも頭の中で考えることはまだ出来たから。


 ーー酒を提供する酒場の娘だった母。何人もの行きずりの男と一夜を過ごしたから父親は誰か分からない、と笑いながら私を産んだ。祖父母にあたる人は娘の身持ちの悪さを嘆きながらも生まれた私を母と共に育てた。皮肉なことに母は私を産んでようやく寂しさが消えた、と性根を入れ替えて私を育てることにした、らしい。

 でも多分、誰とでも一夜を過ごす母の性質を引いたのか、年頃になると私も気に入った男と直ぐに一夜を共にしていた。その上、私は野心があった。こんな平民街の片隅で燻っていないでイイ男を捕まえてやるんだって思ってた。

 そのチャンスは本当にやって来た。

 幼馴染と婚約したけれど恋愛の情はないとか言って身なりの良い男達が祖父母と母が経営する酒場に入ってきて婚約祝いと称して酒を飲んでいた。ウチで扱う上等な酒を次々に注文する男達はおそらく貴族だ、と思い近づいた。婚約した男というのは伯爵家の嫡男とかで、正真正銘のお貴族様だと知り、チャンスだと思った。

 酔った勢いと男をノセル技で結婚前から愛人の座を掴み、正妻が亡くなったら後妻に迎えられた。愛人になってからも他に男は居たし、なんだったら酒場に料理人としてやって来た男が本命で、その男との間に子どもが出来た。子どもが出来た時は伯爵とも他の男とも関わってなかった時期だから彼の子なのは間違いない。

 でも私が伯爵にあなたの娘よ、と言ったら大喜びして受け入れて。だから正妻が亡くなり後妻として迎えられた時に娘を連れて行っても何も疑われなかった。伯爵には正妻との間に二人の子がいて、跡取りは領地。娘は離れとか言われているただの小屋に押し入れられていた。

 あまりにも伯爵そっくりのブス顔で笑った。

 だから私そっくりの娘を可愛がったのだろう。娘と私は好きなだけ贅沢をさせてもらったけれど、伯爵以外の男に近寄れないストレスを伯爵の本当の娘に当たることで解消していた。暴言を吐いたし暴力も振るった。泣きそうな目で打たれる娘を見るとスカッとした。そのうち伯爵も私の娘も加わった。

 それでもイライラすること……特に昔からの伯爵家の使用人から伯爵夫人に相応しくないと蔑まれることが気に入らなくて、使用人をたくさん解雇して私の言うことを聞きそうな人間ばかり雇った。そのついでに本命の彼……私の娘の本当の父親を料理長として雇って。伯爵の目を盗んで彼と会うのは楽しかった。

 そうしてようやく伯爵家の中では私は夫人として認められたし、お茶会や夜会は伯爵より上の人達には挨拶くらいで近寄らないで子爵や男爵の夫人達をいびりながら夫人として認めさせていた。お金が無くなれば領地に増税して金を出させて贅沢をしていた。思えばこの五年程が幸せだったと思う。

 でも、そんな身勝手が王城の宰相とか偉い人の耳に入って調査されることになるなんて夢にも思わなくて。

 そうして“ラテンタール伯爵家の娘”と公爵家の子息との婚約が調った。それと同時に何かが狂い始めて、結局伯爵と私と娘は捕まった。捕まる意味が分からなかったけど、勝手に税金を増やしていたことは罪になることだったらしい。ついでに正妻の娘への虐めが暴かれ、おまけに私の娘が伯爵の娘じゃないことまで暴かれて、非公開裁判というこの国の法律にある裁判で有罪とされた。

 そしてーー

 平民どころか貧民にまで身分を落とされた私と娘は正妻の娘に対する慰謝料とか治療費とかで下水路掃除をすることで金を稼ぐように言われた。


「そんなっ」


 叫んだ私に各家の当主……伯爵より上の身分の人達どころか下だと見下していた子爵や男爵の当主でさえ、冷たい視線を向けてきて。


「貴族を舐めるなよ」


 声には出ない。けれどその言葉が聞こえてきた、ような気がして。ようやく敵に回したらまずい相手を敵に回したのだと知った。

 そうして牢に入れられた数日の間に本命の彼も同じ罰を喰らうことになったらしくて。同じ牢に入れられてからずっと彼に打たれ、蹴られ、髪を引っ張られる日々を送った。数日でも怪我だらけになったけれど碌に手当てもしてもらえず。

 痛む身体を無理やり引きずるように牢から出されて本命の彼と娘と三人で下水路清掃の罰を与えられた。


「お前みたいな女と関わり合いにならなきゃ良かった」


 本命の彼からも罵倒され。


「なんでこんなのが母親なのよぉ。あんたの言うことを聞いていたら幸せになるって言ったじゃないのよ、嘘つき!」


 娘からも罵倒され。

 なんでこんな目に遭わないといけないのか、全く分からない。

 でも監視がついていて逃げることも不可能で。仕方なく仕方なく最低限の掃除をしているフリをしていたけれど、兎に角臭いはキツイし暗くて空気は澱んでいるし、実家の酒場の方が綺麗だなんて思う日が来るなんて思わなかった。

 そしてそれ以上に。

 一度も振るわれたことのない暴力を男から、それも本命の彼から振るわれる日々を送ることになるなんて思わなかった。

 監視している者は逃げなければそれでいい、と思っているのか私が悲鳴をあげても助けに来ない。娘は無視。

 なんで?

 なんでこんな目に遭わないといけないの?

 私が何をしたのよ。ちょっと贅沢をしただけじゃない。

 そう思っても救いの手なんて無くて。

 けれどある日、彼からの暴力は無くなった。彼が行方不明になったから。

 一応、ここは仕事場で小屋を与えられた私たちは寝るためだけにそこに帰る。

 彼は私たち親子とは別の小屋を与えられていたけれど、ある日彼は姿を見せず、そのまま。監視が淡々とした声で行方不明になった、と告げて来た。

 娘が呑気に「えーお父さん逃げたのか。私も連れて行ってくれれば良かったのに」なんて言ってたけど、監視役がいるのに逃げたなんて信じられない。だけど彼は実際に小屋にも居ないし、下水路掃除にも来ない。……本当に逃げたのか。

 そう思っていた数日後。

 私と娘は体調が悪くなった。

 起き上がれないし声は掠れるし身体のあちこちがギシギシと痛むし頭も痛いし喉も腹も痛いし。

 急に一度にこんなに痛くなって体調が悪くなることなんてあるのか、と頭の片隅で思ったけれど痛む身体と怠い身体の前では消え去っていた。

 一度だけ医者が来たけれどなんだか面倒くさいと思っているような顔で、全く患者を診てくれる気が無さそうで。

 隣で寝転がる娘は私を恨めしそうに睨む。

 そして。

 なんだか分からない薬の投与を行われ始めた。

 ……結果、もう起き上がることどころか指一本動かすのも辛い、と悪化した。

 でも薬の投与が止められる事はない。

 ……どうしてこんなことになったのか。

 私はちょっと自分が幸せになろうとしただけなのに、と不満ばかりが募っていく。

 でも。

 それ以上にやっとなんとか出せる声で浴びせられる娘からの憎しみが胸に刺さる。

 なんで私ばかりが不幸なの?

 愛する彼にもその彼との間に生まれた娘にも憎まれるような事なんてしてないはずなのに。

 ……だけど私は知らない。

 この状態がこの後何年も何年も続いていく事を。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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